欲 | ジレンマ∞ハピネス

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悩まぬ者、進むべからず。

「みんな、久しぶり~」

「あ!十和子じゃん。久しぶりだね~。ってか、かわいいね、その服!」


十数年ぶりに再会する地元の友人たち。

高校を卒業してからはじめての同窓会が開催された。



行くか行かないかを悩んだ末、十和子は最高にお洒落をして

早朝の新幹線に乗り込んだ。

東京から実家の長野までは2時間かかる。


実家に顔を出すと、「早く結婚しろ」と促され近所を歩くと

「結婚はまだなの?」と質問責めにあう。

わかってはいたが、今日顔をだせばお正月は帰らずに

済むかもしれないと思い帰省した。


実家の居心地は年々悪くなる。





「よっ!十和子。珍しいなぁ。まさか、来るとは思ってなかったよ。」


「啓太!元気してた?今、何してるの?」


「見ての通り相変わらず元気よ。今は、スーパーの後継ぎ。

人生、そんなもんだよな。十和子は、バリキャリやってるってきいたけど?」


「バリキャリなんて、そんな聞こえのいいもんじゃないよ。」


「そうか?向かうところ敵なしの成績優秀・みんなの憧れ十和子ちゃんだろ?」


「やだ。何それ。変わってないなぁ、啓太」


啓太は高校時代に付き合った元カレってやつだ。

幼少時代からスポーツ少年で、社会人野球選手になる話もあったらしい。

それでも地元で生きると決断し、大学卒業以降ずっと長野にいる。


啓太との気まずさは時間が解決し、何事もなかったかのように再会できた。

同窓会は、数十年前の「私」を蘇らせたかのように不思議で楽しい時間だった。

変わらない同級生と景色。


普段の疲れは何なのだろう。

「成績優秀・みんなの憧れ十和子ちゃん。」その言葉が妙に重たくもあり、嬉しかった。





高校を卒業して東京に出てきて早15年。

今年、34歳になろうとしている。

周りはとうの昔に結婚し、家庭を持った。


結婚のチャンスがなかったわけではないが、

負けず嫌いの十和子は商社で働き続けている。


十和子には負けたくない相手がいるのだ。

同じ職場にいる麻里だ。


麻里は、十和子よりも入社が1年遅い同い年。

とびきりの美人で仕事が出来る…というわけではない麻里。


でも彼女が持ち備えているオーラは、例え仕事ができなくとも

味方をつくるパワーをもっていた。


男と同じように仕事をこなす十和子。

同じように振る舞うべき麻里は男性社員にお茶を入れる。


「こんな気遣いできるなんて、やっぱり麻里ちゃんだね。」


そんな言葉を耳にする度に、脳震盪を起こしそうになる。

やっぱり麻里には負けたくない。


そんな麻里がふとした噂で外報部の田辺に恋をしている

ということをききつけた。

田辺は十和子の同期で1年前にイギリスから異動してきた外報部のホープだ。


「田辺は私のものよ。麻里なんかには渡さないわ」


そんな気持ちを抑えることはできなかった。


仕事もでき、容姿端麗な十和子。

田辺と関係を持つまでにそう時間はかからなかった。



「おめでとうございます。現在、10週目に入ってますよ。」


婦人科の先生の言葉に眩暈がした。

田辺のことは好きだが、妊娠は想定外だった。


「十和子。俺たち、結婚しよう。」


まさかの出来事を連続に迎えながら、半年の間に結婚・妊娠。

仕事は続けるつもりだったが、田辺のアメリカ転勤が決まり辞めざるを得なくなった。


偏頭痛が止まらない。


「十和子さん、結婚おめでとうございます。ほんと、ビックリしちゃった。」

振り返ると、お祝いを持った麻里がいた。


「これ、営業部からのお祝いです。十和子さんいなくなるの寂しいな。

残りの1カ月、宜しくお願いします。」


「ありがとう・・・」


「あ、そうそう。私、十和子さんの業務を引き継ぐことになったんです。

プロジェクトリーダーなんてやったことないから不安なんですけど

皆さんに助けてもらいながら頑張ります。私は十和子さんみたいに

全部一人ではできませんから。」


偏頭痛が止まらない。

私が苦労して積み上げてきたプロジェクトを麻里に渡す?

嘘でしょう。辛い思いしながらやってきたのに。ここまできたのに。


会社から自宅までの帰り道を、十和子はあまり覚えていない。


「十和子、大事な体なんだから無理をするなよ。体、大丈夫か?」

田辺は優しい。それに不満はない。でも、偏頭痛が止まらない。





「そういえば、同窓会の案内状がきてたぞ。ほら。」




「欲」ばかりに目がいき、大事なものを全て失っている気がした。


「向かうところ敵なし・成績優秀・みんなの憧れ十和子ちゃん」

そんな姿ではとうにないことに、十和子はようやく気づいた。