ダチョウ倶楽部の上島竜兵さんのギャクである「クルリンパ」ではないが、自分の尾を追いかけるようにくるくる回り続けるワンちゃんがいる。尾追い（Tail Chasing）行動は一見 “あそび”のように見えるかもしれないが、エスカレートすると自分の尻尾をかじったり、ひどい場合は噛みちぎるケースもある。
なぜ尾追いをするのか?
過剰な尾追いの主な原因は以下のどれかである。
①学習した行動
②医学的な問題
③その両方
①飼い主の関心を求めるために学習した行動
犬にとって飼い主の注目を集めることは大きな喜びとなるが、犬がある行動をした後に、飼い主が何らかの対応をすることによって、「○○をすれば相手にしてもらえる」と不適切に学習することによって、その行為を繰り返すようになる。このように犬が飼い主の関心を引いたり、相手にされたいと言う欲求を満たすための行為を"attention-seeking behavior"という。わかりやすく言えば“かまってほしくてやっている” 行為である。
例えば相手にしてくれない彼の関心を引くための彼女の恋愛テクニックとして一般的な「仕事と私とどっちが大事なの？」と言うセリフの後にスネル作戦もある意味"attention-seeking behavior"かもしれない。
このような行動をとる犬や猫は、飼い主に相手にされたいという欲求が非常に強い場合が多い。
具体的なattention-seeking behaviorのタイプ
・尻尾を追いかけてぐるぐる回る
・吠える
・クンクン泣く
・鼻で軽く押す
・光や影を追いかける
・衣服を引っ張る。
・歯で軽く噛む。
・まるで足が痛いように足をあげる。
「仕事と私とどっちが大事なの？」と泣きついても、仕事を優先させ続ければ、彼女がそのセリフには効果がないと判断するように、飼い主の関心を集めるための行動であれば「無視」が効果的な場合がある。
例え、「いけない！」という対応でも問題行動が悪化する可能性があるので、報いないことが大切である。
②常同障害
「尾を追いかける」以外にも「足を舐め続ける（Acral lick dermatitis）」など、単純に同じことを意味もなく長時間にわたって繰り返す行為を常同行動という。
これは汚いものに触って手を何回洗っても不安が消えず、1日に100回も手を洗う人の強迫性障害(OCD)に相当すると言われており、犬では常同障害と言われる。
犬や猫の常同障害は実際に分かっていないことが多く、正確に定義されている訳ではないが、退屈、ストレス、不安、環境の変化などの精神的な原因で発生し、ドーパミン、セロトニン、GABAが複雑に関与していると言われている。ポメラニアン、パピヨン、チワワ、ジャックラッセルテリア、シェルティー、柴などが他の犬種より多いと言われている。
動物園の檻の中に閉じ込められたストレスフルなライオン達が、同じところを行ったり来たり繰り返す行動も常同行動である。
自験例
生後8ヶ月、女の子、チワワ
尾を咬んでしまうという悩みを抱えて来院。MRIで頭の検査をするが異常なし。試験的にGABAを使ってみると、徐々に効果を発揮し、2週間後に尾を追いかけなくなった。試しにGABAを止めてみると、やはりくるくる回ってしまうためGABA続投。
＜参考サイト＞
獣医動物行動研究会
Tail Chasing in Dogs
Clinical management of stereotypies in dogs
＜参考文献＞
Dodman NH, Bronson R, Gliatto J.Tail chasing in a bull terrier.
J Am Vet Med Assoc. 1993 Mar 1;20(5):758-60.
Luescher, U.A., McKeown, D.B., Halip, J. Stereotypic or Obsessive-Compulsive Disorders in Dogs and Cats. Vet Clin N Amer Small Anim Pract 1991; 21: 401-413.
Overall, K.L. Recognition, Diagnosis, and Management of Obsessive-Compulsive Disorders. Canine Practice. 1992; 17: 40 -44.
Yalcin E, Ilcol YO, Batmaz H.J Small Anim Pract. Serum lipid concentrations in dogs with tail chasing.2009 Mar;50(3):133-5.
