いとはんのご乱行 その五 果物屋の青年 | まいどーおおきに 河内の樹々の独り言

いとはんのご乱行 その五 果物屋の青年

あの出来事からひと月が経とうとしていた、吹く風も次第に和らいでくるようだ。

市場にはほぼ毎日買い物に行っている、肉屋のご主人はあれ以来目を合わせようとはしない。
怒っているのか、いや獲物をとりそこなったショックでこちらを見ることが出来ないのだろう。

悔しさは痛いほど判る、私なら悔しさのあまり発狂しているだろう。

亜希は学校で同級生たちに、“危険なひと夏の思い出”を自慢しょうと思っていたのだが、自分が引き起こした事が原因でこのような結果になってしまったが、後悔などしていないのが本音だ。

次のお相手を探さなくっちゃと、今日も声をかけられるのを楽しみに、買物篭を腕にかけて市場に向かった。

果物屋さんに行くとおいしそうな桃が並んでいる、今年は未だ食べていない。
店の中をのぞくと商品棚の整理をしている人が見える。

小さな声で「こんにちは」と声をかけると、商品棚の陰から出した顔を見て一瞬目を奪われた。浅黒く焼けた肌、にっこり笑った口から白い歯がこぼれている。

亜希はこの人こそ私の探していた人だと勝手に思い込んだ。

夕方の市場は混んでいる、少しでも長く話したいと思うのだが客が次々とやって来る。
あきらめて帰ろうとするがまだ桃も買ってない。仕方なくもう一回りすることにする。少しゆっくり目に回った。
戻ると果物屋には他の客は誰もいなくなっていた。

「チャンスだ」こうつぶやくと同時に青年が声をかけてきた。

「おかえりなさい お待ちしておりました」ちょっとおどけた様にいう。

歯が白い、背が高い、笑顔が素敵、何をとっても非の打ち所がない。

亜希は舞い上がってしまっている。

今この青年に誘われたらと思うと、身体が熱くなると同時に身体の一部に異変を覚えた。

それは身体の奥底からぬるっとした体液が染み出したように感じた。