しばらくひげのことを書くことに決めた。
理由はこいつはキャラが立っているからだ。
私とひげが会うときはいつもゴキブリがいるような場末の酒場と決まっている。服装は小汚い「海辺」に近いラフな格好である。
なぜそんな場所にそんな格好で行くかと言えば別に金が無いからではない、何せ相手は長者番付5位のおっさん。とにかくひげと飯を食べるといろんなやつがやってきて「一緒に写真を撮らせてください」とベトナム民衆が群がるからとにかく会話にならない。ひどいときにはその店の店員や奥からコックまで出てきて写真をせがむ。とにかくうざい。なにがうざいかというと民衆ではなく「どうだい、おれはこれだけベトナム国民に愛されてるんだぜ!ふんふん」というやつのドヤ顔である。

ある日のこと
ここは場末の飲み屋でひげの会社の工場の裏。私たちの周りはあきらかにいろんな工場の仕事上がりのブルーワーカーばかり。壊れた机に壊れた椅子にやつと座っている。
「おーい、ビール2つ」とひげ
店員がなかなか来ない
「おーいビール!」ひげ
「はいはい」手な具合で姉ちゃんが奥からビールを持ってくる。
と2人の顔を見て「注文は?」小娘の無愛想な返事。
合格だ、この小娘はひげを知らない。街中のレストランではだいたいがこの瞬間に「写真を・・・」とくる。今日はゆっくり飲める。
「なんやらと、なんやらと、なんやら」ひげが適当に注文する。
海鮮の店で魚や貝、海老、カニなどが机に盛られていく。
結構の量を飲み食いした後小娘がやってきた
「勘定です」
「まだ終わってないぞ!」とひげ
「でもたくさん食べているので一度締めさせてください」みたいなことを言っている
「なんでだ、最後に払う」と不満そうなひげ
「あななたたち本当にお金大丈夫?」と小娘
我々の周りは大量のビールの空き缶と海老や貝の殻が散乱している。さすがに食い逃げの心配ゾーンに入ってきたのであろう。
「大丈夫!」とひげ
「ところで2人は何の仕事をしてるの}と身元調査を敢行する小娘
「おれはシクロの運転手、こいつ(私のこと)は新聞の配達員」とひげ
両方ともベトナムの最下層の仕事である
「今日は新聞がたくさん売れたから飲みに来た」と胸を張る私
「それより周りのこいつらはどこの会社だ」とひげ
「隣のドンタムの社員たちよ」と小娘
言外に「貴方たちとは身分が違うのよ」が含まれている
「ドンタムはいい会社か」とひげ
「いい会社よ、毎日たくさんの人が来てくれるわ」
「そうか、ビンというやつは来るか?」工場長の名前を聞くひげ
「来ないわ、なんでそんなことを聞くの」
「いやドンタムに私は入社したい」とひげ
「無理に決まってるでしょ、あなたたちみたいな汚い人が」と笑う小娘
「そうか無理か・・・」と下を向くひげ
「当たり前よ!それより勘定」と手を出す小娘
「これしかない」とポケットからくしゃくしゃな2000ドン(10円)札を出すひげ
「何これ」札を摘み上げる小娘
「なか(私のこと)、お前も出せ」とひげ
同じしぐさでくしゃくしゃの2000ドン札を出す私
合計4000ドンをつまみ、怒り心頭で店長を呼びに行く小娘
奥からおっさんが出てくる
「どうする気だ」とひげを知らないおっさんが迫る
(といってもせいぜい3000円くらいの会計)
「あとで友達が払いに来る」とひげ
「信用できん!いつ来るんだ」おっさん
「今呼ぶ」とポケットからIphoneを取り出してドライバーを呼ぶひげ
すぐに店の前に黒塗りのベンツが来てドライバーが降りてくる
驚くおっさんに100万ドン(5000円)私して同じく驚く小娘に同額のチップを払う
「ありがとう!おいしかったよ」と車に乗り込むひげと私

成金趣味と言われそうですがこんなアホなことをするひげが私は大好きです
ひげとの旅は続きます



ベトナム労働新聞に載ったおれとひげ