騎士たちは次々と落胆して、その女性から離れた。

すでに、宴会場にはあと1人しか残っていなかった。





その男はベイリンといって、身なりから察するに彼らの中で最も貧しかった。


「なぜあなたは試してみてくださらないのですか?」

女性は彼が座っているテーブルに近づいて行って尋ねた。





ベイリンは肩をすくめて答えた。

「こんなにたくさんの名門の騎士たちが失敗したというのに、私に運試しをしろと?」


しかし、彼はすぐにこう付け加えた。

「まぁ、あなたがそうおっしゃるなら次は私の番としましょう」





彼は立ち上がり、剣の取っ手をつかんで、各騎士が呆然と見守る中、いとも簡単に鞘(さや)から抜いてしまった!





「ありがとうございます、騎士殿」

美しい来訪者は微笑んでお礼を言った。




「これで、私もここに来た甲斐がありました。

さあ、剣を返してくださいな。

私にはまだ長旅が残っているのです」




「そんな、お嬢さん。私はこの剣を返しませんよ。

私が取ったものなんですから。

私に戦いで勝った者にしか、取り戻すことができないのが筋でしょう」








若い娘の微笑みは、不気味な冷笑に変わった。

「あなたは、私がアヴァロンから来たということをお忘れのようね。

もし、その武器を返さないのなら、ほどなく死んでしまうでしょう。

あなたは、他の人々に途方もない悲しみをもたらし、あなた自身にも死ぬほど大きな痛みを科すことになるでしょう」




「あなたは、俺が自分自身を責めさいなむとでも?

または、この剣で自分の首をはねるとでも言いたいのか?」

ベイリンはからかい半分に質問した。

「いやはや、いい加減にしてほしいものだ!」





「私は本気であなたに警告したかっただけです」

彼女は悲しげに答えた。


そして、長いマントをゆったりまとい、誰も気がつかないうちに、うっとりする香りを残して立ち去ってしまった。





この揉め事で、再びみなは呆然として、ベイリンも急いで出発する準備をしているのに注目した。


「あなた方の多くは、そしてあなたも、陛下、憤慨されているでしょう」

ベイリンは独り言のように言った。




「しかし、私のようにあまり裕福でない男には、この剣は命にも劣らない価値があるのです。

今後2度とこれと同じような剣を持つことはできないでしょう。


けれども、あなた方の注目を引くために、この剣を使って敵と戦おうなどと思っていないことはわかってください」





アーサーは、誰も彼の行為を非難する者なんていやしないと、むなしく励ましの言葉をかけてベイリンを引きとめようとしたが、

彼になるべく早くキャメロットに戻ることを約束させることはできなかった。





結局、その騎士は城を後にした。





つづく





ベイリンという騎士は後に、「二本の剣の騎士」と呼ばれるらしい、、、です。


そしてアヴァロンというのはアーサーが死後、あるいは大怪我をして治療のため、運ばれた幻想的な土地だそう、、です。


そんな霊験者みたいな女性相手に剣を返さなかったベイリンさん、なかなか肝がすわっています!