
『おいお前、俺に何かしたか?』
女は、まさか男が自分にそんな事を言うと思ってなかったから、我が耳を疑った。
女は、息をするのも忘れたように、
全ての筋肉活動も思考も固まり停止したようだった。
女は、少しの間を置くと、
『私は何もしていない。
それにあなたにそんな事言われる筋合いはないわ。それにマグカップの近くでは、、』とその続きの言葉を飲み込む事に成功した。
女にとって、
言葉を、そして珈琲を飲み込む事は、
極めて困難な状況だったにも関わらず、
男はその事にまるで気がついてなさそうだったからだ。
『おいお前、何とか言えないのか?』
男は女の言葉を待っていた。
闘いに挑む時のポーズで。ひたすら。
待つこと数分。
女よりも先に男が口を開く。
『俺はもう限界だ、同じ姿勢で居続ける事は限りなく拷問に近い。もう絶えられない。』
息も絶え絶えに、脂汗を出しながら、男が言った。
『私もなのよ、、。』
完