台北に「小雪」という居酒屋があった。
日本人夫婦のまかなう飲食スナックで、裏通りにひっそり提灯を灯していた。
日本人夫婦のまかなう飲食スナックで、裏通りにひっそり提灯を灯していた。
なんでも、事情があって横浜から、夫婦は移り住んだのだという。
夜更けに案内されて、すすめられるまま、連れの客はカラオケで盛り上がる。
夫婦を眺めていた私は、「じゃ、ヤシノミをうたいま~す」と思いつくままに選曲。
直立不動で、唱歌よろしく「椰子の実」を歌い始めたのです。
1 名も知らぬ遠き島より
流れ寄る椰子の実一つ
故郷(ふるさと)の岸を離れて
汝(なれ)はそも波に幾月
流れ寄る椰子の実一つ
故郷(ふるさと)の岸を離れて
汝(なれ)はそも波に幾月
2 旧(もと)の木は生(お)いや茂れる
枝はなお影をやなせる
われもまた渚を枕
孤身(ひとりみ)の浮寝(うきね)の旅ぞ
枝はなお影をやなせる
われもまた渚を枕
孤身(ひとりみ)の浮寝(うきね)の旅ぞ
3 実をとりて胸にあつれば
新(あらた)なり流離の憂い
海の日の沈むを見れば
激(たぎ)り落つ異郷の涙
新(あらた)なり流離の憂い
海の日の沈むを見れば
激(たぎ)り落つ異郷の涙
思いやる八重の汐々(しおじお)
いずれの日にか国に帰らん
いずれの日にか国に帰らん
と歌い終わってみれば、この夫婦、目をマッカにしているではありませんか。
自分たちの足跡が歌詞と重なって、こみ上げてくるものがあったのでしょう。
新たなり「流離の憂い」・・。
私も思わず目頭があつくなって・・。
ーーーーーーーー
文学者の歌詞は深いものがあります。
文学者の歌詞は深いものがあります。
島崎藤村の「椰子の実」、北原白秋「からたちの花」
石川啄木の「初恋」などどれも、聴くたびに胸の琴線にふれはしませんか?
石川啄木の「初恋」などどれも、聴くたびに胸の琴線にふれはしませんか?
詞に込められた大人の「哀しみ」と「ゆらぎ」が伝わってくるのです。