新年早々、こんなに暗いお話でごめんなさい。ゆるゆる陰陽語り、その十です!
いつのまにか10です!密度はバラバラですが・・・。
というわけで、焔舞を描きましたー(*^_^*)即興落書きクオリティ!塗りの雑さ!水彩でサササのサ!と塗りました。
表紙代わりに載せときます。。。ハクじゃないですよ?いろんな人に「ハクにしか見えない!」と言われましたが、焔舞ですから!
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29、誘い出し
「下等な鬼よ、お前たちは、人を喰いたいのだろう?」
焔舞が智臣を見据えて言った。講義の合間の短い時間。周りの人間に聞こえないくらいの声で単刀直入に訊く。
「なんだ、急に」
「人を喰わせてやったら、智臣様から抜けるか?」
智臣は馬鹿にしたように鼻で笑った。
「お前に頼らずとも、人などいくらでも喰らえるわ」
「――だが、霊力の高い人間は、そう簡単には喰らえまい」
焔舞の言葉に智臣、否、鬼がピクリと反応した。
「……その人間を連れてきたら、考えてやろう」
「連れては来られない。我が呼び出したところへ、出向いてほしい」
鬼が舌打ちをする。
「霊力が高いと言えば、あの女だろう。和気――」
「……そうだ。やはり気が付いていたか。祖に有能な呪禁師を持ち、本人もまた、隠してはいるが、高い霊力を持つ、和気珠緒」
鬼がにやりと笑った。
「良いだろう。わしらが直々に出向いてやる」
「……ありがたい」
珠緒が講義を受けていると、薬が保管してある部屋から微かな物音がした。気になり、講義がひと段落してから調べに行こうと考えていると、ふと智臣の顔が浮かんだ。薬を勝手に持ち出すような不届き者と言えば彼ぐらいしか思いつかない。
智臣は陰陽生という枠組みに収まりきらないほどの才を持っている。しかし、それをひけらかすようなことはせず、殊勝に、地道に学を積んでいくことを心掛けているようだ。一介の陰陽生が自分のずば抜けた才を披露するような機会もないため、智臣の底知れない能を知る者はまずいない。
唯一、その能を知っている者があるとすれば、それは彼の式を除いて珠緒のみだろう。
「どなたかいるのですか?」
薄暗い部屋の中に珠緒の声が静かに響く。静寂が一瞬だけ破られる。
「……気のせい」
講義を終え、見に来た部屋には誰もいない。戻ろうと部屋に背を向けたとき。
「……」
「……え――」
珠緒の目の前に、童水干を着た見覚えのある少年がいた。
30、疾走
「ねえ、やっぱり、少し気になるわ。昨日の……」
「それについては何も言わないぞ」
横に座る瑠樺の言葉を軽く一蹴して、月玉は庭に面した縁から立ち上がった。
「どこかに行くの?」
「ああ、少しな」
瑠樺が不安そうに月玉を見る。月玉は居心地が悪そうに瑠樺から視線を逸らした。
「もしかして、あの魚の式の子に関係あるんじゃない?」
瑠樺の的を射た指摘に月玉は内心どきりとする。しかし、ここで瑠樺を巻き込んでは面倒なことになる。
「さあな。何にせよ、お前には関係ない」
月玉はそう言い終わるか終らないかのうちに暁成の邸を出た。気にかけていたあの山の気に違和感を感じた。嫌な予感がする。
「あなた……」
珠緒が驚きつつもほっとした。智臣の式ということは、危険なものではない。
「今日は、早くお帰りになってください」
口火を切った焔舞が急かすような口調で言った。
「……え?」
「夕暮れ時までにはお邸へお帰りください。鬼が――あなたを狙っています」
珠緒が顔を険しくする。
「どういう事?また智臣が――」
「詳しく話している暇はありません。この辺りにあなたの気配があってはいけない。どうか何も訊かずに」
それだけ言うと、焔舞はくるりと踵を返し、走り去ってしまう。珠緒は腑に落ちないながらも忠告に従うことにした。彼が伝えてきたということは、智臣の関係だろう。最近、彼の気がおかしいとは思っていた。どうも陰の気が強いのだ。何か危険なことをしているのかもしれない。
自分がいては邪魔になる、ということならば、ここを去るのが最良だろう。
暁成は書庫で調べ物をしながら、なんとなく、最近の瑠樺の行動に違和感を感じることを考えていた。瑠樺は逃げてきたときに一つの玲瓏とした輝きを放つ玉を持っていた。今も、それを大切に、肌身離さず持ち歩いているらしい。
そして、時々、それに語り掛けるような仕草をする。それを不思議に思って訊ねようとしても、すぐに誤魔化されてしまうのだ。
(瑠樺が隠しているなら、変に探らないほうが良いか)
自分には関係がない、ということなのだろう。ふと、少し寂しいような気がしたが、それは自分勝手な思いだ。彼女の本当の兄や家族ではないのに、深入りをしてはいけない。
そんなことを考えていると、窓の外を誰かが駆けて行くのが目に入った。
(……あれは、智臣の式?)
それは、前に一度だけ見た童水干に禿の少年、焔舞だった。彼は脇目も振らずに必死に走っている。
31、泰山府君の応え
焔舞の様子は明らかにおかしい。また、彼から尋常ではない邪気が放たれているようで、暁成は彼を追うことにした。
「お前が、智臣の姿をした悪鬼か。気色悪い」
月玉は山に着くなり、智臣に出くわした。
時忘れ桜の下、この邪気の塊――鬼を封じ、智臣の魂を焔舞から取り出すための場所にのこのことやって来たことを鬼自身はわかっていないようだ。
「お前、焔舞ではないな。だが、人でも、妖怪でもない――否、妖怪か?」
智臣が苛立ち、低く唸るような声を上げる。だが、月玉は臆することなく不敵な笑みを浮かべた。
「我はな、妖怪だよ。死と最も近い、な」
月玉がそう言い放った時、彼の後ろから少年の怒声が響いた。
「月玉!そこを退け!」
月玉はその言葉を聞き終えないうちに後ろに跳び退った。
「――泰山府君は天曹地府を管領して閻羅冥官を摂行す――」
それと同時に甲高く凛とした、澄み切った声が辺りに響き渡った。
「――禍福を科定して寿命を増減す 仍て之を敬う者は福祚を得、 之に帰する者は寿命を保つなり――」
焔舞は唱えながら桜に近付き、「一枝おくれ」と言って手折った。鬼は圧倒されて動かない。
祭文が完成し、焔舞は桜の正面に位置された祭壇の前へ膝を着いた。
「泰山府君の神、どうか応えよ――」
最後の祈りを込めて焔舞は桜の枝を祭壇の中央に突き立てた。
その瞬間、辺りの空気が一気に重くなり、そこを中心に爆風が広がった。桜を軸にして地の国、泰山府君の司る世と通じる穴が穿たれる。焔舞はその衝撃に耐えるので精一杯だ。
まずい。このままでは――京が瘴気で覆われてしまう――
月玉が時忘れの桜に手を当て、泰山府君の司る死の世から流れ出す気を押し戻す。
月玉は死返玉の付喪神、即ち、死を押し戻す力を有している。地の国から溢れる瘴気を多少なら押し返すことができるのだ。時忘れの桜の気を取り込めば尚更のこと。
(だが――これ以上は――)
もう、止められない――そう思ったとき、木の影に身を潜めてこちらを窺う者が見えた。
暁成。魂振の力を持つ彼ならば――浄化の剣を持つ、彼ならば――。
だが、彼は今、剣を持っていない。しかも、剣を使う感覚、記憶を失くしている。しかし、ここは賭けてみるしかないだろう。
「瑠樺――応えてくれ――剣を――ここへ――」
魂振と神宝は心の奥深い所で繋がっている。必ず、言霊は相手へ伝わる。
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読んでくださった方、ありがとうございました!いよいよ泰山府君祭、はじまる―――のか!?
的な、ね。
そういえば、最近ショックなことが・・・。陰陽屋さんの新刊、『陰陽屋は混線中』が知らぬ間(12月5日)に発売されてたことです……。
面倒がって調べるのを忘れていたら、いつの間にやら・・・
でも、ひょっこり見つけると嬉しかったりもして、しかも、その書店の最後の一冊だったんですよ!
なんかあの平積みのとこ、やけに凹んでるなーーー、って見てみたら、「ウソオォオ○×※▲◇◎■*●▽~~~!!!」となりました(*^_^*)心境はだいぶ複雑。
とか、どうでもいい話をしているうちに眠気が……
ここまで読んでくださった方、本当に感謝いたします!
本年も、グダグダ更新の陰陽語り、よろしくお願いしますm(_ _)m



