2010.8.16

朝日新聞 天声人語


腎臓異色を受けた女児の母親が

提供者の家族に送った言葉がある。

「いのちを確かに引き継ぎました。

お陰で娘は元気に小学校へ通っています。」



一つの喪失が一つの再生をもたらす

臓器移植は命のリレーといわれる。


いわば、涙の水彩で花束を描き、

見知らぬ家族に送る行為である。

鼓動が響く脳死団塊での決断ともなれば、

涙の色はより濃いだろう。



移植を待ちながら、提供者に転じた少年がいる。

心臓移植のためドイツに渡るも、直後に事切れた11歳だ。


万一の時の覚悟を問われ

「僕は人からもらわんと生きられないから、

使えるもんは何でもあげる」と言っていた。


息子の臓器を現地で供した親は

移植で救われた同世代に語る。


「誰に何の遠慮もなく、すくすくと成長して欲しい。」


最愛の人が何人かの中で行き続ける。

この安らぎなくして、命のバトンはつながらない。