出勤途中でのこと
冬期講習へでも向かっているのかな
前から、リュックを背負った女子中学生が、小走りでやってくる
遅刻しそうなのかな?
彼女とすれ違いざま、かすかに、チャリンと音がした

私は歩みを止めず進みながら、でも、振り返ってみた
あっ!
鍵が落ちている
自転車の鍵らしい
あの女の子が落としたに違いない

「わー、どうしよう」と思っているうちにも、
彼女はどんどん先へ進んでいる
私が拾いに戻っても、その鍵を持ち、彼女を追いかけねばならない
果たして彼女との差は縮められるか
それも、おばちゃんの早歩きで
「ちょっと」
「ちょっと、待ってぇー」
「落としましたよー」とか叫びながら追いかける?
彼女の前には、地下鉄への降り口
彼女が下りる前に、私の声に気づかなければ
私も、階段を下りて、追い続ける?
私の職場とは逆方向へ?

まずい
ヒジョーにまずい

結局、私は、鍵を拾いに戻らなかった
瞬時に決断した
罪悪感に苛まれながらも、職場へと急いだ

帰りに、彼女は気がつく
鍵を失くしたことに気づく
自転車を前に、慌てふためく

彼女の窮地を、十分想像できる
そんな様子を頭に描き、私はジレンマにもがきながらも、職場に着いた

どうして、彼女を追わなかったのか
なんだかんだと、自分の胸の内で、言い訳ばかりした


年の瀬に、私は徳を積むチャンスを逃した
ダメな大人だぁ