里枝(安藤サクラ)は夫と離婚後郷里に戻り息子の悠人と暮らしている。実家の文房具店に谷口大佑(窪田正孝)と名乗る男が頻繁に現れ、里枝と恋に落ちる。大佑は伊香保温泉の旅館の次男坊だが長男と折り合い悪く家を出て、今はこの地で林業に就いていた。数年後。二人は結婚し長女の花も生まれた。悠人も大佑に懐き幸せな日々を送っていた家族に悲劇が。大佑が仕事中に事故死してしまったのだ。葬儀が行われた後、大佑の実家から長男がやって来たが…。

 

 TVドキュメンタリーやCMの演出を経て『愚行録』(17)で長編映画デビューした石川慶の、4本目の劇場映画作品。18年に発表された平野啓一郎の同名小説の映画化で、山下敦弘作品などで知られる向井康介が脚色。ある男の死に隠された謎を解き明かすミステリー風な人間ドラマ。『愚行録』以来5年ぶりの石川作品主演となった妻夫木聡と、数々の話題作に出演してきた安藤サクラの共演。NHK朝ドラで主演を張り、映画では過激作『初恋』(20)などに主演した窪田正孝、生田斗真の嫁・清野菜名、眞島秀和、柄本明、でんでんなども出演。2022年度キネマ旬報ベスト・テン日本映画部門では第二位。その他多くの映画賞を受賞。松竹系で公開。

 しかし長男は遺影を見て弟ではないと断言。驚いた里枝は離婚の際世話になった城戸弁護士(妻夫木聡)に連絡。依頼を受け城戸は里枝の夫(通称X)の素性を調査。城戸はまず大佑の兄に会い弟が大阪に住んでいた事を聞かされ、大阪で大佑の元恋人・美涼に会うが、別れてからの大佑の行方は分からない。そんな時同じ事務所に勤務する中竹の情報で、戸籍交換ブローカーで大阪の刑務所に服役している古見浦という男と面会するが、小見浦はまともに取り合わないどころか、城戸が在日朝鮮人である事を見抜く。城戸は厭な思いをして東京に帰るが、後日事務所に小見浦から「曽根崎義彦」という名が書かれた絵ハガキが届いて…。

 

 別の名前を騙ったまま死んでいった男の素性を探る内に露わになるのは、不幸にして汚名を背負わされた男の苦渋の人生。本人には何の落ち度もないのがやるせない。そんな常に周囲の目を気にし生きていた彼が、全く縁のない土地での生活で見出した小さな幸せも、不幸な事故でフイになってしまう。でも残された家族が弁護士から聞かされた真相にショックを受けつつ、それから立ち直ろうとする姿には胸を打たれる。ただいつしかストーリーの主眼は事の第三者に過ぎない弁護士自身に移っていく。Xと同じ様に出自を隠す為に帰化し、妻との虚飾の生活を続けるしか術の無い弁護士の自嘲が、謎かけめいたラストシーンに顕れてると言える。

 

作品評価★★★★

(妻夫木繋がりもあって『愚行録』の姉妹編という印象もある。観終わって後味が悪いのも共通してるし。各々違う意味で今年話題になった真木よう子と河合優実も出演と、女優陣はなかなか豪華。だだ妻夫木の義母役が、往年のスター女優・池上季実子だとは気づかなかった)

 

付録コラム~鈴木みのるに「都民ファーストチョップ!」

 正直言って、もう俺は何年も前に東京都民ではなくなってるし、次の都知事に誰がなろうかなんてどうでもいい。ただあんまり…というか、小池百合子ははっきり好きではないね。できれば別の人になって欲しいが…。

 そんな俺に驚きのニュースが。小池百合子が『DDTプロレスリング』の『都電プロレス』に参戦、試合にも介入し「世界一性格の悪い男」と激闘?を繰り広げたとか。何でもありをモットーとしているDDTは、以前から「列車プロレス」を実施している。列車を丸ごと、或いは一両分を借り切り応募してきた中から選ばれた観客を乗せ、走る列車内で闘う。今回の舞台は都電という事で高木三四郎対鈴木みのるの試合に、各駅毎に乗り込んで来た色々な連中が試合に介入する…という流れ。まあ半分はコントの「面白プロレス」だが、それでもリングではない場所を有効利用して観客を退屈させず闘う高木&鈴木は、立派に「プロ」の仕事をしていると思うよ。

 だがDDTプロレスと現・都知事との繋がりなんて全く予想もしていなかった。どういう下交渉があって都知事の「参戦」が決まったのか? 謎だ。更に加えて今は都知事選の真っ最中。僅か16人しか乗っていなかった観客相手では選挙運動にもならんだろう。

 小池知事はオープニングから登場、「都電プロレス、スタート!」のオープニングコールまで担当。列車に乗り込みや否や、鈴木相手に「都民ファーストチョップ」(俺が勝手に命名)を叩き込むシーンもあり、最初の停車駅で降りたとか。短い間だが観客を愉しませたのは事実。今回は観客ファーストだったって事か。その後色んな奴が乗り降りして試合に絡み、フィニィッシュはお約束のゴッチ式パイルドライバーで鈴木の勝ち…という顛末だった。

 このニュースが報道されると、当然ながら「選挙期間にプロレスなんて。ふざけてる」的な批判がSNSで殺到し炎上。だが小池百合子がこの時期にこんな余興に参加した…という事は、今回の選挙戦で自分の勝ちがほぼ確定した故での余裕と考えるべきだと思う。悔しいけれど今回の都知事選タイトルマッチの勝者は、小池百合子女帝で確定だ!

 最低でも後四年は小池都政が続くのかと考えると、うんざりする人も多いと思うが、そんなの俺には関係ねェ~。