人は誰でも、自分だけのルールを持っている。
自分が自分でいる為のルール。それを破壊されると、自己が保てなくなる。
アイデンティティの崩壊。
自分だけの大切なルールを根底から揺るがされ、覆される。それはとてつもなく恐ろしい事だ。
吸血鬼ランプルール。
彼の事は、随分前にモーティから聞いていた。
曰く、「神聖な武器で傷付けられるのを望んでいるような節のある、烏のような男。道化然とした紳士」。
廃屋で遭った彼は、まさしく彼女の評する通りの性格だった。
慇懃で優雅な彼の振る舞いは、黴臭い廃屋には似つかわしくなかった。
舞踏会場や王宮にでもいるのが似合っている、そんな雰囲気。
あたしを「御嬢様」という彼の言葉が気に入らなくて。莫迦にされている気がして。
彼をなんとしても仕留めてやろうと、あたしは息巻いた。
聖なる白木の杭は、ヴァンパイアを確実に滅ぼす事のできるもっとも有効な武器のひとつ。
鞭で彼の身体を拘束し、それを彼の胴に突き立てる。
―――けれど、彼は死ななかった。
「雑種の弱点は、ここにはない」
そんな莫迦な。
信じない。信じられない。信じたくない。
心臓を突いても死なない?そんなヴァンパイア、聞いた事がない。
それに、彼は聖句まで紡いだ。おまけに教会に立ち入る事も出来ると!
あたしの常識が崩れ落ちる。
彼には沢山のダメージを与えた。傷を穿った。だけど、けれど。
―――完敗だ。あたしは……彼が最後に言った言葉。その意味さえ分かっていない。
遭遇者:ランプルール