書くののほんとに遅いんです。ごめんなさいm(_ _)m
いやいや、こっちより柳のほうが酷いから!はい、ほんとにその通りです。あれもう一行/年レベルです。
とかテンション低い始まりですが……
11です! 今回も意味不なまま始まり意味不に終わります。。。泰山府君さんは一回(に収まらないかも!?)お休みです。
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32、微かな希望
この場から瑠樺を遠ざけておきたかったが、京が瘴気に覆われてしまえばどのみち瑠樺も他人事ではない。
(頼む――応えてくれ――)
珠緒が邸へ戻ると、母は市へ出ているようだった。父はたしか大内裏で夜の警護をする宿直(とのい)だったはず。焔舞の忠告通り早く帰ってきたものの、やはり気になって仕方がない。
時刻はもうすぐ夕刻、大禍時。
珠緒には昔、姉がいた。頭が良く、邸にある本を幼い頃から読みふけり、殆ど覚えてしまったような姉だった。なかでも、姉は呪禁の書を好んだ。
珠緒が怪我をすると、いつもまじないで治してくれる、優しい姉。珠緒がその度にいつも、「姉上はどうしてそんなに上手におまじないを使えるの?どうしてそんなにおまじないが好きなの?」と訊くと、「ふふ、私に教えてくれる人がいるからよ」と言った。まだ幼かった珠緒はそれが誰かなどということは気にしていなかった。
ただ、少し羨ましくもあった。だから、昔、姉がよく一人でまじないを練習しに行く川岸までこっそり着いていったことがある。けれど、その“教えてくれる人”は現れず、姉は一人で練習していた。
何度着いて行ってもそうだった。そしてとうとう、我慢できずにそのことを訊ねてしまうと、姉は困ったような顔で「これは誰にも、母上や父上にも言ってはいけない秘密よ。私の師匠は、私の中にいるのよ」と言って微笑んだ。
その時は、よくわからなかったけれど、尊敬する姉が大切な秘密を自分だけに打ち明けてくれたことがとにかく嬉しくて、「絶対誰にも言わない」と誓った。
それから、月日が流れ、今から八年前、珠緒が八つの時、姉は目の前で消えてしまった。
その頃、姉は頻繁に「師匠が呼ばれている、黄泉に行ってしまう」と言っていた。あの川岸にいる時間も日に日に長くなり、両親も心配していた。
そして、心配になってまた、あの河原へ行ってみたのだ。そこで、姉はたった一人で泣いていた。普段、泣くことも怒ることも少ない姉が、嗚咽を漏らして、涙を滂沱と流していた。
そのまま、こちらに気付くことなく、彼女はどこかへと落ちていった。河原の地面から、白くて細い腕を掴み上げようとして失敗したようだった。
彼女はひたすらに声を上げていた。
「――勝躬、この方を縛らないで」と。
なぜだか、今、再び姉に会える気がする。あの式を追いかければ、その先に微かな希望がある気がする。
33、姉と師
「伽耶(かや)、また一つ、新しい呪いを覚えたのかい?」
優しく問う声に伽耶は小さく、自信なさげに頷いた。
「でも、たまに間違えるのよ。昨日も、これを珠緒にやってあげようと思ったのだけど、結局熱は下がらずじまいで……」
「伽耶の妹はまた感冒(かんぼう、風邪)に罹ったのかい?」
「ええ。昔から、病弱で、霊力はあるのに見鬼もないし。少し心配なの」
伽耶の顔に憂いが浮かぶ。それを優しく見つめている女性は、見鬼のないものには見えない。
「ところで師匠、まだ名を教えてくださらないのですか?」
伽耶が話を変えた。すると、女性は苦々しげに顔を顰めた。
「私は通りすがりの地縛霊だよ。それで、いいだろう」
「ですが、昔は生きていたのでしょう? それに、地縛霊は通りすがれません」
なお食い下がる伽耶に女性は溜息を漏らした。
「いつも、答えないと言っているのに」
「そう言われるほど、気になるんです」
伽耶は今日こそは訊きだしてやろうと鼻息を荒くする。それでも、頑なな女性に結局いつも負けた。
「学生、藤原勝躬、お前、魂振だろう?」
勝躬が渡殿で驚きながら振り返ると、呪禁博士である和気の才女と名高い女性が立っていた。
「……その言葉をどこで?」
魂振という言葉を知るのは、それに関わる者だけだと認識している勝躬からすれば彼女の言葉は聞き捨てならない。呪禁師になってからは勝躬の持つ神宝・八握剣の使い方を教えてくれた妖怪ともなかなか会わないし、魂振にはあまり関わっていなかっただけにその衝撃は大きい。
「決まっているだろう。私も魂振だからだ」
あまりに堂々と宣言する彼女に勝躬は驚きを隠せなかった。その存在を知らない者は魂振に理解を示さないし、知っている者は忌避するか、自分の利得目的で神宝を奪いに来る。それを彼女がわかっていないはずはない。
「もし、私がそうでなかったら……」
「そうだよ。魂振なら、神宝が本当に目覚めているのならわかるものだ。お前はわからないのか?」
博士が馬鹿にするように目を細めた。勝躬はむっとしたが、上司に楯突くわけにもいかない。だが、勝躬の葛藤などつゆ知らずに博士の表情が急に真剣そのものになった。
「八握剣を目覚めさせることができる者は今はお前しかいない。その方法を教えてやろうか?」
――剣に助けを求めること。そして、心から信じること。それだけだ。
博士が去り際に勝躬の耳元でささやいた。その日から、勝躬の中で一つの疑問が渦巻いた。
34、八握剣の目覚め
助けを求めるような事態が起こらねば、剣は目覚めない――ならば、そんな時は来ないほうが良いのではないか。勝躬はそんな自問を繰り返しながら、狂花の親木である時忘れの桜のもとを訪れた。
「狂花ーいないかー」
返事はない。まあ、常にここに居るわけでもないのだから、当然と言えば当然だ。
「お前、この桜に何用だ」
その場で引き返そうとした勝躬の背後から、威圧感のある低い声がした。その声には聞き覚えがある。
「あなたこそ、何をしにここへ? 呪禁博士」
振り返りつつ、博士から殺気とも思しき異様な空気を感じ取って距離を保つ。
「時を忘れる者を救いに」
「なら、私もそうです」
間髪いれずに勝躬が言い切った。博士が疑い深い瞳で勝躬を見つめる。
「……この桜に、助けられたことがある」
ぽつりと博士が言った。
「え?」
勝躬が驚きを隠せずに訊き返す。
「とても昔のことだから、きっと彼女は覚えていないだろう。でも、私たちの寿命は短いから、ほんの一瞬のことでさえ、忘れはしない」
彼女――とは狂花のことだろうか。あの妖怪が人を助けるなど――しそうだ。なんだかんだ言っても誰かを見捨てるようなことはできない。それが狂花だと勝躬は思う。
「だから、今度は私が彼女を――」
博士は少し話過ぎたと思ったのか頬をほんの少し赤らめて、踵を返した。
「私はもう戻る。お前も、長居し過ぎると喰われるぞ」
「喰われる?」
「ああ。時に」
そう言い残して博士は悠然と立ち去ってしまった。
(時に喰われる――どういう意味だ?)
それに「今度は私が」とは何のことだろうか。狂花が――喰われかけているとでも言うのか。勝躬はそんなことを考えるうちに不安になり、桜を見上げた。いつ見ても、花が咲かない時期でもどんと構えた姿は壮麗だ。
「小梢、夏苗、帰ったか?」
「はい」
「二人とも」
今まで何もなかったはずの桜のたもとに小さな人影が現れた。その横にもあと二つ、青白く光る子犬の影が顕現する。
「狂花様、言わなくてもよろしいのですか?」
「このままでは、桜が――」
二人が心配そうな声を上げると、狂花はふっと笑みを零し、印を結んだ。
――ノウマク サラバタタギャテイビャク サラバボッケイビャク サラバタ タラタ センダマカロシャダ ケン ギャキギャキ サラバビキンナン ウン タラタ カンマン ――
さらに三回、不動明王の火界呪を唱える。
「き、狂花様!」
二匹が弾き飛ばされ、桜の立つ丘から転げ落ちる。
35、蝕まれる桜
「もう、二度と来るな」
狂花が吐き捨てるように告げ、二匹が硬直する。
「……どうして……」
奏絵が呆然と呟いた。
「お前たちなど、鬱陶しいだけで何の役にも立たない。消え失せろ」
狂花が見下しながらぎろりと睨んだ。
「この結界の内には妖気を纏った者は入れない」
狂花はそう言うと身を翻して丘へ戻ってしまう。
「夏苗……どうする?」
「なぜ、なぜいつも一人で抱え込むのじゃ……」
二匹が声を落としてそれだけを言った。
「やれやれ。そんなことだと思ってたよ。二人を遠ざけた理由を聞かせてほしいんだけれど」
狂花が戻ると目の前に勝躬がいた。
「――っ! どうしてここに!?」
「会話を聞いていたんじゃないのか?」
「それがなんだと――」
「お前が何かを隠しているのは知ってたよ」
勝躬がふう、と溜息を吐く。
「時に喰われる――それはこの桜がってことか?」
その言葉を聞いた狂花の瞳孔がぐっと開いた。
「お前には関係ない!」
「いいや! お前の様子がおかしいのは十種神宝のことを話す時だ! 関係があるんだろう!」
勝躬が詰め寄ると狂花が一歩退いた。
「く、来るなあぁぁ!」
その叫びと共に黒く禍々しい陰の気が桜から沸き上がった。
「し、しまった」
肩に付くか付かないかくらい短い髪が音を立てるほど素早く振り返り、狂花は舌打ちをした。
「は、母上から離れろ!」
一喝するように狂花が悲鳴を上げると黒い気は一瞬で霧散する。
「……それが原因か?」
勝躬が鋭い目で桜を眺めつつ訊ねた。
「……ああ」
「禍気が溜まるから、神宝で祓いたい、と?」
「……もう寿命だということはわかっている。時忘れの桜の寿命は他の樹より短い」
それでも、母なる木を諦めることは難しい。
「この木が死んだら……お前も消えるのか?」
勝躬が真っ直ぐに問いかけた。その声は雪降りのようなシンとした静けさを孕んでいる。
「……お前は、それで厄介払いができるのだから――」
「違う。お前が消えたら困る奴がいるだろう? 下の方でまだ待っているような。それに、この桜が寿命というのは妙だ。早すぎる」
「それは――」
狂花が焦ったように言い訳をしようとする。
「前に呪禁博士を助けたそうだな。それと関係が――」
「お前には関係ない!! ……利用しようとして悪かった。謝るから、もう消えてくれ。消えさせてくれ」
狂花の言葉は始めは勇ましかったものの、後半は消え入るほどに小さかった。
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この話なしには泰山府君祭の話を続けられない理由があるのですが、それはまたいずれ。
ここまで読んでくださった方、ありがとうございました!!!






