砲艦「南海」・「南進」 | 艦艇・船舶つれづれ

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旧帝国海軍および海上自衛隊の艦艇、海上保安庁の船艇、主に戦前の民間船舶を中心としたブログです。
「海軍艦艇つれづれ」からタイトルを変更しました。

 今回は、かなりマイナーになります。帝国海軍の類別では「特設砲艦」となっていたため、正式な艦艇ではありませんが、その姿は戦闘用艦艇そのものでした。

 その特設砲艦の名は「南海」および「南進」の2隻で、民間徴用船の特徴である船名の後ろに付く「丸」もありません。なぜなら、この2隻は当初オランダ海軍の敷設艦として建造されたものだからです。

 

 蘭領東インド政府に配備する敷設艦として、昭和16年にスラバヤで「ラム(Ram)」および「レグルス(Regulus)」の2隻が起工されました。しかし、昭和17年2月に大日本帝国軍が蘭印に侵攻するに当たり、3月に建造が進んでいた「ラム」は自沈、「レグルス」は船台上で破壊されます。

 スラバヤを占領した後、帝国海軍はこの2隻の活用を計画、「レグルス」は昭和18年4月からスラバヤで整備を開始、翌年6月に特設砲艦「南海」として就役します。

【要目】 

 基準排水量:2,400トン、全長88.0m、水線幅:12.7m、吃水:4.2m

 機関:ディーゼル×2、推進軸:2軸

 出力:4,800馬力、速力:18-20ノット

 兵装:45口径12cm連装高角砲×2、25mm連装機銃×4

(出典:Web「Royal Netherlands Navy Ships of World War 2」http://www.netherlandsnavy.nl/index.html

 

ガンカメラで撮影された特設砲艦「南海」

(出典:You Tube「HD Historic Stock Footage WWII Color - GUN CAMERA STRAFING PACIFIC」)

 

特設砲艦「南進」の艦型図

(出典:Web「Royal Netherlands Navy Ships of World War 2」http://www.netherlandsnavy.nl/index.html

 

 「南海」は就役後、スラバヤを起点に船団護衛等を行いますが、昭和20年に入ると戦局の悪化によりスラバヤ付近の警備に当たるようになり、7月16日に米潜水艦の雷撃により沈没します。

 なお、「ラム」を改称した「南進」は再整備を完了することはできず、就役することはありませんでした。

 

 連合国の艦艇を捕獲したものは、哨戒艇や砲艦など正規の艦艇籍に編入されたものが多く、本艦も見るからに「艦艇」の姿をしていますが、なぜか本艦は「特設砲艦」の籍に分類された珍しい例ですね。

 特設砲艦に与えられた艦名「南海」「南進」は、当時南方へ指向していた大日本帝国を象徴しているようで、大きさや見た目も艦艇と遜色なく、特設艦ではなく哨戒艇か砲艦として正規の艦艇籍にその名称を並べてみたかった気もします。

 

 ちなみに、帝国海軍には「南海」と「南進」の名を持った船が他にも存在します。

 1隻は三菱重工下関造船所で昭和16年3月に竣工した雑役船が「南海」と命名され、昭和17年4月に艦艇籍の運送艦「野埼」と類別・船名が変更されます。

 もう1隻は昭和15年に竣工した雑役船公称第4006号で、竣工直後に「南進」と改名されています。さらに昭和17年4月に「南海」と同じく軍艦籍の運送艦「杵埼」と類別・船名が変更されます。

 「野埼」は640トン、「杵埼」は910トンと小さな艦ですが、戦場へ食糧を供給するための冷凍設備を備えた艦でした。

雑役船「南海」(後の運送艦「野埼」)(出典:Wikipedia)

 

雑役船「公称4006号」(後の雑役船「南進」、運送艦杵埼)(出典:Wikipedia)

 

 いずれの艦も大東亜戦争中に喪失しています。

 運送艦については、詳しくはまたの機会で。