うつ病予防の為に~一銀クリニックブログ「心の処方箋」

平成25年、沖縄タイムスにて好評連載後、書籍化されたメディカルエッセー『心の処方箋』。
その著者、一銀クリニック院長の城間功旬が、うつ病予防の提案として“言葉の力”をお届けします。
皆様の心の悩みを軽くする読むクスリになれば幸いです。


テーマ:

君死にたまふことなかれ
自殺願望から目覚めるための二つの知識
「ヘルプ・メッセージをしっかり出せ」
「別の道へ逃げろ」


 あなた自身が死にたいと思うことが、一生に一度くらいあるかもしれない。果たして、その時どう行動すれば、その危機から脱出できるであろうか。
 2017年9月21日厚生労働省の自殺願望に関する成人の意識調査の発表です。20歳以上の成人2019人中「本気で自殺をしたいと考えた」との回答が、476人(23.6%)もいた。
 これは実に、成人の約4人に1人が、本気で自殺を考えたとの結果である。これから分かるように、「希死念慮」は他人ごとではなく、身近な問題であり、自殺予防の知識の普及がとても大切であると痛感した。
 うつ病の生涯有病率が7.5%で、15人に1人ですが、その3倍以上なので、驚くべき多さです。


症例は、19歳、D子、予備校生
主訴:多量内服
病歴:

 実家の八百屋の手伝いの為に、自動車免許が必要となり、X年5月から教習所へ通い始めた。仮免許を取り8月から路上へ初めて出た時に、事故になりそうになり、それから車の運転が怖くなり、自動車練習所へ行けなくなったが、誰にも相談できなかった。
 そのうち、朝起きるのがつらくなり、体がだるく、夜が眠れなくなり、「死んだ方が良い」と考えるようになり、X年9月上旬、祖父の睡眠薬を多量服薬して、もうろうとした状態を家族が見つけ、救急病院へ三日間入院となり、その後当院へ紹介された。
初診時の診察:
私 「どうして、睡眠薬をたくさん飲んだの」
D子「8月から路上に出て、事故になりそうになり、車の運転が怖くなり自動車教習所へ行けなくなったが、誰にも相談できなかった。朝起きるのがつらくなり、食事もとれず、急に涙が出たりしてきた。そのうちに夜が眠れなくなり、9月上旬から、「『自分がいるのが皆に迷惑をかけている。』と思い始
めた。死のうと思い祖父の睡眠薬を飲んだ」
私 「今は助かって良かったと思っている?」
D子「思っています」
私 「じゃあ、もう自殺未遂はしないと約束してくれる」
D子「約束します」
私 「なぜ誰かに相談しなかったの」
D子「もともと人に相談するのが苦手です」
私 「こんな時は『助けすけてー』って、本気でしっかり強くヘルプ・メッセージを出さないといけないよ。自分の力だけでは、自殺願望から脱出できな
い場合もあるからね」
D子「父に軽く話したのですが、『頑張れ』と言われてしまって」

「教習所のお金も父が出しており、やめたたらお金がもったいないし。自分がいるのが迷惑と思い始めた。そして、薬をたくさん飲んだ」
私 「こんな時覚えておいて欲しいのは『別の道に逃げろ』という言葉。必ずしも道は一つだけじゃない。別の道に逃げればいいんだよ」
D子「そんなことは頭に浮かばなかった。『他の人は免許取れるのに、なぜ自分は取れないのかと思って。実家の手伝いも出来ないので、自分なんかいらないんだと思った』」
私 「車の運転だけが実家の手伝いではなく、他の手伝い方もあるんんじゃない」
D子「解りました」

診断:不安障害からのうつ状態・希死念慮
治療方針:

・薬物療法(抗不安薬・睡眠薬・抗うつ剤)
・精神療法(支持的精神療法)

 自殺予防の精神療法をする 時は、「約束」と「時間」というクスリが大切です。
 「必ず回復する」との保証を与えて、自殺はしないと「約束」をしてもらいます。これまで「自殺しない」と約束した人で、自殺した人はいません。逆に
、約束しないor渋る人は、要注意です。
 「時間」というクスリの使い方ですが、自殺願望が無くなるまでは「3~4日に一回は」診察して、「間を開けない」ようにします。
 自殺は3~4日なら待てるのです。しかし、二週間以上は難しいです。

治療経過:
 休養と内服で、1か月間で回復した。
D子「教習所をやめたら、お金が無駄になると思った。このお金が自分のお金ならやめられたと思うが、親が出したお金なので、頑張らねばならないと思った。」
「今はお金より自分の命が大切とわかるが、あの時は解らなかった。」
私 「命よりも大切な学校や仕事などありません。大切な命を守るために知っておいてもらいたことは次の二つです。『ヘルプ・メッセージをしっかり出せ!!(軽くではだめですよ)』『別の道へ逃げろ!!』」

自殺願望の正体
 うつ病・うつ状態になると「悲観的な色メガネ」をかけた状態になり、全てが悪い方向へ行くように見える。
 更に進んで「悲観的な色メガネ」から「絶望の色メガネ」に変わると、自殺願望が出てくる。自殺願望の正体は、「絶望の色メガネ」をかけた病的な意識である。
 無意識が作り出すのが「夢」とすると、自殺願望は、この「病的な意識」が作り出す「悪夢」なのです。
 目が覚めながら悪い夢を見ている状態である。

 それまで司令塔であった「正常な意識」が眠ってしまい、「絶望の色メガネをかけた病的な意識」が、司令塔を占拠し、マイナス思考で「心」を攻撃して、最大の苦痛を与えて、希望を奪ってしまい、「心」に「この苦痛から逃れるためには、自殺しかない」と思い込ませ、自殺への一本道へ突き進めさせようとしているのです。
 「絶望の色メガネをかけた病的な意識」が、大切な命の敵になっているのです。ですから、病的な意識が作り出す考えを信じずに決して一人で抱え込まないことが大切です。
 必ず誰か身近な人や、命の相談窓口に、「助けて!!」との「ヘルプ・メッセージ」を、強く、しっかり出すことが大切です。
 軽くはだめですよ。はっきりと強く「本気で自殺を考えている事」を伝えてください。
 そして、「別の道」に逃げてください。自殺願望からは逃げるが勝ちです。
 道は一つばかりではありません。無限にあります。
 自殺願望の人からは、自殺への一本道しか見えていませんが、本当は、逃げ道はいくらでもあるのです。
 別の道に逃げればよいのです。

 「ヘルプメッセージをしっかり出せ!!」
 「別の道へ逃げろ!!」
 この二つを知っていれば、自殺から逃れる事ができ、病的な司令塔と化した意識が作り出す「悪夢」からのがれる事が出来ます。
 覚めない夢はありません。例え「悪夢」であっても。

 なぜなら、実は、「絶望の色メガネ」は、精神的エネルギーレベルが低下している時だけ、現れているにすぎません。一時的なものです。

 別の道に逃げる事で心が休まり、精神的エネルギーレベルが回復すれば、おのずと苦痛であったマイナス思考からの「心」への攻撃も消え、「絶望の色メガネ」も取れ、また、元の「正常な意識」が司令塔へと戻ってきて、「悪夢」から覚めるのです。

 

イラスト:ウエズタカシ

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