言葉の力 第十八話 | うつ病予防の為に~一銀クリニックブログ「心の処方箋」

うつ病予防の為に~一銀クリニックブログ「心の処方箋」

平成25年、沖縄タイムスにて好評連載後、書籍化されたメディカルエッセー『心の処方箋』。
その著者、一銀クリニック院長の城間功旬が、うつ病予防の提案として“言葉の力”をお届けします。
皆様の心の悩みを軽くする読むクスリになれば幸いです。


テーマ:

自分への怒りのコントロール

 私たちは自分自身への怒りをどうコントロールすればよいでしょうか。プロゴルファーがショットをミスした時、クラブのシャフトを地面にたたきつけ怒りを爆発させ解消する場面をよく見ます。褒められたものではありませんが、小さいミスであれば、怒りは一時的で通り過ぎます。
 しかし、他者(親・先生・友人・先輩等)から強烈に否定された体験エピソード(いじめや人格否定)により、心の深いところが傷つき、「自分は人より劣っている」「自分は何をやってもうまくいかない」「自分は何も出来ていない」、などの自己否定観(自分への粗メガネ)が出来てしまい、その後、社会への適応がうまくいかない場合、本当は「社交不安障害」でうまくいってないにもかかわらず、「自分がダメだからである」と自分のせいにして、自分への怒りが爆発してネルギーを無駄に消耗し、うつ状態・自傷行為・適応障害等になる事があります。

症例は、19歳、F男、無職
主訴:イライラして自分をたたく
病歴:

高校卒業後、アルバイトを始めたが半年間で辞めた。また別のアルバイトを始めたが、人間関係がうまくいかず一か月でやめた。
その後から、イライラが始まり、風呂で大声を出したり壁をたたいたり、自分をたたいたり傷つけるとの事で、母親に連れられて受診。

初診時の診察:
F男「アルバイトで人間関係がうまくいかなかった事をきっかけに、かなり前から感じていた『自分が周りから必要とされていない』との思いが強くなり、自分への怒りから、イライラして、自分の体を傷つけたくなった。」と話す。

症状:憂うつ気分、意欲の低下、興味の低下、強いイライラ感
診断:強いイライラ感を伴ったうつ状態
治療方針:

・薬物療法(イライラに効く抗うつ剤、抗不安薬)
・精神療法(支持的精神療法・認知療法で「自己肯定」できるように援助する)

うつ状態である事を説明し、イライラを抑える安定剤と抗うつ薬を処方した。
二か月くらいでイライラは落ち着いてきた。

初診から三か月目の診察
私 「いつ頃から、『自分は周りに必要とされてない』との考えを持つようになったの?」
F男「小学校の運動会で、クラス対抗のドッジボール大会があり、自分のせいで負けたことで、皆からキモイなど言われるようになった。その後、ずーっと中学校までいじめが続いたため、人とのコミュニケーションがうまく取れなくなった。自分が周りの人全体から見下されている気がした。それから『人込みで周りの人の視線が怖くなった』。人が自分をどう思うのかと気になる。」
「また、人から嫌われたくない気持ちが強く、『完璧でないといけない』と、人から文句を言われない様に気を付けるようにしている。」
「『自分はダメであるから、何をやっても失敗して悪いようにいくのではないか』とダメな方に考えてしまう。」

診断:社会的適応を阻害しているのは社交不安障害(人の視線が怖い)
治療:社交不安障害に効果のある抗うつ薬(SSRI)を追加し、行動療法を併用

自己肯定できるよう支持的精神療法と認知療法を続けた。

私 「『自分はダメであるとの考え』は、小学校からのイジメの体験をきっかけに起こった思い込みである。まず、『今あるがままの自分であればいい』と自分を認める事から始めよう。人の道に反する事をしていなければ何も問題は無い。そして他人と自分の道をよそ見して比較することなく、自分の目の前の道だけを見て、ゆっくりでいいから一歩一歩自分のペースで、前に向かって歩いてゆく事が大切である。」と、繰り返し、繰り返し伝えた。
私 「人に嫌われたくないために『完璧でなければならない』は欲が生み出すマイナス思考。欲を下げて、『相性の良い人とは合うように、合わない人とは無理して合わせなくてもよい』」と考える事を勧めた。

運動・散歩・読書をリハビリとして勧めた。

「何をやってもうまくいかない。これをやっても失敗して悪いようにいくのではないか」とのマイナス思考も徐々小さくなり、あまり悪いようには考えなくなってきた。
「『失敗』も『成功』も全て自分を成長させる糧になる『良い事』」と考える事を勧めた。
「『失敗も成功の基』と思えるようになってきた。『完璧でなければならない』という考えもも取れてきた」とF男。

しかしまだ社会に出るには人目への恐怖心の克服が必要だった。
SSRIによる薬物療法を併用しながら、行動療法として、アーケード街の商店をのぞいて、店員と少し話をする練習を勧めたら実行した。人込みでの人の視線が気になる症状も減少し、対人緊張も少し減った。

何度か仕事の面接を受けて、冷凍食料品の倉庫での食料品管理のパートについた。
人間関係に気を使いつつ、疲れつつも何とか仕事を続けている。

まとめ
 「自分はダメである」「何をやってもうまくいかないのでは」等の自己否定のマイナス思考を心の壁に貼り付けて、「牢獄」を作り上げ、自己否定の牢獄から一歩も出れなくなっている状態の人もいる。この牢獄の怖いところは、「絶望」を自分に与える事で、自分から「努力する力」を奪い去ってしまうのが一番怖い。そして、「自分はだめである」「何をやってもうまくいかない」という牢獄の中で、無為にずっと過ごし続ける事である。
 「絶望という牢獄」から脱出するには、あるがままの自分を「人の道に反してなければ、これでOKです」と自己肯定し、目の前のやるべき事だけに集中して、ゆっくりでよいから一歩一歩前へ進んでいく事である。

 また、「自分はダメである」との考えは、私達皆の心の中に誰にでもあると思う。
 例えば、「私は音痴だ」「国語が出来ない」「私はスピーチがだめだ」「スポーツが出来ない」など、これは全て筆者自身の事だが、誰でもこのような思いのいくつかを心のどこかに抱えてしまいこんでいるものである。でもそれは何かをきっかけに傷ついた心が「自己否定の色メガネ」で見ているだけであって、本当の事ではない。自分で「苦手だ」「出来ない」と思っている事でも、単なる思い込みであり、それなりにチャレンジして努力をすれば、それなりの結果は得られるものと思う。

 

イラスト:ウエズタカシ

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