「今年は戌年だし、愛犬家の西郷隆盛もドラマ化されるし、犬界史に関する記事がバンバン流れるかも!」と期待していたのですが、肩透かしを食らいましたねー。「西郷と犬」含めて7陳腐な焼き直しや考証放棄の思考停止ばっかりの中、一読の価値があったのは川西玲子氏(日本犬保存会東京支部)のペット誌連載くらいでした。あげく、愛猫界の方が盛り上がっているという始末ですよ。寅年じゃないんだから。

そろそろ期待するのは止めて、残り少なくなった戌年をのんびり楽しみましょう。

 

戌年を迎えた昔の犬界人はどんな感じだったのか、今回は昭和9年の戌年事情を御紹介いたします。

 

昭和9年

 

戌年と云つたからと云つて、別に犬にどうかうと云ふ関係はない筈であるが、しかし我等は戌年を迎えたことが、何んとなく犬界にとつて祝福されたやうな明るい感じを抱く。現に正月號の雑誌や新聞には、犬に関する記事や寫眞が盛んにのせられてゐる。それ丈けでも一般人に犬の認識を深め興味を呼んで犬界は高揚されるであらう。本誌も漸く第一年を終つて、希望の第二年を迎へることゝなつた。

今後は更に愛犬趣味によつて家庭に清新なる趣味の普及及び兒童の情操教育に役立てたいと思ふ。そのため本誌の内容は努めて明るく、又家庭向にし、特に兒童のために本誌から紙面の一部を割いて子供欄を作ることにした。又その目的を達成させるために税金の低減、野犬の取締り等に就いて一層の関心を持ち、善行犬の表彰等も何等かの形式で行ひたい。

一方犬の科學の發達奨励に全力を盡したい。犬種改良、蕃殖、訓練、飼料の問題、飼ひ方、衛生、殊に目下犬界人氣の焦點nなつてゐる軍用犬に就いても、幾多研究すべきことが残されて居ると思ふ。それらに就いて個人と團體とを問はず、献身的にやらうとする人達の續々として現はるゝことを希望してやまない。そして犬界は常に明るく朗らかであるやう、本誌は愛讀者諸氏の御指導と御後援を仰いで邁進する積りである。

白木正光・『犬の研究』巻頭言より

 

俳優井上正夫の描く昭和9年のお正月 

 

戌年と云ふのでこのところ犬、いや愛犬家は大もてゞある。美しい奥さんや令嬢のある愛犬家はパチ〃盛んにカメラに収められる。文章に多少でも経験のある愛犬家や有名人は、犬の原稿や話を頼まれ、一人で雑誌三つ新聞四つを受持つてフウフウ云つてゐる犬界名士も出て來ると云つた騒ぎであつた。その上繪葉書が又大變で、今年は勅題がないものだから新年の繪葉書と云へば専ら犬の繪である。

漫畫種、さては一笑の圖と云つて竹をくはへた犬の圖等、繪葉書屋の店頭は犬の繪オンパレードの観があつた。中には實物の犬の繪葉書を並べて、これが羽根が生えて賣れて行く。

一寸正月號の雑誌を見ても、婦人雑誌には大抵愛犬家の寫眞が載つてゐる。中で専門家が見て最もよく集めたのは婦人倶楽部で、ホイペツトの和田氏、マスチーフの次田氏、セントバーナードの阿部氏等は異色がある。婦女界の新派俳優の愛犬家のみはいさゝか単調、婦人公論の令嬢の方がまだましである。

又日の出の花柳壽満さんの犬をトーベルマンと書いたのは些か醜態だつた。

『戌年の新聞雑誌』より

 

彫刻家藤井浩祐氏の描く、昭和9年のお正月

 

益々の犬界発展を夢見ていた昭和9年の愛犬家たち。しかし次の戌年となった昭和21年、戦争で壊滅した日本犬界は焼け跡からの復興をスタートしたのでした。