鬱子が音を上げた。 -2ページ目

鬱子が音を上げた。

くだらない短編小説をのろのろ上げて、結局音を上げてます。


私、こと日和は座席について溜息を零した。

あと10分もすれば朝のSHRが始まるだろう。右手首にある腕時計を見て思った。周囲の学生は楽しそうにお喋りをしている。

昨日あったテレビを話題にしたり、授業前にある小テストを話題にしていたりする。

皆、短いスカートに綺麗な髪。真夏の季節だと言うのに、日に焼けず真っ白な肌を惜しみなくさらけ出していた。そう、ここは女子校。男子の居ない華々しい教室の一つである。

数人でグループを作っていた女子数人のうち。一人、長い黒髪を風に揺らしながら、私の前にまでやってきて声をかけた。


「日和、おはよう」


「あ、瑠夏。おはよう」


声をかけてきた瑠夏は高校で初対面だった。

しかし、面白い位に気が合い、今では親友、と行った所だ。愛らしい容姿に誰にでも平等に接する親しみの良さから、彼女の周囲にはいつだって誰かが居る。何故、そんな彼女が私を気に入ってくれたのか今でも分からない。

一番前列の席に座る私の隣りの席は空白。そこに瑠夏が腰かける。先程のグループの女の子たちはいいのだろうか、ほっといて。心配そうに日和が瑠夏越しに後ろを見る。数人の女の子たちは心配そうにこちらをちらちらと振りかえっていた。だが、瑠夏が戻って来ないのを確認したのか、少し疎ましげに私を見てから談笑に戻って言った。

あの瞳。いつ見ても、良いものじゃない。二の腕に鳥肌が立っているのに気がついて、宥めるようにさする。それに気が付いたのか、瑠夏は不思議そうに目を丸くした。


「なぁに、こんな真夏だっていうのに」


「色々あるのよ」


呟いて鞄から教材を取り出す。SHRが済んで、5分もすれば一限目が始まるだろう。確か、古典だったはず。振り返って黒板を確認すれば、確かに古典であった。教科書やノートを引っ張り出していると、隣の瑠夏が溜息をつく。訝しげに顔を上げてみれば、唇を尖らせる姿が目に入る。


「折角人が話しているのに…」


むすっとした態度。しかしそれは本気のものではない。彼女は寂しがり屋、例えるならうさぎだろうか。死にはしないが。兎にも角にも構ってもらえなかったのが不満だったらしく、机にうつ伏せになる。そんな姿を一瞥してから、授業の準備を済ませる。その間、瑠夏は一言も言わずに私から顔を背けるようにし、左を向いていた。


「瑠夏」


声をかけて瑠夏の前に立ち、頭を撫でる。そろそろと此方に顔が向く。その顔はどこか不満げでありながらも、ようやく構ってもらえたのが嬉しいらしく口元がわずかに緩んでいた。

可愛らしいその姿に此方の頬も自然と緩む。

きっと私と同様。他の人たちもこの表情に魅了されて、瑠夏のことを親しんでいるのだろう。

さらさらの髪の毛を指先で弄りながら、ふと。頭の中に黒い影が落ちる。睫毛を伏せて、気持ちよさそうに頭を傾ける仕草。唇から微かに自分の名前を呼ぶ姿にざわり、と頬毛が逆立った。


ああ、またこれか


呆然と自分を客観的に見つめて思う。

心臓がとくとくと不規則に血液を巡らせる。妙な高揚感が全身を覆い、それと同時に侮蔑と不快の念が脳を満たした。

二の腕が先程とは違った意味で鳥肌がたつ。もう離れなくては。

隙を窺ってそっと瑠夏の髪の毛から指先を離す。離す際に緊張のあまりぶる、と手が震えたが、目を瞑っていた瑠夏はそのことに気がつかなかったようだ。

しかし、突然髪を撫でる感触が無くなったことを不思議に思ったらしい。

パッと目を覚まして、こちらを見上げる。それはまるでおもちゃを取り上げられて、一瞬何が起こったか分からない、子供のような表情だった。

純真無垢。無邪気。

悪意のないその瞳に、自分が移る。邪なことしか考えていない、不純。


まるで、さながら悪魔のよう。


悲しげに顔をゆがめる自分が見える。それから慌てて顔を逸らし、自分の席に着く。タイミングを合わせたかのように担任が入って来て声をかける。瑠夏はしばらく何か言いたげにこちらを見つめていた。その視線が交わらないように、俯く。

瑠夏は立ち上がって、自分の席に戻ってきた。入れ違いのように、隣りに座る誰か。多分隣りの席の山中さんだろう。いつも右隣からする香水の匂いが漂って来て、どうしようもなく安心した。





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ちょっと休憩させてくだはれ…


ということで短編。



苦手な人はごめんなさいですが、うーん(´-~-`;)




傘那。//







暗闇に包まれていた商店街に朝日が昇り、徐々に全貌を表していく。

大和は眠気に負けそうになる瞼をなんとか押し上げて、寒さに軽く身震いした。

真夏とはいえ、朝は流石に肌寒い。吐いた息が微かに生温かく、大和の二の腕を滑った。



大和はあれから、商店街の路地裏の奥に隠れて一晩過ごした。

お世辞にも清潔とは呼べないコンクリートに腰を降ろし、魚や肉と言った腐臭を嗅ぎながら。

エナメルバッグを抱き締めるように抱え込みながら、体育座りをした大和は眠気を堪えてひたすらに大通りを眺めていた。

母がまた虚ろな目で包丁を手にして、ふらりふらりと歩いてくるのでは。そう思っていた。

しかし一晩、誰もいない商店街の通りを見つめ続けても母らしき姿は見えず、徐々に明るくなっていく町の様子しか見えない。



「眠い…な…ぁ」



一度口に出してしまえば、あっという間に睡魔が脳を襲った。

次第に視界が虚ろになっていき、頭がコクコクと上下に揺れる。

今にも意識が落ちてしまいそうになり始めた時。



「ギャア、ギャアギャア、ギャア」



黒い影が頭上を飛び交って空に舞い上がった。ハッとして顔を上げればいくつもの黒い羽がはらはらと目の前に落ちて来た。逆光に照らされた鴉が群れをなして空を飛び交う。

その光景をぼんやりと眺めながら、大和は溜息を吐いた。突然の鴉の鳴き声に脳がはっきりと冴えてしまい、今更眠りにつくことはできそうにない。



「外に、出てみるか」



関節を鳴らしながら立ちあがり軽く伸びをする。

みし、と背中から音が鳴るのを聞きながら、息を吐いた。

昨日半日走りまわって風呂にも入らなかったため、体中が汗でべたついていた。

シャツが貼りつく感触に不快感を覚えながらも、のろのろと路地裏から外に出る。

朝日が眼前に差し込み、目を細めた。



大和は頭だけをそっと出して周囲を見渡したが、人影一つ無かった。それもそのはずだろう。おそらく今は早朝の6時頃だろうから。

ふう、と溜息をつき、エナメルバッグをしっかりと肩にかけ直す。汚れたスニーカーのまま歩き出し、ひとまず交番に向かうことにした。このまま母と逢わずに無事着ければいいのだが。



「大丈夫だ、きっと…きっと…きっと…」



自分に言い聞かせることしか、今の大和にはできなかった。







鬱子が音を上げた。







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はい、一応新しいまとまりの始まりです、わーい(´∀`)


ついでに場面イメージがしやすいように写真も付けるようにしました。


写真は夕焼けですが、朝焼けイメージしてくれたら…ありがたい…!!



傘那。//






駆けだした商店街の周囲にやはり人は居ない。

右腕から血が溢れるのが見えて、息が震える。



切られた、実の母親に。

いや、その前に殺されかけたのだ。実の母親とか、どうとかいう問題じゃない。



「なんでだよっ…俺がなにしたってんだよっ!!」



気付けば流れる汗と同じように頬に涙が伝っていた。

走りながら背後を振り返れば、先程の文房具屋から母がよろよろと走りだしていた。

手に持った銀色の物から赤い水滴が落ちているのが遠目からでもわかる。

そして、それが自分の血であることも。



腕を抑えながら、大和はまた全力で走った。

気付けば周囲は夕闇に包まれはじめ、歩道に並ぶ外灯が点々と光を灯していた。

時間が異常な程に加速しているのが分かる。大和の体内時計ではまだ4時を回った程度だろう。

だが、周りの様子からはすでに夜の7時頃だ。

暗闇に自分の影がぼんやりと浮かび上がる。母の影がぬう、と外灯に照らされて大和に忍び寄るのが分かり、走る速度を増す。しかし走っても走っても、母の影がどこまでも追って来ているような気がした。



「くっそ…っ、うわっ!」



悪態をつき、振り返ろうとした瞬間。歩道の段差につまづいて勢いよく大和は転倒した。

転がった先はゴミの収集所だったらしく、いくつものゴミ袋がクッションになってくれたため、受け身を取らなくても膝を擦り剥く程度だった。



「いて…て」



ゴミの山から痛む四肢をなんとか立たせ、背後を見ると母の姿は無い。

外灯のオレンジ色の光が物寂しく歩道を照らしているだけだった。大和はぽかん、と口を開けて呆ける。派手に散らばったゴミの山を退かせて、もう一度辺りを見回す。もしかしたら、隠れているのかもしれない。しかしそれは杞憂だったらしく、しばらく待ってみても物音一つしなかった。



「何だったんだよ…一体…」



呟いて遠くに飛んで行ったエナメルバッグを拾い、砂を払って肩に駆ける。

右肩にずしり、と重量を感じた後。小さな痛みが走った。眉をひそめて傷を思い出し、切られた腕を見れば血が固まり始めていた。それに安堵の息を吐く。やはり深くは切られなかったらしい。



それでも切られた、殺されかけた…という恐怖心は未だに拭いきれなかった。

今更になって走り疲れた疲労感からではない震えが、両足に起こる。先程は生き残るために必死だった。だからこそ、無我夢中の中体だけはしっかりと動いてくれた。

しかし一旦気持ちが落ち着き始めた今になって、どっと恐怖が押し寄せ、心臓がばくばくと痙攣を起こし息が乱れた。



「くそっ、…くそっ…!…っく、…そ!」



ガタガタと震える両足を叩く。大和の母は厳しい人だった。それはおそらく元教師という職種だったことが関係していたわけではないと思う。根から厳しいとしても、愛情は持っていたはずだ。大和が馬鹿なことをしても厳しく叱りつけることはあっても、いつも最後は笑って許してくれた。

それが、いつしかあんな風になってしまった。

綺麗に切りそろえられていたはずの髪の毛は無造作に伸び、何年も風呂に入らなくなり、着替えることもせずに毎日テレビだけを見ている日々に。



全部、父親が死んでからだ。

そして変わってしまったのはきっと母だけでなく、大和自身もそうだったのだろう。



全身の震えが止まり始めた頃、大和は心の中である決心をした。



「殺されるくらいなら、こっちから殺してやる」



吐いた息は震えてはいたが、興奮して熱を発していた。















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わーい、やっと主人公の反撃開始…かな?





一応、ここで大きなまとまりは終了です。



ここまで読んで下さり、ありがとうございます。



傘那。//