「費用対効果評価専門部会」、6月メドに議論開始

粒子線治療が候補、2014年度改定での試行的導入目指す

2012年4月25日 橋本佳子(m3.com編集長)


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 厚生労働省の中央社会保険医療協議会総会(会長:森田朗・学習院大学法学部教授)が4月25日開催され、「費用対効果評価専門部会」の設置を決定した(資料は、厚労省のホームページに掲載)。遅くとも今年6月末までには第1回の会議を開催、今年度は4回程度議論し、その結果を中医協総会に報告。2013年度はその議論を踏まえ、2014年度診療報酬改定で費用対効果を加味した評価の試験的導入に向け、具体的な検討を行う。粒子線治療などがその候補に挙がっている。
 
 専門部会のメンバーは、中医協からは支払側、診療側、公益側を合わせて計16人、さらに専門委員4人、費用対効果と医療経済の有識者を加えた計23人で構成。有識者とは、国立保健医療科学院上席主任研究官の福田敬氏、国際医療福祉大学教授の池田俊也氏、大阪大学教授の田倉智之氏の3人。

 2014年度改定に向けて、中医協では、(1)初再診料などの基本診療料のあり方、(2)技術、薬剤、材料の費用対効果、(3)長期収載品の薬価のあり方、(4)消費税負担――という四つの基本的課題を重点的に議論することになっている(『次期改定に向け、「四つの基本課題」を重点的に議論』、『「費用対効果」、次期改定から試行的に導入』を参照)。これらのうち、(2)の検討の場が、本専門部会となる。

 厚労省保険局医療課企画官の迫井正深氏は、「費用対効果については、かなり広範な検討、少し時間をかけた取り組みが必要なので、次回改定ですべてを取り仕切ることができないことを念頭に、スケジュールを組んでいる。薬価、材料、技術をすべて議論すると拡散するため、例示的に、具体的な技術について検討を進めていきたい。また、それですべてが決着するわけではないので、2013年度以降も引き続き検討する」と説明。

 具体的には、2012年度は、(1)医療保険制度における費用対効果評価導入のあり方に係る論点・課題(評価結果を保険収載の判断基準にするのか、価格評価に反映させるのか、評価対象は新規技術か既存技術か、評価はどんな組織が実施するのか、など)、(2)評価の手法における技術的な論点・課題(評価手法をどのように考えるか、データをいかに収集するか、など)、(3)2014年度改定での試行的評価の導入に向けた対象技術(これまでの議論で費用対効果を踏まえた検討が求められている技術を中心に検討してはどうか、など)――という3点を議論する。

 (3)で例示されたのが、粒子線治療。迫井企画官は、「費用対効果の根拠となるデータを入手するには、一定の時間がかかる。2014年度改定で導入すると仮定すると、かなり前倒しの段階で試験的に導入するターゲットを示さないといけない。従来から指摘され、費用対効果が議論になっている例として、粒子線治療を挙げた」とした。ただし、「専門部会はあくまでルールを決める場」(厚労省保険局医療課長の鈴木康裕氏)であるため、ルールを決めた後に、何らかの技術、薬、材料を費用対効果の視点から保険収載する際には、総会、薬価専門部会や保険医療材料専門部会に諮ることになる。

 以上のような進め方については基本的に了承が得られたが、健康保険組合連合会専務理事の白川修二氏は、薬価を決定する際に参照される5カ国(米国、英国、ドイツ、フランス、オーストラリア)における費用対効果の評価に関する資料を求めたほか、粒子線治療だけでなく、薬価、医療材料についても代表例について検討すべきだと提案。

 全国医学部長病院長会議相談役の嘉山孝正氏は、費用対効果の検討におけるアウトカム評価に当たっては、生命予後だけでなく社会的、哲学的な視点なども必要なことから、幅広く議論を聞く体制にすべきだと指摘した。

  今改定検証、10の特別調査のうち6つを今年度実施

 そのほか、中医協総会では、2012年度診療報酬改定の結果検証の特別調査として実施する計10項目のうち、6項目について2012年度に実施、残りを2013年度に実施する方針を決定した。今後、中医協内に調査検討委員会を設置し、調査設計、調査票の作成などを進める。

 6項目とは、(1)救急医療機関と後方病床との一層の連携推進など、小児救急や精神科救急を含む救急医療の評価についての影響調査、(2)在宅医療の実施状況および医療と介護の連携状況調査、(3)訪問看護の実施状況および効率的な訪問看護に係る評価についての影響調査、(4)在宅における歯科医療と歯科診療で特別対応が必要な者の状況調査、(5)医療安全対策や患者サポート体制等に係る評価についての影響調査、(6)後発医薬品の使用状況調査。

 白川氏は、「調査以外にも、レセプトで診療報酬改定の効果を検証する方法がある。明細書発行状況や一般名処方の動向など知りたいことがあるが、他の手段で何が検証できるのか、そのリストを出してもらいたい」と求めた。厚労省保険局保険医療企画調査室長の屋敷次郎氏は、「意見を聞きながら、整理をして提示するよう作業を進める」と回答。

 基本診療料の議論も基本問題小委でスタート

 4月25日はそのほか、中医協診療報酬基本問題小委員会も開催された。同小委員会は2009年12月18日以来の2年以上ぶりの開催で、委員長には総会会長の森田氏が就任(資料は、厚労省のホームページに掲載)。基本問題小委員会では、前述の4つの基本的検討課題のうち、「初再診料などの基本診療料のあり方」を議論する。

 検討の視点は、(1)コスト調査(コスト調査・分析の意義付け、原価計算の手法によるコスト把握のほか、基本診療料の検討に資する方法は何か、など)、(2)基本診療料の検討の目的・手段(望ましい点数水準・体系をどう考えるか、公定価格としての診療報酬のあり方をどう考えるか、基本診療料により提供される医療サービス内容は何か、など)、(3)医業経営データの活用(医療経済実態調査、あるいはその他のデータをどのように収集、活用するか、など)――の3点。

 全日本病院協会会長の西澤寛俊氏は、「私たちが要望してきたことが議論できるので、うれしい。これまでは根拠に基づかない改定が行われてきたが、今後はコスト分析に基づく改定が実施されることを期待したい」とコメント。

 日本医師会常任理事の鈴木邦彦氏は、「コスト調査をこれからどう進めていくかだが、そもそも今までの改定がどのような形で行われてきたのか。特に2010年度改定では、再診料がどのような形で引き下げられたのか。現状の決定の仕方を検証した上で、次に進むべき」と指摘。さらに、「コスト調査をすれば、すべて済むのではないと思う。診療所や中小の医療機関では、コストに基づいた経営は難しい。コストという視点だけでなく、地域医療を守るという観点からの評価のあり方も検討してもらいたい」と求めた。

 これに対し、白川氏は、コストという視点からの検討そのものに疑問を投げかけ、次のように述べた。「コスト調査をやる目的が良く分からない。一定の条件を決めて実施するには、5年くらいの期間と莫大な費用がかかると聞く。また、基本診療料のコスト調査を実施するには、入院基本料などを定義しなければならないが、今の状況では難しい。それなのになぜコスト調査を実施するのか、その目的が分からないと何度も言ってきた。確かに基本診療料は増減してきたが、最終的には財源をいかに配分するかであり、限られた財源の中での構成を切り替えるという話。パイを増やすことはあり得ない。そのために莫大な費用と手間をかけてやることは非常に疑問」。

 さらに、白川氏は、「診療側は、病院経営の視点から、コスト分析について語っている。その観点からの議論に参画することはやぶさかではないが、各診療報酬点数についてコスト分析することは反対。また、我々は、病院にかかった際には最低限、これだけの費用を要する。それに+αとしてかかるのが、特掲診療料という見方をしている。基本診療料は患者にとって何かという視点から考えてもらいたい」と述べた。基本診療料の議論は、入口から難航する様相を呈している。