インタビュー
◆Vol.2
地域医療人材の確保は短期と中長期、二つのフェーズで
2010年3月18日 聞き手・橋本佳子(m3.com編集長)

鈴木寛・文科副大臣は、「講座単位の医局制度は改めるべきだと考えているが、大学が地域医療への人材供給源の中心的な役割を果たすことは必要」と指摘する。
 ――まず地域医療を担う人材の確保について、そのお考えをお教えください。

 医師不足の問題は、二つのフェーズで考えなくてはいけません。医学部定員を増やしても、一人前になるには10年はかかるからです。

 そこで現下の問題解決策となるのが、今回の診療報酬改定。特定機能病院には約760億円の財源が充てられ、入院部門の改定率は約7%です。それに加えて、文部科学省の予算でも、大学・大学病院への補助金を約200億円増やしました(2009年度第二次補正予算と2010年度予算の合計で487億円)。両者を合わせて計1000億円弱のお金を大学に投入することにしたわけです。これにより、地域医療、そして地域の高度医療の最後の砦である特定機能病院の再生を図る。

 私は講座単位の医局制度は改めるべきだと考えていますが、大学が地域医療への人材供給源の中心的な役割を果たすことは必要。医師不足への短期的なソリューションはそれ以外にないでしょう。もちろん例外はあるでしょうが、メーンストリームはやはり大学による貢献です。

 さらに、病院収入が増加すれば、コメディカルや医療クラークを増やし、医師との役割の分担を進めることができます。また医師の診療科による偏在についても、今回の診療報酬改定で救急、小児、産科、外科などを重点的に評価したので、これで対応する。こうした方策を重ね、この10年を乗り切っていく。

 しかし、2025年に向けて、ファンダメンタルは悪化します。それに対して今回は早めに手を打っておかないと、また医師不足という二の舞を招くわけです。このフェーズ2が医学部定員増の話になるわけです。

 医師の需給をシミュレーションする際には、将来の数字を見据える必要があります。例えば今の医師養成数のままであれば、沖縄、埼玉、千葉、滋賀、神奈川などでは、2005年時点での患者数当たりの医師数を100とすると、2025年には80くらいになり、医療崩壊が一層進みます。医療圏別で見ていくと、まだ他にも大変な地域はあります。一方で、医師の男女比や年齢構成の変化があります。さらには学生や卒業生の動態などを各地域で見ていくことも必要でしょう。今、大学には「地域枠」がありますが、果たしてうまく機能しているか、卒業後、その地域に定着しなければ「地域枠」の意味はありません。オールジャパンでは「医師養成数1.5倍」という数字がありますが、地域ごとのシミュレーションをきちんとすることが必要でしょう。

 ――次に、政府の新成長戦略と医師養成の関係をお教えください。

 最近、基礎研究に進む卒業生の数が激減しています。数年前には東大でもゼロになったと聞いています。日本全体でも、研究の道を選ぶ卒業生は年間100人を割っているわけです。日本がライフ・イノベーションの分野で国際的に生き残っていくには、様々な学部出身者の研究者も当然必要ですが、MDから研究者になる方があまりにも少なすぎます。製薬企業の方からも、MD-PhDが必要だという声を聞きます。「今は人材不足でとても言い出せませんが、ライフ・イノベーションの観点から何とかしてほしい」と。

 こうした要因を踏まえ、民主党政権になり、「研究医療人材」を新しいファクターとして加えたわけです。その人材がどの程度、必要かを見極めていかなければなりません。

 さらに第三に、これも新成長戦略ですが、「アジア」を視野に入れているわけです。アジアに輸出できる付加価値として、日本の医療、医薬品や医療機器などの医療関連産業などがあります。日本の医療分野の技術競争力は、世界の中でも高い。病院の医療レベルも高い。一方で、コストは米国などと比べれば安い。技術競争力と価格競争力、この両方を持つ日本の医療サービスがアジアで受け入れられないはずはありません。医療は、環境と並ぶ、日本の成長浮揚の二本柱とされているわけです。アジアに社会インフラ的な産業を輸出する場合、鉄道、電力、情報インフラなどの中でも、有望株の一つが医療なのです。つまり、「国際医療人材」の養成が必要。

 以上のように、地域医療人材、研究医療人材、国際医療人材の三分野について、その需給バランスを考えていく必要があるわけです。

http://www.m3.com/iryoIshin/article/117449/index.html?Mg=69919fc095d542633e67b36a02865d72&Eml=84efd35f72e1ddac427f95699de9f9d8&F=h&portalId=mailmag

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