南地の夜話 其の四  フラワーショップ | まいどーおおきに 河内の樹々の独り言

ざわめく店内から階段を上がり外に出ると雨はすっかり上がり、暗い雲の間から月が濁った色で顔を覗かせている。

 

男は何処に行くあてもなく、ふらりふらりと歩いていると道端にフラワーショップが開いているのが見えた。花を買うつもりは無いが、店内から匂ってくる花の香りに誘われて一歩入ってしまった。二坪ほどしかない店の中には、胡蝶蘭や薔薇等の季節の花が咲き誇り、男に、おいでおいでをしている様に思えた。

店員は二人の女の子で、今では珍しいおさげ髪をしている。

 

ひと通り見たが、これといって何処かに持っていくつもりも無いので、店を出ようとしたのと入れ違いに、先ほど相生橋で見かけた女性が店の中に入っていった。

 

男は煙草を吸う振りをしてフラワーショップの前で立ちながら、聞いていると女はどこかのクラブのママらしい。中座に花を届けるようにテキパキと注文の花を頼んでいる。

 

しばらくして女が店から出てくるのを人待ち顔の振りをしていると、女のほうから声をかけて来た。時間は八時をとっくに過ぎている。

 

どうも先ほどは急にふりだしたのでこまりましたわ」

 

あまり親しく話し掛けてくるので興味をそそられながらも、話をあわせていると、

 

どうぞ店にいらしてください。雨降りの日は暇なんですの」

 

男は興味半分で聞いていたが、じっと女を見ると中々男の好みのタイプに思えてきた。

一見で誘われたのはうれしいが店に入ってボッタ繰られてはと思い、言葉を濁していると

女のほうから「八千円だけです、それだけ それ以上は頂きません」と言う言葉を信じて女についていった。二丁も歩くと女の店で、和風のかなり長細い店である。

 

女がさっき言った通り、先ほどの雨で客は男一人だけである。

店内には和装に鬘をつけた女性が四人とまかないの男一人だけである。何故か、まかないの男は背に丸八の半纏を着ている。 

男はやはりこの店は八千円では収まらないと思った。

テーブルに座るとすぐビールが出された。