第40話「鼓動」

その場にいた誰もが最悪の事態を予想していた。
しかし、幸七は立ち上がった。拓馬と七瀬は駆け寄って、幸七の肩を支えた。
「拓馬…」
幸七の声は小さく、掠れていた。
「しっかりしろ!!今、救急車手配してるから!!」
「…元輝…健一…誠也…大介…」
幸七は仲間たちの名を言い続けた。
「大丈夫だから…もうすぐ来るから…!!」
七瀬も言った。
「…七瀬…」
幸七は震える手で七瀬の手を握った。
「そこの柵に!」
拓馬が指示し、七瀬と拓馬は幸七を路肩に座らせて欄干に寄りかからせた。
幸七は只ひたすら大切な人たちの名を呼び続ける。
街灯に照らされた幸七を見た七瀬は驚いた。さっきは暗くて見えなかったが、幸七の顔には二枚目のマスクを割る亀裂のように血が流れていた。
「止血しないと…」
七瀬は幸七の額をハンカチで押さえた。
「…七瀬……七瀬!」
幸七は震える右手で七瀬の顔を撫でた。七瀬は止血しようと必死だった。
「……」
幸七は左手で七瀬の手を押さえ、右手で七瀬の顔を引き寄せて自身の唇と七瀬の唇を重ね合わせた。
幸七と七瀬は、時がゆっくりと流れるような気がした。
幸七は唇を七瀬の唇から離した。
「…な…な…せ…」
掠れそうな声で言った幸七は意識を失った。

事故から3日後、幸七は意識が戻らないまま入院していた。

ベッドの右隣には七瀬が座って幸七の回復を待っていた。七瀬は幸七の顔を見ては俯いた。

病室の戸が開き、拓馬と元輝が入ってきた。

「…意識は?」

拓馬が聞いた。七瀬は黙って首を横に振った。拓馬と元輝は言葉を失った。

それから少し遅れて、大介と誠也、健一がやってきた。

拓馬は無言だった。誠也と大介は拓馬の言いたかったことを察して黙った。健一は幸七の肩を掴んだ。

「…ふざけんなよ!幸七!!返事くらいしろよ!いつまでも寝てんじゃねえ!!」

健一は幸七を揺すりながら叫んだ。しかし、幸七の意識は戻らない。

健一は諦めたように目を背けた。すると、今度は七瀬が幸七の手を握った。

「こーちゃん前に言ったよね…私のこと『何があっても守る』って…」

七瀬は涙をこらえて話した。

「死んじゃったら…守れないよ…。」

七瀬の手に力が入る。

「私…こーちゃんみたいな強い人…こーちゃんしか知らないよ…」

こらえきれなかった涙が七瀬の目から落ちた。

「だから…目を開けてよ!!ねえ!起きて!!」

七瀬は幸七の腕に顔を伏せて泣いた。

次の瞬間、誰かの腕が七瀬の頭を撫でた。

「…マジかよ?」

健一が声を漏らした。七瀬が顔を上げると、懸命に七瀬の頭を撫でようとする幸七の左手があった。

「…こーちゃん?」

「……聞こえた。健一…拓馬……誰より七瀬の声が。」

「戻って来たか!」

拓馬が言った。

「ここで死んだら、ドラマチックな最期だったんだけどな。」

幸七が答えた。

「不死身かよ……。」

誠也が呟いた。

「どうやら俺は、簡単に死ねないみたいだ。」

「お前は何だ!?ウルトラマンか!?」

大介が言った。

「いや、幸七だからウルトラセブンじゃないですか?」

元輝が答えた。病室は笑いに包まれた。

 

後日、2人の警察官が幸七の病室を訪れた。

警察官によると、あの事故の責任はトラックのドライバーと村上が全て背負ったらしい。

しかし、幸七が速度超過をしていたことは庇いようがなかった為、幸七には退院から3ヶ月間の免許停止が言い渡されるとのことだった。

 

事故から2週間後、幸七は無事に退院することができた。しかし、母親からはガッツリ叱られ、父親からは殴られた。

 

それからしばらく、相模413チェイサーズ全員が峠に現れることは無かった。

 

しかし、チーム結成から5年が経過したある夜。

黄色のFD3SバサーストRに乗った2人の若い男が山伏峠に現れた。2人は、頂上で談笑していた。

すると、そこに真っ赤な後期型FDが現れた。グレードはタイプRSだろう。

「噂通りだな。山伏峠の伝説。」

バサーストRのドライバーらしき男が言った。

真っ赤なFDから降りて来たのは、あの男だった。

 

THE END