意識レベルが焦点 症状複雑、解明困難か 「表層深層」
共同通信社 4月16日(月) 配信


 歩行者7人が死亡した京都・祇園の暴走事故は、てんかんの持病があった容疑者が、当時どの程度の意識レベルだったのかが焦点となっている。京都府警は「故意に暴走させた結果、人をはねた可能性が捨てきれない」として殺人容疑での立件も視野に捜査を進める。しかし、てんかんはさまざまな症状を示す複雑な病気で、専門家の多くは「当時の状況を解明するのは簡単ではない」としている。

 ▽疑問視

 12日午後1時すぎ、京都市中心部で軽ワゴンがタクシーに追突した。めりこんだ車体からバックして離れると、タクシーの脇をすり抜け、エンジンをふかし急加速した。

 路地のように狭い通り。猛スピードで数台の車の横を走り抜け、花見客でにぎわう交差点に突っ込んだ。

 車を運転していた会社員藤崎晋吾(ふじさき・しんご)容疑者(30)=死亡=は、年明けからてんかんの症状で通院。

 事故は発作が原因との見方が広がったが、府警は「完全な意識消失であの距離を走るのはほぼ不可能」と判断し、現場周辺の防犯カメラの解析や目撃情報など当時の状況の把握を急いでいる。

 てんかんに詳しい宇留野勝久(うるの・かつひさ)国立病院機構山形病院神経内科医長も「アクセルを踏んだり障害物を即座によけたりと、現実に即した対応をしている」とてんかん説を疑問視する。

 ▽硬直

 てんかんは100人に1人の割合で患者がいるとされる。専門家によると、一般に知られるように全身の強いけいれん症状を示すこともあるが、意識が薄れるだけで他人には自然な動きを保っているように見えることもある。信号待ちの際に発作が起き、気が付くと自宅のガレージにたどり着いていた事例もある。

 「硬直して受け答えができなくなることもあった」と藤崎容疑者の家族。約10年前に大きなバイク事故を起こし、当時のけがが原因とみられるてんかんの発作を起こすようになったという。

 赤松直樹(あかまつ・なおき)産業医科大准教授(神経内科学)は「意識がくもる程度のもうろうとした症状もあり、その場合はタクシーの脇をすり抜けることはできるかもしれない」とみる。

 しかし、独協医科大の一杉正仁(ひとすぎ・まさひと)准教授(法医学)は「血中濃度から薬の服用程度などは推測できるだろうが、事故時に発作が起きていたかどうかは誰にも分からない」と指摘する。

 ▽黙認

 「車の運転は、本人や家族に再三にわたり禁止すると言ってきた」。藤崎容疑者が通院していた病院の院長は12日夜、記者会見でこう強調した。

 ところが、藤崎容疑者は3月の免許更新時に持病を申告していなかったことが判明。日本てんかん協会も「社会的責任が果たされず、きわめて遺憾」との声明を出した。

 警察庁の統計によると、昨年発生した交通死亡事故のうち、てんかんに起因するものは5件起きた。「大事なことはきちんと申告して運転している人が損をしない、正直者がばかを見ない制度にすべきだ」(警察庁幹部)と、持病を申告しなかった場合の罰則強化に言及する動きもある。

 しかし、法改正や医者の助言だけでは現状は変わらないと指摘する声もある。てんかん患者を多く診てきた神経内科医は「運転を禁止すれば病院に来なくなってしまう患者もいる。本来は運転してはいけない患者でも、薬を飲むことなどを条件に運転を黙認することもある」と打ち明ける。

 てんかんであることを正直に職場に告げた結果、仕事を失う患者も少なくない。別の神経内科医は「カミングアウトが難しい社会の実情も変えていく必要があるのではないか」と訴えている。