だいぶ長い間、ほったらかしておいた衣類を捨てようと思いたった。

 

 古い物だから襟袖が変色しているものが殆ど。でも、綿のボタンダウンのカジュアルシャツがわりと綺麗だったから、洗濯してもう一度着ようと思った。買ったのは15年くらい前か。つけ置き洗いをしようと金盥に水をはって浸した。透けて見える胸ポケットの生地に何か透けていた。黒いそれは、出してみると真っ黒くて平たい、

 

ちいさな石だった。

 

 10年くらい前、離婚後で、下の娘がまだ「彼女の娘」だった頃、まだ2歳位だった。小さな人達は、決まって皆よく石を拾う。上の娘も、小さな頃はよく石を拾った。

 彼女もしきりに石を拾う。不思議に懸命に拾う。つい昨日動くようになったばかりの手と足で、何度も何度も腰を折りながら、幾つも幾つも拾う。ピョコピョコ、拾う。そして、拾った石を、

 

いちいちこ納品にいらっしゃる、こちらに。

 

僕は大人だから、小石など要らないのだ。でも、その小さな人は真面目な顔で納品しに来る。こちらも真面目に受け取らないと文句を言われる。

 

 そんな風にして僕が彼女から納品された小石が一粒、僕の綿シャツの胸ポケットに入っていた。背景と、その時の様子が頭に現れた。

 

手にとってニヤリとした。

声に出してアハハと笑った。

あーぁ、とため息をついた。

 

朝、皆がそれぞれに出て行った家の中。

親父は思い出に生きている。

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furuya

 当時家の外にあった、牛の首輪やかまど、リヤカーの換えの車輪が置いてある物置。

その奥にある道具棚のふたを開けると、長い間人に使われて、

テカテカになった樫の柄の、古いけれど良く研がれた鉈があった。

多分、祖父の代かそれ以前から使われていたんだと思う。

今度は、父の代になって父が研いで使った鉈。


 それを持ち出して使うと

「お前が使うと切れなくなるからダメだ。他のを使え。」

と父に言われた鉈。切れ味がよいのでよく持ち出して使った。


 道具箱の、下から4段目を開けると、必ずそこにその鉈が居た。

僕が使って出しっぱなしにしていたような気がした時もある。

でも、鉈は自分で歩いてカビくさい道具棚に収まっていた。

他の釘箱や鋸と一緒にそこに居た。

いつからそこにいる事にしたのか解らないけれど、何時もそこにいた。


今は兄の代になって改築されて、その物置も道具箱も無い。

あの鉈、どこにいちゃったかな。今もどこかにいるのかな。

時間があったら兄に尋ねてみよう。


…道具というと、僕はこの鉈を、何時も思い出す。