「おまえの望むとおりにしようぞ」王は微笑を浮かべてそう答えました。
王は、若者を世話する係りで、司法長官のケイを呼びましたが、ケイだけはモードレッドを少しも気に入りませんでした(どうも虫が好かんってやつでしょうね)。

「食べものと寝床以外に欲しいものが無いなんて、間違いなく羊飼いの息子だろう、よもや騎士の息子なんてことはない」ケイはアーサーに聞こえないようにモゴモゴつぶやきます。

そして若者を台所に連れて行き、彼に「ボーマン(美しい手)」とあだ名をつけます。なぜって、モードレッドの手が大きくて不器用だったからです(ケイは皮肉屋でもあったんですね)。

そのあだ名が彼の呼び名となりましたが、ボーマンはあまり気にかけませんでした。彼は台所で黙々と働き、自分の胸の内を明かしませんでした。


さて、再びガウェイン卿に話しは戻ります。

彼は、緑の騎士との約束を忘れはしませんでした。万聖節(11月1日)に、緑の騎士を探す旅に出ました。キャメロットでは、みなが深い悲しみとともに、彼と別れの挨拶を交わしました。
なぜって、誰もが彼が生きて戻るとは思わなかったからです。

もちろん、ガウェイン卿自身が最も悲しい気持ちで一杯でした。
けれども、勇気をふりしぼり、一番立派な鎧(よろい)を身につけ、5つの枝に星が輝く紋章がついた盾と剣を携(たずさ)え、愛馬グリンガレットにまたがりました。続いて、グリンガレットを駆り立てて、矢のように城の扉を出て行きました。

数週間の間、沼とぬかるみを横切り、大きな川や小さな川を渡り、森や山の間をさすらいました。
ガウェインは、あの驚異の騎士に再会するべく、緑の礼拝堂への道をあちこちで尋ねましたが、無駄骨でした。

もっと悪いことに、ある日、ひどい吹雪に見舞われ、グリンガレットはどんどん雪の深みにはまっていきました。そして、騎手はというと、寒さで身動きが取れませんでしたが、それでも追跡をあきらめませんでした。

北ウェールズの荒涼とした風景にたどり着いたとき、彼はすぐにナラの深い森に入り込みました。時は、既にクリスマスの前日となっていました。

ガウェインは、もう長いこと生きた人間に会っていませんでした。彼が、もうこの森から決して出られないのでは?と絶望し始めた頃、ついに、広大な平原の只中にいました。

グリンガレットが立ち止まったとき、丘の上にそびえ立つ、威風堂々とした城が彼のかなた前方にあるのが見えました。その建物にたどり着き、ベルを鳴らすこと1回で、番兵は彼を中へ入れるため、跳ね橋を下ろしました。


すぐさま、使用人が飛んできて、馬から降りるのを助けました。そして、城主自らがその妻を従えて出迎えに来ました。彼は背が高く、がっちりした肩幅の男で、妻は、信じられないほど美しい女性でした。ガウェインは今までの人生でこのような美女を見たのは初めてでした。2人とも心からガウェインを歓待してくれているのがわかりました。

「どこからお出でくださったにしろ、歓迎いたします。
お好きなだけこの城に滞在してください」城主は言いました。
ガウェイン卿は、ため息混じりに、新年までに緑の礼拝堂への旅に戻らなくてはいけないと、返事をしました。

「礼拝堂へはここからそう遠くはありませんので、急ぐ必要はありません。身体を回復させるのに良いでしょう」
その言葉で、ガウェインは新年まで城に滞在することにしました。

彼はクリスマスシーズンを宴会などで、楽しく過ごしました。
城主たちは彼を城にいる他の騎士や貴婦人たちと同様にもてなしました。



さて、大晦日の前のある日のこと、城主は大きな宴会場でガウェインの隣りに座り、短い会話の後でこう言いました。
「明日、わたしは鹿狩りに出かけますが、あなたもご一緒してくれると嬉しい。
けれども、緑の礼拝堂での決戦のため、体力を温存するほうがあなたにとっては賢明なことなのかもしれません」

彼は一瞬沈黙しましたが、ガウェインがうなずくだけで、答えないでいると、再び話し始めました。
「ですが、城にとどまる必要はありません。森から最高のものを持ち帰るとお約束しましょう。その代わり、あなたにひとつお願いしたいことがあります。
この城で、あなたに贈られるもの全てをわたしに与えてください」

ガウェイン卿は、この取引きが随分と変なことに気がつきました。
なぜなら、この城で彼が贈れるものなど無いからです。

しかしながら、一瞬考えた後、彼は了解しました。
そうして2人の男は各自の部屋へ戻っていきました。

つづく