言葉の力 第二十話 | うつ病予防の為に~一銀クリニックブログ「心の処方箋」

うつ病予防の為に~一銀クリニックブログ「心の処方箋」

平成25年、沖縄タイムスにて好評連載後、書籍化されたメディカルエッセー『心の処方箋』。
その著者、一銀クリニック院長の城間功旬が、うつ病予防の提案として“言葉の力”をお届けします。
皆様の心の悩みを軽くする読むクスリになれば幸いです。


テーマ:

生き方とは、ろうそくの炎を煌煌と燃やすこと(喪失感2)

 私達は日々永遠に命があるかのような錯覚に陥って生きている。病気や死の話を見聞きすると、怖いと思う程度である。そして、病気に罹患すると「悩まされるだけのもの」となってしまう。本当に、病気や死は、悩まされるだけのものであろうか。病気や死は私達に別の何か問うてはいないであろうか。もし、病気が「悩まされるだけのもの」でなく、「いかに生くべきか」を問うているのだと気付けば、生き方も変わり、人生の輝きも別なものになるのではないだろうか。


症例は、73歳、H子、ピアノ教師


主訴:不安で落ち込んでいる


病歴:
X-10年に慢性関節リュウマチを発症。その後も、関節の痛みとこわばりは徐々に進行し、友人からのカラオケの誘いも断り、友人達とも会わなくなっていった。
X-1年10月より、右肘と右手の指に痛みとこわばりが出て、ピアノが弾けなくなり、ピアノ教室を閉めざるを得なくなった。
X年3月、さらに、右足にも痛みとこわばりが出て、歩きづらくなった。「もし左足まで進行し、歩けなくなり、車椅子になったらどうしよう」と不安で眠れない日々が続いた。そのうち、気分が落ち込み、家事も困難になったので、X年5月当院へ受診した。

初診時の診察:
不安で眠れない(4時間睡眠)、憂うつ気分と意欲の低下がある。一か月前から家事が出来ない。好きな音楽も楽しめない。

H子「この10年間リュウマチの進行の不安と向き合ってきた。薬が免疫抑制剤で4種類目だが進行が止まらない。右肘・右手にこわばりと痛みが出て、ピアノが弾けず、去年ピアノ教室を閉めざるを得なかった。音楽大学を出て、ピアノ教室は生きがいの一つだったのだが。さらに、ここ最近、右膝まできてしまい、歩きにくくなってからは、『もし、左膝まできて、歩けなくなり、車いすになったらどうしよう』と不安で眠れなくなった」と話す。

診断:
身体機能の部分喪失の結果、「生きる目的・意味の喪失と、生きる不安」によるうつ状態

私「しばらく考えるのを棚上げにして、お薬を飲み、ゆっくり休んで、精神的な疲れを回復させてから、今後の事は考えましょう」と話した。

治療方針:
薬物療法(不安・焦燥型のうつ状態に効果の抗うつ薬と睡眠薬)
精神療法(支持的精神療法、喪失した身体機能への執着でなく、残された機能に目を向け、今後、何が出来るか、何を目標にどう生きていくかを共に考えていく)

経過:
初診から1か月目の診察
H子「眠れるようになり、不安・動機・ソワソワも少なくなってきました」

3か月目の診察
H子「家事も少しずつ出来るようになってきた」
「体が少しきつくても外出すると気が晴れることを知った」

6か月目の診察
H子「最近は、家事も普通に出来、買い物も出来ます。音楽も楽しめるようになった」

1年目の診察
「この10年間ずっと、リュウマチの症状に『こだわって』惑わされてきた。友人たちのカラオケの誘いも全て断って家に引きこもって、もう人生終わりと思ってうつになっていった」
「先生の二つの言葉がうつの回復の参考になった。『嫌な事は棚上げ』と『プラス思考で考えよう』が。それで、憂うつの時は先生の言う『棚上げ』を音楽でした」
「ピアノは失ったけど、自分にはまだ声が残っている。声だけは最後まで失う事は無いと気づいた。もともと音楽大学では声楽を学んだ。体は動かないので、『自分が出来る事』は、歌しかないと気づいた。それで、今は老人ホームへ慰問で歌いにいっている。老人ホームでは、逆に自分の方がはげまされて、心が暖かくなる。これからは、大きい舞台へも出て、歌で皆を喜ばせていきたい」
「同じ生きるなら楽しく生きないと損。友人とコーヒー飲むと楽しい」と話した。
「『自分に来るもの(リュウマチの進行)』にこだわって、悩んで苦しんだが、全てここまで来るまでのための修行だったと今は思える」と話した。

その後H子は、リュウマチの治療の勉強もした。5種類目に新しいリュウマチの生物学的製剤の注射の治療を選択した結果、リュウマチの進行は止まった。「リュウマチの進行が右ひざまで止まり、夢が持てる」と話し、精力的に老人ホームの慰問も続けている。

H子「10年かかって、やっと最近悟れるようになった。これから自分の音楽人生あと10年。
同じ生きるなら楽しく生きないと損」と話した。

 私たちは、日々、命のロウソクを燃やして生きているが、ロウソクの蝋は毎日確実に減り続けている。毎日命を喪失している事実がある。しかし、この喪失した部分の蝋にばかり目を向けて嘆くのでなく、残された部分の蝋を見つめて、これを、いかに大切にして燃やすかを、真剣に考えて生きる事が大切ではないだろうか。その時に、命の炎は煌煌と輝くのだ。炎の光り方が何より大切なのだ。煌煌と命の炎を燃やせ!

 

 

今回でブログを終了します。
3年間、イラストレーターのウエズさんには大変素晴らしい挿し絵を書いていただき、感謝申し上げます。本当に有難うございました!
読者の皆様、有難うございました!

イラスト:ウエズタカシ

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