雨が降る。
しとしとと。
気分が晴れないのは天気のせい?
いや、違うだろう。
分かってる。
そんなのみんな分かってるでしょ?
僕も同じだよ・・・
最高の瞬間が終わった。
でも、それは昨日が終わっただけのことで、道は果てしなく続いてるんだってば。
始まったばかりの道なのに、どうしてこんなことが起こったの?
‘考えたって分かるものか。’
誰かがそう言ったように頭に響く。
僕らは朝を迎えた。
疲れた体をゆっくりと起こして、まだ半分夢の中。
誰となく次々と起きて来てリビングへと集まった。
テヒョンはお腹をかきむしりながら、リビングに入る寸前の壁に
もたれかかり、片目を瞑っている。
ジンはそのまま通り過ぎて、キッチンへ行きお湯を沸かし始めた。
ラプモンは少しだけ口を開けては深い溜息をつきそうに
ソファに座った。
ユンギ(シュガ)はジョングクのユラユラとした体をすり抜けるように
風を起こしてラプモンとは反対のソファに座る。
ジョングクは目を閉じたまま、立っていてホビ(J-HOPE)に手を引かれて
ソファに座らされた。
ジョングクはそのまま横に倒れて、ラプモンの膝枕を頂戴した。
ホビはそれを横目で見ながらユンギの横に座り、誰かを待っているように
廊下に視線を送る。
ジミンはいつまでも壁に寄りかかるテヒョンに声を掛けて
こちらへと呼んだ。
ようやく両目を開くテヒョン。
テヒョン:「んぁ・・・?」
ジミン:「こっち座れよ。こっちこっち・・・。」
テヒョンは唇をムッと上に引き上げて、懸命にジミンンを探し
ジミンを認識すると、ジミン目掛けてよちよちと歩き、
辿り着いた瞬間に、ソファにトランポリンするかのように跳ねて座った。
ジミン「った・・・」
テヒョンの体がジミンにあたった。
ジミンの声にテヒョンはチラリと見るだけで、
またソッポを向いた。
いつものことだとジミンは何も言わない。
ただ・・・この静寂はいつもと違った。
疲れた朝を迎えただけじゃない。
ジンが淹れた紅茶の香が、リビングを通ってテーブルに落ち着き
揺らめいている・・・・。
それ以外には、昨日精一杯やり遂げたステージで得られた筈の満足感が得られなくて、
満たされない何かに縛られたまま、雨が窓に張り付く瞬間の音だけが聴こえてくるような、
そんな静寂さだけ。
視線が急降下したままなのは眠いだけじゃない。
やっぱりみんな昨日ことがなんだったのか気になって
仕方が無かったのだ。
ジミン「なぁ・・・昨日の事・・・さぁ・・・。」
みんな一斉にジミンを見た。
ジミンは予想外に顔を上げたメンバー達に少し目を丸くして眉を上げた。
さっきまでの眠気はどこいったんだよ?
なんて思いながらも、話を続けた。
ジミン「昨日俺、何が何やら分かんないんだけど・・・誰か見た?」
首を振る中でジンがもどかしく口を開こうとしている。
テヒョン「俺は見てないよ。ずっと前だけ見てたから。」
ユンギ「後ろで何か動いてるってだけは分かった。でも、アレ何だったの?」
ホビ「わからん・・・・・マネージャーは?」
ジン「俺は・・・誰かが倒れてもめてる感じだったのは見たよ・・・。」
ホビ「マジでっ?それってどこでよ?」
ジン「俺達が歌ってる後ろで。」
ジミン「ってことはさ、ヒョン、ステージに上がったってこと?」
ジン「うん・・・なんでか俺もよくわかんないけど。」
テヒョン「でもそれってさ、ファンの子はよく見えてたってことだよね?」
ラプモン「ステージ近くの子ならね。」
テヒョン「それって・・・それってさ。ヤバイよね?」
ラプモン「ま、俺たちがどうこうできる問題じゃないから多分、社長がスタッフ集めて
会議してから事務所として発表するんだと思う。」
ジョングク「じゃぁ・・・何があったかってSNSにはとっくに上がってるかもしれないよね?」
ジミン「うん。でも俺、昨夜は怖くて見れなかった・・・。」
ジョングク「・・・・。」
ジン「まだマネージャーからも何も聞いてないんだ。それ見てもあんま信じるなよ?」
ジミン「分かってる。」
ユンギ「見ると混乱するかもしれないからほどほどにな。」
ホビ「だな・・・あることないこと尾ひれはひれ付くもんだしね。やぁ~ジミナぁ~
そんな顔しゅるなお~www」
ジミン「ぅあっ!やめてってば!!あぁ~・・・」
ホビ「なんだ?頭なら最初から寝起きの頭だけどっ?www」
ジミン「いやっ・・・そーいうことじゃなくって・・・。」
ホビは笑ってジミンの頭をグリグリと撫で回す。
やられっぱなしのジミンにみんな少しだけ、クスっとした。
ユンギ「じゃぁ~着替えっか。とりあえずな。ぅいっしょ!」
ユンギがよいしょとばかりに立ち上がって部屋に戻ると
みんなもそれに続いて着替えに戻っていった。
食卓テーブルの上には、ミルクとコーヒー、それから紅茶が少し
残っているマグカップがいくつか取り残されて、
部屋の香りがいつの間にかカフェになっていた・・・
それはまるで・・・・
それはまるで道をなくした僕らのようだった。
それはまるで・・・砂漠を歩くような途方もない道を探す方法だ。
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ガチャッ・・・・
誰かがドアを開けた。
「ヒョン!!」
勢いよくヒョンの前に出てきたのは他の誰でもなく僕だった。
「ジミナ・・・みんなもいるよな?」
「あ・・・はい。」
「じゃ、呼んで?」
僕はコクリと頷いた。
いよいよか・・・
あの夜の・・・あの明るかった夜の記憶を聞くんだ。
でも、背後はとてもとても深い暗闇が広がってたんだよね。
ヒョンはみんなが集まると、前置きもなく昨夜の話を話し始めた。
誰に調子はどうだ?とも聞かずに。
唾を飲み込んだのは誰だったのだろう?
でも僕は飲み込まなかった。
何も知らない僕はただその時を待っているだけ。
一体どんな物語が始まるのか、少しの緊張だけでそれは
とても他人事を聞くようにワクワクした気にも似ていた。
今思えばなんて僕は幼かったのだろうって思う。
自分には関係無いことだとさえ思っていたからだ。
そんな僕に神様は罰を与えたんだな・・・・
「昨日の事・・・一応話さなきゃな。」
「一応っ?・・・」
テヒョンがそう言うから、ジンは肘でつついた。
テヒョンはハッとするように真顔になり、口を閉じる。
「ステージで何かがあったのは気づいてるよな?」
「はい・・・。」
RMは言う。
するとマネージャーは静かに二度頷いた。
「実はあの時、ステージ近くにいただろうファンがお前らが歌ってる中、
ステージに上がって来たんだ。」
ジミン「俺、客席から誰かが上がってくるのは見えたよ。
実は目が合ってさ、何か大声で叫んでたんだ。」
テヒョン「え゛ぇっ!?そうだったの?そんなこと言ってなかったじゃん!」
ジミン「何がなんだか分からなかったからだよ・・・それに、ヒョンも何も見てないって
警察の人には言ってたろ?話がおかしくなるじゃん。」
テヒョン「そっか・・・んで?そのあとは?」
ジョングク「ジミニヒョンが見たんなら誰か他に見た人は?」
ユンギ「いや・・・前見てたから俺は見てないな。」
ホビ「俺も・・・ジミンの動きがなんとなく気にはなったけど、
分からなかったし、ステージに集中してたわ。」
ジミン「俺?俺の動き変だった?」
ホビ「うん・・・なんか・・・踊ってるんだけど、手を伸ばしてるような
動きしてたよ。そんな振りでもないのに。」
ジミン「ほんと?自分では気がつかなかった・・・。」
(マネージャーヒョン)
Mヒョン「それでな?実はもう一人ステージに上がってる人がいたんだよ。」
ホビ「マジでっ?!こぇぇ・・・何しようとしてたの?
俺たちに抱きつこうとしてたみたいな?」
Mヒョン「いや、そのもう一人ってのが恐ろしい奴だったんだ。
抱きつくなら強制退場だけど、そいつはサバイバルナイフを
隠し持ってたらしい・・・・。それに偶然気がついたもう一人の人が
警備員や観客を振り払って、押し倒してまでお前らを庇ったらしい、、、。」
全員が息を飲んだ。
ありえないことって現実に起こるんだ。
事件なんてそんなもんだろ?
だけど、身近過ぎて笑えなくて俺たちは凍りついた。
だってこんなに沢山人がいて、コンサートだぞ?
それに警備員だってスタッフだって周りを囲ってる・・・・
そうやってみんな同じことを考えてた。
ホビ「そっ・・・それで?その人はどうなったの?」
RM「警察行きだろ。俺達を庇った人は怪我とかしなかったんですか?」
Mヒョン「・・・・・・背中を刺された。でも、それよりも頭を強打したらしいんだ。」
ホビ「頭っ?!でも怪我は大したことなかったってこと?」
Mヒョン「怪我は・・・傷が残るかは分からないけどそれほど深くはないそうだ。
その人はお前らを庇うために手じゃ間に合わなくて、背中でナイフを
受けたらしい。」
ジョングク「そんな・・・俺達のファンが傷ついたなんて・・・。」
ジョングクは瞳に海を溜め込んでいく。
Mヒョン「はぁ・・・こんなことがあるなんてな・・・・それにその人はステージを続けて欲しくて
そいつをステージから引きずり下ろしたらしい。」
ジン「どうやって・・・怪我してるのに。」
Mヒョン「本当に気力だけかもしれない。自分の血で汚したステージを体をねじって
着ていた服で拭ったみたいだったって後でスタッフが教えてくれたよ。」
テヒョン「見てたのっ?」
Mヒョン「いや・・・。」
ジン「血の跡がそんな風だったのか・・・。」
Mヒョン「そう。でも、見ていたファンもそう言ってた。SNSで見た人が次々と
呟いてたのを見たんだけど、それが不思議なことが書いてあったったんだ。」
ホビ「不思議なこと?もうこれ自体が不思議な事だけど。」
Mヒョン「その子がさ、なんだか笑ってるように見えたそうだ。」
テヒョン「えぇっ??なんでっ!?」
ユンギ「笑う理由・・・・。」
RM「ステージ・・・?」
Mヒョン「曲が流れ続けたからかもって言ってた。お前らが歌い続けてたからかもって・・・
ファンらしいよな・・・。本当に愛してくれてるんだな。」
ジョングク「その人はっ!?俺、その人に会いたい!!会ってお礼言わなきゃ!!
そうでしょっ?ヒョン!ねぇ、そうするべきでしょ?」
ジミン「ジョングガ・・・落ち着いて。分かってるから・・・。」
RM「ヒョン、それで、俺達事情聴取とか受けるの?そいつは捕まったんだよね?」
Mヒョン「あぁ、その場ですぐ取り押さえられたけど、最初はどちらが犯人か
分からなかったんだ。」
ジン「なんでですか?怪我してるのに。普通怪我してる人が犯人なわけないじゃないですか。」
Mヒョン「庇った人はさ、最初警備員振り払ってるし、ほかのファンを押し倒してるんだ。
そうされた人は怒って、そいつが犯人だとか言ってる人もいるんだ。
ステージのことは一瞬で、よく見えなかったんだと思う。
それに揉み合ったせいか、犯人にも彼女の血が付いてたんだよ。」
ジン「えっ?彼女っ??庇った人って女性だったんですかっ!?」
ユンギ「俺もてっきり数少ない男性ファンかと思ってた・・・。」
ホビ「俺も・・・・じゃなきゃ取り押さえられないかなって。」
ジミン「俺は女性なのは分かってた・・・。」
テヒョン「えっ・・・?あぁ・・そっか、ジミンは目が合ってたんだもんね。」
ジミン「うん。」
ジョングク「そんな・・・女の子なのに怪我しちゃったのかよ・・・。」
ジン「ジョングガ・・・・。」
Mヒョン「最初は彼女はうつろになりながらも会話をしてたそうだ。
怪我に気がついたのは、それから彼女が倒れてからだったんだよ。」
ホビ「なんでっ?だって血が出てたんでしょ?!」
Mヒョン「俺もそれはなんでかは分からないんだ。だけど、怪我はしてるけど
どこ?って感じだったし、話してる間の数十秒は普通に見えたらしい。
俺もなんでだろう?って感じだよ。信じられないだろ?普通に会話してたなんて。」
ユンギ「気力だけでなんてありえんのかな・・・・でも、彼女はそうしたって事だよな?
でも、すぐ怪我が酷いって分かったんでしょ?」
Mヒョン「あぁ、倒れたからね。すぐに救急車を呼んでもらって、
運ばれたんだけど・・・・・。」
ジン「何?今どうなってるの?まさかっ・・・・。」
Mヒョン「いや、命に別状はないらしい。とにかく・・・病院へ行こうと思う。
お前らはいつも通りにスケジュールをこなしててくれ。」
ジョングク「ヒョン!!俺も行くっ!!連れてって!!」
ジミン「ジョングガ、それは無理だろ・・・。気持ちは分かるけど、そうしたいのは
みんな一緒だから。今はマネージャーに任せよう・・・なっ?」
ジョングク「・・・・・。」
唇を噛み締めたのは誰だろう?
ジョングク?
それともみんなか。
彼女の微笑みはそれが最初で最後だった。
取り返すことができるか・・・
その微笑みは何故消えたのか。
声は届かなくて。
それはまるで海に漂う、誰とも話すことのできないクジラと同じだった・・・・。