うつ病予防の為に~一銀クリニックブログ「心の処方箋」

平成25年、沖縄タイムスにて好評連載後、書籍化されたメディカルエッセー『心の処方箋』。
その著者、一銀クリニック院長の城間功旬が、うつ病予防の提案として“言葉の力”をお届けします。
皆様の心の悩みを軽くする読むクスリになれば幸いです。


テーマ:

気を病まずに「今に集中」して生活すると、生きる事が楽になる

 あなたは「過去の後悔」や「未来への不安」で、心を痛めた事はありませんか。私は数多くあります。私は、自分ではそれを「考えている事」だと勘違いしていました。
 しかし、精神科医として患者さんを診察して、他者の心を客観的に見る機会を得たことで、「考えている事」と「気を病んでいる事」が全く違うという事をハッキリと知りました。後者は単に、堂々巡りの思考をして疲れ果てるだけでした。気付いたおかげで私自身も気を病む事が少なくなり、生きる事がとても楽になりました。あなたにも、そうなっていただきたいとの願いを込めて書きます。
 うつ病の患者さんのほぼ全員が「気を病んで」います。これがうつ病を発症する要因の中で、一番多い事だからです。そこから脱出するための、回復のための大切な「言葉のクスリ」として、初診時の患者さん全員に「気を病む事」と「考える事」の違いを、メモを差し上げて説明しています。
 「気を病む事」でエネルギーレベルが低下して、うつ病の症状が出るため、気を病まないように気をつけて生活してもらう事で、そのエネルギーが漏出しているバケツの底の穴を塞ぐ効果があり(言葉の力第十二話参照)、根本的な治療になり、回復が早くなるからです(もちろんエネルギーを充電してくれる抗うつ薬の内服も大切です)。
 また、患者さんからも、「『考える事』と『気を病む事』の区別が分かるようになってから、生活がやり易くなりました」という言葉を、これまで数多く多くいただきました。

症例は、62歳、C男。
主訴:仕事がおっくうで出来ない
病歴:

 パン屋を30年間経営しているが、支店が経営不振におちいった。その心配から、睡眠障害が二ヶ月間続き、仕事が困難になったために、当院へ受診した。
初診時の症状:

 仕事の心配で夜が3時間しか眠れない
 仕事をする元気がでない
 楽しい気分が全くない、趣味の釣りも行きたくない
 考えが悪い方へ行きやすい
診断:うつ病
治療方針:

 薬物療法(抗うつ剤、睡眠薬)
 精神療法(気を病む事と考える事の違いを理解してもらい、今に集中して生活する訓練をする)

初診時の診察:
C男「支店を出さなければ良かったと後悔しています。本店がつぶれたらという考えに引きずり込まれます。夜が明けるのが怖いです」と話す。
 妻はC男を「神経質な性格」という。「赤字の支店を閉めて、夫が元のように仕事が出来れば、生活は十分やっていける」と妻は話す。

私 「朝から晩まで寝ながらも一日中仕事の心配をした結果、頭の中が電気のつけっぱなしの状態となり、エネルギーを放出しすぎた結果、うつ病の症状が出ています。このエネルギーが漏出しているバケツの底の穴を塞ぎエネルギーの漏出を減らす事と、抗うつ剤の内服でエネルギーを注入する事、この二つで、エネルギーレベルが上昇してきて必ず回復します」と説明した。
  「しかし、いくら薬でエネルギーを注入しても、バケツの底が開いたままではエネルギーを注入しても、なかなかエネルギーレベルは回復しませんので、バケツの底の穴を塞ぐ必要があります」。
  「このバケツの底の穴を塞ぐために、まず、『考える事』と『気を病む事』の違いを理解する必要があります。その違いは『答えがある』か『ない』かです」
  「『考える』とは『答えがある』事です。例えば『学校の試験の問題を解いたり』『晩御飯何を食べようか』などで、これらは答えがあるのであまり疲れません。もちろんやりすぎると疲れますが。』
  「それに対して『気を病む』とは『答えのない』事に捕らわれている状態で、『過去の事をくよくよ後悔したり』『先の取り越し苦労』をすることを言います。これらは『答えがない』ために、ずっと堂々巡りの思考を延々と続け、ついにはエネルギーが尽きて、疲れ果ててしまうのです。」
  「それで、あなたにお願いしたい事は、今自分の頭の中にある事が、『考えている事』なのか『気を病んでいる事のか』どっちなのか区別してえり分ける訓練をしてください。『気を病んでいる』と気づいたらすぐにはねのけましょう。『過去の嫌な事』にもシャッターを降ろして、『未来の取り越し苦労』にもシャッターを降ろしてください。そして、考え事は『五分ルール』です。五分考えたら棚上げしましょう。』

私 「そして、『今に集中』して生活するのです。」
C男「『今に集中する』とは、どういう事ですか。どうすれば出来るのですか」
私 「『今に集中する』とは、例えば、皿洗いをする時は、皿の上に視点を集中して洗う事です。あるいは、ハンマーで釘を壁に打つ時は、指を打たないように集中するでしょう。別の事を考えないようにして、行動に集中する事なのです」。
  「『今に集中する』が、『他の全ての雑念』を跳ね返してくれる『心の中の盾』の役目をしてくれるので、省エネとなり、早く回復しますよ」。
  「『雑念』への執着を断ち切るためには『出来るだけの事をやれば、後は成るようになって良いさ。どうにかなるさ(沖縄の方言で【ナンクルナイサ】と言います)』と考える事で、切り替えが出来、今に集中できるようになります」。

 そして、「気を病む、考える、今に集中する」と書いたメモを差し上げ、「冷蔵庫などの日頃見やすいところに貼ってください。そして、これを見て思い出して、『今に集中』しての生活を心がけるようにしましょう」と話した(読者の方もよろしければ、このメモを自分で書いて、見やすいところに貼って実行してみてください)。

治療経過:
 C男は徐々に回復して、「悲観的な色メガネ」も取れ、仕事も出来るようになった。回復した後、「先生の言う『今に集中』は私にとって、楽に生活していくための『魔法の言葉』ですよ」と話した。この言葉をいただき私もうれしかった。

 「過去」という字は「過ぎ去った」と読みます。そうです。過去はもうありません。過ぎ去ったのです。実は、私たちが過去と思っているのは、単なる記憶の再生でしかありません。「未来」は「未だ来ず」と読みます。そうです。未来はまだ来ていません。私は過去や未来と出会ったことはありません。私たちは生きている間、今としか出会えないのです。人生は、今が連続しているだけなのです。ですから、「今に集中して生きる」ことが大切なのです。
 今に集中しないと、雑念につけいるスキを与えてしまい、侵入されて、雑念・妄想に心を持って行かれてしまいます。これら、雑念・妄想に侵入されないよう「雑念・妄想(マイナス思考・マイナス感情・過度の欲望)の心の扉」をしっかり閉めて、「今に集中して生活する」と生きる事が楽になりますよ!


イラスト:ウエズタカシ

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