堀河の太政大臣、身まかりにける時に、
深草の山におさめてけるのちによみける
僧都勝延
空蝉はからを見つつもなぐさめつ深草の山煙だにたて
〈古今和歌集 巻第十六 哀傷歌 831〉
++++【古今和歌集(片桐洋一著、笠間文庫)の訳】++++
お姿がある時には、魂の抜けた殻であっても、
何度も拝見して我と我が心を慰めていました。
しかし火葬の後は、それとてもかなわぬ。
せめて、深草の山よ、
煙だけでも立ててほしいものだよ。
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□□□□□□□【和歌コードで読み解いた新訳】□□□□□□□
(※『和歌コード』とは、直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。
この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った
しじまにこのオリジナル訳です。)
題詞;堀河の太政大臣、藤原基経が亡くなられた。
貴族の別荘地である深草の墓地に遺骨を納めてきた
その後に詠んだ歌
作者;僧都勝延
私は僧なので、
藤原基経の魂を、
現世からあの世へと移してきました。
彼の亡骸の面倒をみて、彼の魂を慰めてきました。
墓地のある深草の山に火葬の煙が立ちます。
生前、親密にしていただいた基経よ、
せめてあなたが亡くなった苦しみだけでも
煙と共に断ち切っておくれ。
□□□□□□□【和歌コード訳の解説】□□□□□□□
藤原基経は、藤原良房の養子でした。
この前の歌が、良房の死についての歌でしたね。
うつせみ;現世
うつ;捨てる
うつす;動かす
み;身。命
から;亡骸
みる;面倒を見る
なぐさむ;なだめる。ねぎらう
ふかくさ;貴族の別荘地
ふかい;親密だ
やま;墓
けぶり;火葬の煙。死。苦しみ。苦悩
だに;せめて~だけでも