俺は見舞いに行くとヤツは1つのベッドの上にカンボジア人の男性と2人で寝ていた。


ちょうど勾玉のような形をイメージしてくれ。


ヤツが顔を横に向けるとカンボジア人の真っ黒い足の裏がすぐ目の前にある。


「お前もプロだったら体調管理も仕事のうちだろ?なんで1番大事なテストの日に腹が痛くなるんだ?」


「原因がよくわからないんです。細菌がどうとか言ってますが」


2人が寝ているベッドの下ではカンボジア人の家族が退院まで住み込んでいる。


ヤツらがカップラーメンを作って食っているらい。

さっきから下からラーメンの匂いがしている。


「よくわからないんじゃないだろ!せっかく2ヶ月頑張ったのにテスト受けれなかったら意味がないじゃないか」


今度は下からカンボジア人の妹みたいなヤツがシーツをめくって芋みたいなモノを差し出してきた。


カンボジア語で何か「食え」と言ってるみたいだ。


もらって食う。

まずい。


「とにかく退院したらもう一回テストを受けれるようにと頼んでやるから早く元気になって戻ってこい」


「はい、わかりました。ありがとうございます」


さっきとは別の子供が出てきてコオロギの佃煮みたいなやつを棒に差して「食え」と言ってきた。


さすがにこれは食えん。

ってそもそも何人下にいるんだ?


「いいな、今回は特別だからな」


「はい、感謝します」


このやり取りの後ヤツは1週間後に退院して再テストを受けることになった。


結果としてヤツはテストに落ちた。


すでに外人枠3人がアフリカ人選手に決まっていたからである。


「どうする日本に帰るか?」


「いや、帰りません」

妙に頑固だ。


「帰らないって今後どうするんだ?」


「サッカーをきっぱりやめてビジネスがしたいです」


この一言で俺とヤツの長い付き合いが始まった。