1946年に英国のケンブリッジでロジャー・キース・バレットは、音楽に理解のある両親の下で少年時代を過ごす。ロジャー・ウォーターズはその頃からの友人だった。画家になる事を夢見ていたバレットは、64年にはロンドンに出てアート・スクールに入学。同時に旧友のウォーターズなどとバンド活動を開始。何回かのメンバーチェンジがあった後バンドは『ピンク・フロイド』と名乗り、流行最先端のクラブで独自な演奏を展開。やがてそれは音楽業界の注目する所となり…。

 

 プログレッシブ・ロックの雄として世界的な成功を収めたピンク・フロイド。だがそこには初代リーダーであるシド・バレットの姿はなかった。ピンク・フロイドを脱退した後の彼はソロ活動も尻つぼみとなり、70年半ばからは実家に戻って隠遁生活に入り06年に亡くなった。本作はそんなシド・バレットの軌跡を再確認しようとの意図で製作されたドキュメンタリー。ピンク・フロイドのメンバーとは古くからの友人で、アート集団『ヒプノシス』のメンバーとして、ピンク・フロイドのジャケットデザインを手掛けた事で知られるストーム・ドーカソンが監督を務めたが、13年に死亡。その遺志を継ぎ23年になって漸く完成した。ピンク・フロイドのメンバーも当然登場する。

「シド・バレット」と改名したバレット率いるピンク・フロイドは67年にレコードデビューしてアルバムも発表。シングル『シー・エミリー・プレイ』がヒットして順調なスタートを切ったが、間もなくバレットはドラッグ禍に巻き込まれてしまう。ポップスター的な活動も彼の思い描いていた物とはかけ離れていた。初の米国ツアー中彼が演奏に支障をきたす事を憂慮した他のメンバーは、友人のデヴィッド・ギルモアをサポートメンバーとして同行させる。結局ツアー中にバレットは脱退しギルモアが新メンバーになった。バレットはソロ活動を決意し、アルバムのレコーディングにはピンク・フロイドのメンバーも参加。だがバレットの精神状態は好転する事はなかった…。

 ピンク・フロイドのメンバー以外にも音楽仕事関係の人々、プライヴェートな友人や元ガールフレンドなど、かなり多くの人がシド・バレットについて語るシーンが延々と続く「映画」としては単調な構成。シド・バレットの動画的な映像が少な過ぎるのがそうなった原因ではあるが、ピンク・フロイドが音楽シーンに登場してきた頃の、英国ロックシーンの状況が判る映像は必須だった様に思う。ピンク・フロイドがシド・バレットをテーマにしたアルバム『炎』(75)のレコーディング中に、変わり果てたバレットが突然現れた逸話はスチール写真で再現されてはいるが、それ以外に従来のシド・バレットのイメージを覆す様な箇所があったか…という不満が残った。

 

ピンク・フロイド『狂ったダイヤモンド』

 

作品評価★★

(シド・バレットのファンが観たら満足するだろうけど、そこまで想い入れが無い人が観たら何だかなあと思われそうだ。隠遁後のバレットの生活も具体的には語られていなかったし、彼の世話をした実妹も口が重く、本音ではその頃の兄の事など語りたくもない風に映ったが…)

 

付録コラム~夕刊フジ休刊か?

 TBSのマンネリ番組『アッコにおまかせ!』来春終了情報がガセだった事を知ってちょっとガッカリしたんだが、今度は都内で発売されている夕刊タブロイド紙『夕刊フジ』が休刊との噂が飛び交っている様だ。ホンマかいな。

 東京在住の頃は、良く電車の網棚に置き捨ててある『東京スポーツ』『日刊ゲンダイ』『夕刊フジ』を拾い読みした。お前は乞食かと軽蔑されそうだが(特に女性に)、一般サラリーマンが好んで読む様なギャンブルページや株式などの財テク、健康情報などに全く興味がない俺は、せいぜいがスポーツや芸能情報ぐらいで全体の2割ぐらいしか読む頁が無い。それではわざわざ金を出してまで読む気は起きなくて当然であろう(と居直る)。

『東京スポーツ』の魅力と言えば、一時期トンデモ記事を平気で載せる新聞としてサブカル的な評判を呼んだ時もあったけど、やっぱりイチバンの魅力は創刊当時から載せているリアルタイムなプロレス情報。今では定着している「全面抗争」という煽り文句は、80年代に『新日本プロレス』と『全日本プロレス』が仁義なき引き抜き合戦を展開した時に、東スポ編集部が考え付いたワードだとも言われている。大昔は「猪木完全決着!」とかの見出しで必ずプロレス記事が一面だったが、さすがに今はそうじゃないみたいだね。

『日刊ゲンダイ』は巻頭の第一面が自民党批判(国会でマスメディアに報道規制を強いているのではと野党から追求された安部首相が「そんな事してませんよ。日刊ゲンダイを読めば分かるじゃないですか」と答弁し爆笑を取っていたのを記憶)、プロ野球シーズン中なら最終面のスポーツ記事は讀賣巨人軍批判と完全に編集フォ―マットが定まっているのが、俺的には良かった。一世風靡したが今は消息を聞かない芸能人にインタビューするコラム『あの人は今こうしてる』も好きだったな。

 でもって『夕刊フジ』は…と記憶を巡らせてみたが、実はどんな誌面だったか全く思い出せないのに我ながら驚いた。一応現在夕刊フジで連載執筆している人物の顔ぶれを調べてみたが、読んでもいいなと思えるのは演劇演出家&劇作家のケラリーノ・サンドイッチ(嫁は隠れ巨乳女優の緒川たまき)ぐらい。後は所謂保守系の論客中心の顔ぶれ。まあ自民党広報紙とも言われている産経新聞が発行しているタブロイド紙なので、色々と現政権には文句があるけど、取り敢えず選挙となると自民党に投票する、平均的な男性サラリーマン向けという事なんでしょう。端から俺みたいな世間の弾かれ者向けには印刷していないのだな。

 そう考えると『アッコにおまかせ!』と同じで休刊になってもさして惜しくない…なんて事を言ってはイケナイ。右肩下がりの活字媒体の超不況下で、伝統ある新聞が姿を消すというのはやっぱり淋しい事ではある。愛読とまではいかなかった夕刊フジ、それでも何とか持ちこたえて欲しいですね。