新しいクリニックのHPを開設したら、電話が通じないという連絡をいくつか受けた。

すぐに調べてみたら、もともと別の私の事務所で使ってなかった電話を譲り受けたのだが、その料金の未納が原因だったらしい。大変お恥ずかしい話だが、今は電話が通じるので予約の希望はお受けしたい。いずれにせよ、早速予約が入ったのは嬉しいことだ。

ゆとり教育は介護スタッフを増やすための陰謀ではないかと昔書いたことについての質問が来た。

確かに、これは悪い冗談である。ただ、そのくらい現在の介護職の人間の給料が安く、なり手がないし、すぐにやめてしまうために、高い失業率を維持しなければならないというイヤミで書いたつもりだった。

実際、介護業者に聞くと、景気が回復したらたちどころに人手不足になるし、給料を上げたらやっていけない(大企業が給料を上げるとつぶれるとか言いながら、自動車会社などが全部大黒字を出したのとは大きな違いで、本当にそうなのである)と非常に不安だそうだ。

そういう際に、ゆとり教育でどこの会社にも雇ってもらえないような低学力の人間を作ることが予防になるというジョークなのだが、もちろん、現場の介護スタッフには、たくさん知的レベルの高い人がいるし、お金より人間が好きでやっている人もいる。そういう人が不愉快な思いをされたとすれば、むしろ、介護職の人件費を上げてほしいというのが本意だとわかってほしい。

介護職が足りないのは待遇だけの問題ではないと思うが、待遇を改善しない限り大幅増は期待できないのも確かだ。

ゆとり教育で、むしろインテリ層が増えたのではないかというのはよくわからない。

実は、今書いている本でいろいろ調べる中で発見したのだが、TIMSS調査などで測られる基礎学力の低下は、ゆとり教育が始まった2000年代より、90年代のほうがひどかったようだ。

むしろ2000年以降は下げ止まっている。

おそらくは、98年に2002年からのゆとり教育のカリキュラムが発表されて以来、あちこちでそれへの批判が重なり、危機感をもった親が子供にドリル学習をさせたり、学校ぐるみで計算力を立て直したり、あるいは2002年ごろから百ます計算のブームが起こったから下げ止まったのだろう。

しかし、現実にはそうやって学力が高まった人が増えたのに、「下げ止まった」レベルにしかならないのは、ゆとり教育で普通に学校に通うだけの子供の学力が下がったことと相殺されているのだろう。

実際、そのころより、学力低下より、学力の階層分化が問題になっている。

さて、ゆとり教育は、これまであまりに基礎学力重視だったので、応用学力をつけようというのも趣旨の一つだった。

ところが、応用学力をみるPISA調査のほうでは、2000年、2003年、2006年と落ち続けている。

これは、特別に対策を立てなければ、ゆとり教育のカリキュラムでは、むしろ応用学力が落ちることも意味する。

ということで、質問の方のおっしゃるように、エリートといわれる人の層そのものが増えたとは私には思えない。

知識社会といわれる中で、使い物にならないかもしれない人間を大量に作るのはきわめて危険だ。中学2年生の41%が学校の外でまったく勉強しないという調査結果があるが、努力の習慣がない人がこんなにいるのは甚だ危険だ。

高齢者が人口の3割になるより、現役世代の4割が使い物にならないほうがよほど危険だということを肝に銘じてほしい。