南地の夜話 其の弐 相生橋 | まいどーおおきに 河内の樹々の独り言

川面にうつるネオンが、生あたたかい八月の夜風に、ゆらりゆらりとゆれている。

 

相生橋は道頓堀川にかかる橋で、日本橋より一本西、太佐衛門橋との間にかかる橋である。戎橋より人通りも少なくすこし暗い。男女の待ち合わせには好都合と思われるが、しかし、この橋で待ち合わせた男女の恋は実らなかった、と昔から言い伝えられている。

 

水商売ふうのすこし派手めの女が、橋の上から澱んだ道頓堀川をじっと見つめている。客と待ち合わせて同伴出勤であろうか?

年の頃なら三十半ば色白で、少しうけ口な下唇がたいへん色っぽく感じられた。

 

男は急ぐ事もないので、しばらく女の様子を見ている事にする。待ち合わせの相手はどんな男だろうか、現れるであろう相手をいろいろと想像をする。それよりこの女に興味が湧いてきた。

 

スナックのママか、どこかのクラブづとめであろうか、よく見ると化粧も着ているものも、まわりのネオンのけばけばしさから比べるとずっとおとなしく感じられる。もうニ、三十分にもなるだろうか、現れる人もなく、女はじっと暗い川の澱みに映ったネオンを見ていた。

 

その時、むっとした風が澱んだ川から吹き上げると同時に、大粒の雨がぽつぽつと振りだしてきた。

語り合っていたアベックや、通りすがりのサラリーマン達は思い思いの方行へ小走りに駆け出していった。

 

いつの間にか本降りの雨となり、女も姿を消していた。