GSブームの最終兵器とも言えるバンド『オックス』は、関西で活躍していたローカルGSからメンバーをチョイスして68年に結成。結成当初は『ザ・フー』ばりにステージで楽器やアンプを破壊しまくるパンクバンド的な側面を見せる一方、ヴォーカルの野口ヒデトが歌唱中感極まり失神するパフォーマンスを披露。結局これが最大の売り物となり、レコードデビュー後はそれに煽られて会場のファンまでが次々と失神する騒ぎが社会問題化し、68年暮れにはオックスは大人気のバンドになっていた。

 失神と共にもう一つのオックスの特性は、フロントマンの野口ヒデトと同じ…否、それ以上の人気をオルガン担当の赤松愛が得ていた事。オックスはそんな、GSには珍しい双頭バンド的なイメージがあった。赤松愛はおかっぱ頭のナヨナヨした中性的キャラクターで、子供心にはちょっとキショい感じだったが、♂的な物をあまり感じさせない所が女のコ受けしたのかもしれない。

 68年5月にシングル『ガール・フレンド』でデビュー。3枚目のシングル『スワンの涙』とほぼ同時に12月に発売されたのが『オックス ファースト・アルバム』。カバー曲以外のオリジナル曲は全て職業作家の提供曲で、初めからメンバーの自主性を放棄している所がいかにもGS(笑)。シングル絡みの曲は全て売れっ子の橋本淳&筒美京平作。レコード会社の売り出しも、GSとしては万全だったと言える。

 

 アナログA面1曲目『ガール・フレンド』はデビュー曲、2曲目『花の指環』はそのB面曲。『ガール~』の演奏にはオックスの面々は関わっていない(これもGSだと恒例)。甘ったるさが強調された女泣かせの囁き系のラブソング。デュオ的にコーラスを付けてるのは赤松ではなくギター担当の岡田志郎らしい。

 

『花の指環』はオックス自身の演奏。演奏能力はまあほどほどだが、A面と比べると低年齢層を狙ったと思しき毒やいかがわしさが殆ど感じられない無難ソング。A面と対になあってる印象。

 3曲目『待ちくたびれた日曜日』のヴォーカルは赤松。ヴォーカルにも中性的なイメージが漂っている。休日に自分の部屋に恋人が訪れるのを待つ少年の歌で、間奏代わりの赤松の囁きが乙女殺し(笑)。何か付き合っている女がうんと年上ぽく感じるのは俺だけだろうか。

 4曲目『風の噂』は別れた恋人の死んだという噂を聞くという構成の詞。歌詞もアレンジも丸っきり歌謡曲の世界にどっぷり浸かっており、あまり若い女子受けする曲ではない様な気がするのだが。そんな事ミーハーファンには関係なく、キャーキャー言ってるだけで満足だったのか…。

 5曲目『実らぬ恋』は、明らかにヴォーカルは野口でも赤松でもない低音ヴォイス。結果的にGSというより当時ブームだったムードコーラスモードになっている。さすがにこの曲はステージではやらなかっただろうな…。センスが古い職業作曲家にやらせるとこういう曲になるという見本。

 A面最後の曲『夜をぶっ飛ばせ』はストーンズのナンバーの日本語ヴァージョン。実はストーンズこそがオックスの指標だった…というのは有名な話だ。イントロの引き摺る様なファズギターが凄い。演奏形態や簡素化した日本語詞などGSバンドの魅力が詰まった好カバー。ホントはこういう曲をレコード上でもどんどん演りたかったんだろうな…。

 

 

 アナログB面1曲目『ダンシング・セブンティーン』は2枚目のシングルで、オックスのオリジナル曲の最高傑作。ティ―ン向けに絞って書かれた詞が素晴らしいし『スタックス』を意識した?R&B調のアレンジもサイコーだ。『ガール・フレンド』のヒットの余韻が収まらぬ内に発売された為に最高チャート28位に終わったのが惜しまれる。郷ひろみがライヴとかでカバーしていたね。

 

 2曲目『僕のハートをどうぞ』はそのB面曲。これもA面と対になってる甘い系のラブソング(ヴォーカル・赤松)。タイガーズの『モナリザの微笑み』を彷彿させたりもする。でも赤松が唄うと全てツバメっぽい男の歌になってしまうなあ…。

 3曲目『オー・ビーバー』は、オックスの非シングル曲としては最も有名なナンバー。ステージでファンを失神に追い込む必殺チューンとなったのだ。センチメンタルに徹した詞なのに、恋人の愛称が愛嬌ある「ビーバー」というミスマッチと、赤松が演奏していると思われるチープなオ

ルガンプレイの妙…。これもGSのクレイジーな魅力が詰まった名曲。

  4曲目『涙にくれた瞳』は、エレクトーンの響きが印象的な、ちょっと古い感じのGSソングで『ザ・ブルー・コメッツ』を思い出してしまう。これも野口でも赤松でもない人がリード・ヴォーカルで、野口&赤松以外の人が唄うと凡庸になってしまうのがオックスのアキレス腱だった様に思う。

 B面の残りの2曲はカバーソング。5曲目『サイモン・セッズ』は米国のバンド『1910フルーツガム・カンパニー』1968年のヒット曲で、洋楽ながらオリコンチャート7位を記録する大変なヒットだったみたい。所謂典型的なバブルガム・ソングなのだが、稚拙な日本語詞のお蔭で何やら子供向け番組の提供曲みたいな奇怪な雰囲気に。手拍子がいい味出していりけど。

最終曲は『ビー・ジーズ』のヒットナンバーのカバー『ホリデイ』。お遊び風だった前曲とは違い、こちらは一応シリアスに唄い上げている。日本語詞の稚拙さは相変わらずだけど(笑)。でもそういうのがGSの魅力でもある。原曲に馴染みがないんだが「ピッ、ピッ、ピッ」と発音するスキャット部分は原曲にもあるのかしらん。やっぱり変だ。

 

 シングル曲に関してはさすがにプロフェッシュナルな物になっているが、それ以外の曲は手抜き感も否めないという、GSバンドにありがちな構成だが『オー・ビーバー』の様なクレイジーな曲や、カバー曲のやりたい放題のいかがわしさにGSならではの魅力を感じるのは俺だけではないと思うな。ただオリジナルのスタジオ盤としては、本アルバムがオックス唯一の作品になってしまった事に「GSブームの顕著な凋落」を実感せざるを得ないのは何とも…。