開京を出て、チェ家の本貫である鉄原(チョルオン)へ———。
警戒に警戒を重ねながらの道中だったが、何事も無く、俺達一行は、無事鉄原へ到着した。
ただ———
街の入り口には人だかり。
(俺の嫁取りを、歓迎してくれているらしい……)
寺までの道すがらも、決して多くはない街の者達が、総出ではないかという程に、両脇に溜まっている。
(少しは名の売れた、俺の嫁取りを歓迎して……)
「こんなに人が集まっちまったら、怪しい奴が紛れててもわかんねぇよ!」
護衛に加わっていたジホがボヤくのへ、
「分家の皆様には、街の方々を、きちんと認識管理をしていただくよう、お願いしておきましたが……油断なさいませんように」
ドンジュが、キリリと言うと、それを見たコモは、「おお、さすがドンジュだ。頼もしい事よ」と、眉根を下げ締まりの無い顔。
「名士の地元人気が凄いのは、いつの時代も同じねぇ」
馬車の小窓を開け、中からその様子を眺めながら、イムジャが感心するように呟く。
「祝ってもらえて嬉しいわね」と、俺を省みるイムジャに添いながら、俺も覗くように外を見……その手を握りしめる。
そして、返事の代わりに、手指を絡めてしっかりと繋ぎ合った。
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一旦寺へ入った俺達は、寺の和尚をはじめ、鉄原へ集まってきたチェ家の親族達の出迎えを受けた。
「おお……其方、ヨンか? 大きゅうなったな。まこと、大きゅうなった——」
真っ白な頭髪と髭をたたえた、祖父の弟にあたるチェ家の長老。
母を亡くした後、父と鉄原を訪れた折に、お会いして以来だ。
「お久しぶりです。ご無沙汰いたしました」
「おお、おお。無沙汰も無沙汰よ、まったく……いやいや、国の為に身を捧げてきた其方だ。ウォンジクもさぞ、誇らしい事だろう。のぅ、ウォンスク。其方も久しいのぅ」
コモも微笑んで頭を下げる。
「叔父上。お元気で何よりでございます。此度はヨンの婚儀の為に、ありがとうございます」
長老の他にも、父・ウォンジクの兄弟——俺の叔父達に、従兄弟達、その子ども達まで。
鉄原の一族総出だ。有り難い事だな……
顔合わせは後ほど改めて。まずは父母の墓へ——そう皆が動き出そうか、という時。
まだ歩き初めの幼子が、ととと…と、イムジャの前へ進み出て、ぽすん、と、そのチマに顔を埋めた。
「あっ、こら、ダメだよ!」
その兄か……慌ててその子を後ろから抱きかかえ、「申し訳ありません」と見上げたそこに、イムジャの笑顔があった。
イムジャは、しゃがみ込んで兄弟と目線を合わせ、
「可愛いわね。あなたの弟?」
「は、はい。最近歩けるようになったので、目が離せなくて」
「そうなの。頼もしいお兄ちゃんが居て、あなたは幸せね」
幼子の頭を撫でながら、イムジャは笑みを湛えて、2人の顔を眺めている。
俺はもちろん、おそらく周りの皆が、その様子を微笑ましく見ていると、
「ありがとうございます……天女さま」
そう言って、兄が頬を染めた。
あら……と、イムジャが俺とその子の顔を交互に見、目を瞬く。
「天女さまでしょう?ヨンおじさまの奥方さまになる方は、天女さまだと聞きました。とてもお美しく、ご立派な方だと」
「嬉しいわ……そう言ってもらえるように頑張るわね。今日はお出迎えありがとう」
イムジャ達に向けられる、皆の目が優しくて、俺の心もじわりと温まった。