小学生時代の矢吹恵さん(左)と前田寛美さん(右)
以下、引用する。
※プライバシー保護のため、被害者以外の氏名はイニシャルに変更した。
★1995年(平成7年)7月31日付『朝日新聞(夕刊)』1面より
閉店直後に銃声?
八王子の3人射殺
駐車場に不審な車
東京都八王子市大和田町四丁目の「スーパーナンペイ大和田店」二階事務所で
三十日夜、女性従業員ら三人が射殺されているのが見つかった事件で、
午後九時の閉店後間もなく、現場近くで短銃を発砲したような音がしていたことが、
三十一日分かった。
また事件直後に、同店駐車場に不審な車が止まっているのが目撃されており、
警視庁八王子署特捜本部が関連を調べている。
(15面に関係記事)
調べでは、同店従業員稲垣則子(四七)のほか、
アルバイトの私立桜美林高校二年矢吹恵さん(一七)と
都立館高校二年の前田寛美さん(一六)の三人が射殺されたのは、
稲垣さんが知人の男性(六七)に迎えを頼んだ午後九時十五分から、
男性が車で到着した同九時二十五分までの十分間とみられる。
発砲のような音は、午後九時すぎ、現場近くに住む男性会社員(二四)が聞いた。
事件当時、現場の北西約三十㍍の公園で盆踊り大会が開かれていた。
この会社員は「花火の音かと思った」と話しているが、公園では花火は行われておらず、
犯行時間帯に近いため、特捜本部が注目している。
一方、不審な車は、稲垣さんを迎えに来た男性が、三十日午後十時ごろ見たという。
この男性は午後九時二十五分ごろ迎えに来たが、
稲垣さんが出てこなかったため、知人の女性を誘って同九時五十分ごろ再び来て、
三人の遺体を発見した。
最初に来た時、駐車場に車はなかった。
遺体発見後にあらためて駐車場を見ると、白い乗用車が一台止まっていたという。
また、同店は午後五時以降、店内には女性の従業員が二人しかいないことが分かっている。
閉店直後の短時間に犯行を行っているうえ、
金、土、日曜の三日分の売上金を集約する日曜日に事務所の金庫を狙った形跡があることから、
特捜本部は、犯人が下見するなどして、あらかじめ同店の事情を調べていたのではないかとみている。
★1995年(平成7年)7月31日付『朝日新聞(夕刊)』15面より
夜の凶弾 恐怖と憤り
担任「まさか身近で」
バイトの是非問い 父母から電話殺到
「なぜ、こんなことに」。東京都八王子市の「スーパーナンペイ大和田店」で、
従業員とアルバイト高校生ら三人の女性が射殺されて一夜明けた三十一日朝、
遺族と友人たちは、やり場のない悲しみと憤りに震えた。
夢を持ち、生きようとしていた女性たちの命を奪った犯行。
高校生の半数以上がアルバイトを経験しているともいわれるだけに、
教育現場にも深刻な衝撃が走っている。
殺された矢吹恵さん(一七)と前田寛美さん(一六)は大和田小、八王子第一中の同級生だった。
矢吹さんは東京都町田市常盤町にある私立桜美林高校の二年生。
夏休みに入り、三十一日朝、同校に通う生徒は少なかったが、
事件のことを知って重苦しい雰囲気に包まれた。
担任のA・M教諭(四七)は「アメリカに留学する生徒もいて、
事件に巻き込まれないよう心配していたが、
まさか、生徒が射殺されるなんていうことが日本で、
このすぐ近くで起きるなんて思いもよらなかった」と声を震わせた。
矢吹さんは明るくて、おちゃめなところもあるかわいい生徒、という。
今月七日から十一日まで修学旅行で沖縄に行き、ひめゆりの塔を訪ねた。
矢吹さんは修学旅行委員として千羽づるを作る係を担当。
「目立たないけれど、任されたことはきちんとやる優しい生徒でした」とA教諭。
将来は好きな英語を生かした職業につきたかったという。
矢吹さんと同じクラスで、クラブ活動のため登校してきた女子生徒(一六)は
「今朝、母から事件を知らされた時は頭が真っ白になりました。
矢吹さんは肌が白くて体が弱そうに見えたけど、話すと、とっても楽しかった」と語り、
涙が止まらなくなった。
О・N校長(五九)は「人生のある子がこういう形で一生を終わってしまうなんて残念」と話した。
同校は原則としてアルバイトは禁止しており、
特別な事情のある場合だけ学校に届けを出した上でアルバイトを認めていた。
しかし、四月から月一-三回働いていた矢吹さんからの届け出はなかったという。
矢吹さんの自宅は、スーパーナンペイから歩いて三、四分の都営アパート。
閉店時刻から一時間たっても帰宅しないため、
心配した母親が母親が迎えに行って事件を知った。
一夜明けて、兄の会社員Kさん(二二)は
「妹は夏休みに中学時代の友達と遊びに行くのを楽しみにしていた。
事件については何と言っていいのかわからない」
と、ぼう然とした様子だった。
◇
前田さんが通っていた八王子市館町にある都立館高校の職員室は三十一日早朝から
「クラブ活動をするため子供が今日学校に行くが大丈夫か」
「アルバイトをしているが、やめさせたほうがいいか」
などと、事件を知った父母からの電話が鳴りっ放しだった。
対応に追われ、徹夜のため、目を真っ赤にはらした職員もいた。
同校は同日朝、全学年の教師を招集し、S・Y校長を中心に、
今回の事件を踏まえての対応を協議。
夏休み期間中にアルバイトをしている生徒はそのまま計画通り続けさせるとともに、
近く、全校集会を開くことを決めた。
同校によると、前田さんはクッキング部の部長を務めており、
今年九月の文化祭には食堂を開く予定だった。
クラブ活動の合間に、八王子市内の老人ホームを訪問したりするなど、
ボランティア活動も熱心だった。
無遅刻、無欠席。学校の成績も良かった。
N・K教頭は「非常にまじめな生徒。事件に巻き込まれたのだろうが、憤りを感じる」と話した。
アルバイトについては、学校に事前の届けは出ていなかった。
同校の規則では、アルバイトの職種や時間などを考慮したうえで、
アルバイトを許可している。
前田さんは両親、姉の四人家族。
スーパーナンペイから約四百㍍離れたところに住んでいた。
三十一日朝、父、Hさんは、急を聞いて駆けつけた■■前田Tさん(四六)に
「信じられない」と言ったきり、口をつぐんだという。
Tさんによると、寛美さんは、子どもが好きで、保母になりたいと話していたという。
※義塾注。■■の箇所は印字が消えている。
文脈から察するに「兄の」か「弟の」と書かれていたと思われる。
つまり、前田Tさん(四六)は前田寛美さんの伯父か叔父であろう。
◇
稲垣則子さん(四七)は約十年前に夫と離婚し、八王子市内のマンションで一人暮らしをしていた。
スナックを経営していたが、昨夏、店を閉じ、スーパーナンペイ大和田店で働いていた。
稲垣さんはスーパーで働くかたわら、在宅介護士になることを目指して
東京都の養成講習を受けていた。
知人の男性(六七)は「六月に資格取得に挑戦したが、その時は取れなかった。
『九月にもう一度やってみる』と張り切っていたのに」と声を詰まらせた。
引用、終わり。