とうとうこのドラマも残り3回となりました。
予定より話の進み具合がちょっと押してるので、
最終回をスペシャルにするか、1週延長にするか検討中です。
おわったら…どうしよう。
また新しい楽しみさがさなきゃ。
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ドラマ「君がいた短い永遠」第8話ダイジェスト
キャスト
キム・スンウォン… カン・シヌ
チュ・ヒョンジュ… パク・シネ
チュ・ヨンジュ… オ・スンア
オム・ドンイル… チャ・テウン
カン・ヘナ… ユン・ウネ(特別出演)
パク看護師… ジェルミ(A.N.JELL)
テーマソング
「One Time」CNBLUE「FIRST STEP」より
第8話
「あ~、外は暑そうだな~。…おれンちエアコンついてないからな…今日は病院に泊ろうかな…」
週末の午後。医局で外の日射しを眺めながらぶつぶつ言っているドンイル。そしてその向かいでパソコンにむかっているスンウォン。
「今日じゃなくたってしょっちゅう泊ってるじゃないか。仮眠室の右上のベッドはおまえ専用みたいになっててみんな上がらないぞ」
「やっぱりそうなのか…」
「?」
「いや、こないだ2日続けて泊ったらシーツが換えてなかった。もしかしたら、と思ったらやっぱりそうなのか…」
「まったく…彼女が聞いたら目をむくぞ」
「彼女って、ヘナのこと?」
なんだ、もう呼び捨てかよ。
「おまえはまだ帰んないの?」
ドンイルが訊く。
「今日はこれから、デート」
「?」
「診察に来てるんだ。終わったら送りがてらどこかに寄ろうかと思って」
「どこかって?」
「なんか華やかなところがいいのかなって思ったんだけど、街中は車いすだと移動しにくいしと思って。郊外のショッピングモールとかどうかな」
そのようすをドンイルは目を丸くして見ている。
「なんだよ、可笑しいか?」
「おまえって、そういうこと言えるヤツだったって、ようやく思い出したよ。」
「思い出したって…」
「だって、学生の時はけっこうまめに記念日だ、なんだって手をかけてたよな」
「ん…あれこれ考えるのはきらいじゃない」
「そっか…いいんじゃない?女の子の喜びそうなこぎれいなショップもあるし、フードコートもあるし、映画も見れるぞ」
「映画か…それはちょっと無理だけど…」
すこしウキウキしてみえるスンウォンをドンイルは不思議そうに見ている。
「たいしたもんだな…。半年前のおまえに今の姿を見せてやりたい気分だよ」
「なんとでもいえ」
スンウォンは時計を見て、パソコンを終了させ、帰り支度を始める。
「お前も仮眠室で寝てないで彼女でも誘えよ」
薄手のジャケットを羽織り、スンウォンはドアを出て行く。あぜんとして見守るドンイル…。
「な、なんだよ。しょうがないだろ、ヘナは友達と旅行に言っちゃってるんだから…」
誰に言うでもないひとりごとが空しい…。
ロビーで待っていると診察を終えたヒョンジュがヨンジュに付き添われて来た。
「オッパ!」
はっきりした張りのある声にスンウォンも驚く。
「誰に呼ばれたかと思った」
少しからかうようにいっても、ヒョンジュはにこにこと笑っているだけだ。
「どうだった?」
「問題なし。いつでも大丈夫なように体調を整えておくようにって」
「そうだな。」
「いつ」というのは、移植のことだ。本当に「いつ」その時がくるのか、誰にもわからない…。
話すふたりにヨンジュが声をかける。
「お待たせしました。診察はけっこうはやく終わったんですけど、先生と話しこんでしまって…」
「いえ、構いませんよ」
「じゃ、いってらっしゃい。ヒョンジュ。あまりはしゃがないのよ」
「は~い。姉さんはこれからどうするの?」
「うふふ。デート。」
「あ、やっぱり?姉さんも楽しんでね。あ、でもあんまり飲みすぎると嫌われるかもよ」
「大きなお世話。それにあいつは底なしだから大丈夫」
笑いながらヨンジュは出て行く。それをふたりは笑顔で見送った。
「さて、今日はショッピングにお連れしようと思いますがいかがですか?」
「え?ほんと?うれしい!…でもあんまり人混みは…」
「大丈夫。ちゃんと考えてあるから」
ショッピングモールの駐車場に入ったときから、ヒョンジュの目はキラキラと輝いていて、スンウォンもうれしくなった。…やっぱり、華やかなところにも行きたいよな…。
流行りの服を飾ってある店、女の子の好きそうな可愛い雑貨やアクセサリーの店。コスメショップでは店員に選んでもらって淡いローズピンクのリップを買った。
ヒョンジュがコスメショップで時間を喰っている間、スンウォンは店の外で車いすの番をしていたのだが、その時に隣のアクセサリーショップが目に入った。若い女の子やカップルがいて、手ごろな値段のアクセサリーが小さい店にびっしりと飾られていた。
ヒョンジュがコスメショップから出てきて、スンウォンに声をかける。
「どうしたの?」
「ん?これ、どう?」
スンウォンがガラスケースの中のリングをヒョンジュに見せる。
「きれい!…あるかんしえる…?」
「うん。フランス語で『虹』のこと」
「虹…」
ふたりでケースに見入っていると店員が出てきた。
「いらっしゃいませ~。中にペアリングなんかもありますよ~」
ふたりは顔を見合わせて…スンウォンが店員に言った。
「これ…見せてもらえますか?」
ショーケースのリングを出してもらってヒョンジュの指にはめてみると…思った通りだったが、ぶかぶかだった。それでもヒョンジュは手をかざしたりしてリングに見入っている。サイズ違いを探してもらって、一番小さいサイズがヒョンジュにちょうどだった。
「プレゼントするよ」
「え?…だ、だって別に誕生日でもなんでもないのに…」
「ん~ふたりでショッピングに来た記念、とか」
「そんな…」
「じゃ、もうすぐ100日」
「え?…いつから数えて?」
「君がおれの上に落ちて来てから」
「あ…」
そう。ことの始まりはあの屋上かもしれない。それまでお互いの存在は知っていても直接話したことはなかった。あの頃は…ヒョンジュはまだ自分で歩いていたのに…。
包装をしてもらっている間に、ヒョンジュは車いすに座った。小さな紙袋をもって出てきた店員はヒョンジュをみてちょっととまどった表情をした。
食事をしようと入ったレストランでヒョンジュはもう包装を解いてリングをはめてみている。
「みてみて。ほら」
手を壁の傍にかざすと、壁に小さな虹ができる。
素直に、無邪気に喜ぶヒョンジュをみて、スンウォンもうれしくてならない。今日のヒョンジュは本当にいきいきとしていて、車いすに乗っていなければ病人とは思えないくらいだった。
「今日、お姉さんもデートだし…。病院にもどるの?」
「…うん」
最近体調のいいヒョンジュは週末は家に戻っている。でもそれだとヨンジュはヒョンジュにほぼつきっきりになってしまうことをヒョンジュは気にかけていた。だから今日は病院にもどるから、とヨンジュに言ってあった。家に帰れないのはすこし寂しかったが、ほっとしたようなうれしいようなヨンジュの表情を見ると、たまにはヨンジュにも時間をあげたい、と思えた。
それでもすこし寂しそうなヒョンジュの顔を見て、スンウォンは携帯を出して電話をする。
「まだ、酔っ払ってなきゃいいけど…。…あ、もしもし、ヨンジュ姉さん。今夜…ヒョンジュと一緒にいていいかな? …ばかなこと言わないでくださいよ。これでも一応医者ですからね…。そうですか、じゃお願いします」
通話を終えてヒョンジュの顔を見ると…目を丸くして口を押さえている。
「お姉さんが連絡しといてくれるって。明日帰ればいいよ、病院には…」
「えっ…ど、どこに行くの?」
「どこがいい?…といってもあんまり遠くには行けないけど」
「あ、あの…」
「ん?」
「オッパの部屋…行ってみたい…」
「えっ?」
部屋?…おれの部屋…。そうか、普通に付き合ってる彼女だったらそういうことがあっても不自然じゃないのに、ヒョンジュが病院にいるっていうことでそういうことはまったく考えたことはなかった。…明日の休みに掃除しようと思ってたから、相当散らかっている。ベッドだって…とてもヒョンジュを寝かせられるとは…。
「…だめ?」
「…いや、だめっていうか…その…医者として健康でない人を入れるにはちょっと抵抗があるっていうか…」
「ベッドがひとつしかないから?」
「そ、それはおれが床で寝るから別にかまわないけど…」
だけど…「次」があるかどうかはわからない。ヒョンジュと会うときはいつもそう思う。「また今度」はできるだけ考えない。いましたいこと、できることが最優先だ。
「ねえ、ヒョンジュ。男の部屋に泊るってどういうことか分かってる?」
「わかってますよ。だって、約束したじゃない。ずっと一緒にいようって」
…結局、こういうときって女の子の方が腹が座ってるんだな…。
ショッピングで少しはしゃぎすぎたのか、スンウォンの部屋にたどり着くころにはヒョンジュはかなり疲れたようで、スンウォンが部屋を片付けている間もテーブルに突っ伏すようにして座っていて、ベッドのシーツを清潔な物に取り換えてなんとかヒョンジュが寝られるようにすると、すぐにベッドに横になった。
その傍らにすわりスンウォンはヒョンジュの手をにぎる。
「本当は、オッパの部屋に来たら…お掃除をして、お洗濯をして…一緒に買い物に行って、ご飯を作ったりしたいな、って思ってた…」
「今は気持ちだけもらうから。その約束、忘れないで」
「うん…」
少し落ち着いたヒョンジュから手を離して、スンウォンはベッドの隣に寝袋を持ってきて横になり、部屋の灯りを消した。
「ヒョンジュ…手、貸して」
ベッドのふちに手を伸ばしながら言うと、ヒョンジュが手を伸ばしてその手を握る。そしてベッドの端まで寄ってきてスンウォンを見降ろすように横になる。
「オッパ…」
「ん?」
「顔見ながら寝たい…」
「うん…。ベッドから落っこちんなよ」
「うん。おやすみなさい」
「おやすみ」
手をつないだまま目を瞑っていたスンウォンは、するっとヒョンジュの手の力が抜けたのを感じて、にぎりなおす。
右手の薬指には、さっきプレゼントした虹色のリングがちいさくきらめいていた。
その日は…
スンウォンと一緒になぜかドンイルとヘナがついてきた。
療養所の患者がお年寄りばかりだと聞いて
「たまには若者同士で話さなきゃ」
とよく分からない理由をつけて、ヒョンジュに会いに来た。
結局ふたりは婚約したらしく、おかげでドンイルはえらく羽振りがいい。ヘナの親に買ってもらったらしい新車のスポーツカーにふたりで乗り込み、スンウォンのおんぼろ中古車の後をついて行く。
ふたりの出現にちょっととまどったヒョンジュだったが、もともとドンイルが担当チームの医師だったこともあって、気兼ねなく話したし、ヘナとも女の子同士男たちをこき下ろすガールズトークもし…スンウォンとはあまり話せなかったが、ヒョンジュもそれなりに楽しめたようだった。
これから出かけるというドンイルたちをスンウォンが送って出る。
「すぐに戻るから」
と言われて、ヒョンジュは部屋で待っていた。
少し、大きな声でしゃべったせいかすこし疲れた。それになんだかもやもやする。ふと明るく元気で闊達なヘナのことを思い出していた。
家族、財産、健康、美貌。すべてにおいて恵まれているヘナを、いままで羨んだことはなかった。あまりにも自分とは違いすぎて比べようがない、と思っていた。
だけど、今日ドンイルの傍らにいる彼女に会って、スンウォンの傍にいる自分の存在があまりにも希薄に感じられた。
『わたしは…オッパに、なにもしてあげられない…』
ベッドに横になり、右手をかざして指輪を見つめ、そっとはずしてみた…。
そのとき、スンウォンが部屋に戻ってきた。
「疲れた?」
「少し。ちょっとおしゃべりしすぎちゃった」
スンウォンはベッドに座る。…とヒョンジュが指輪をはずしていることに気づく。
「どうした?」
「え?…あ、ちょっとかざしてみてた。ほら、こうすると裏から光が入るでしょ」
そういうヒョンジュをスンウォンはすこし不安げな目で見る。
「なくすから…ちゃんとしてて」
ヒョンジュの手から指輪を取ってはめる。
「…オッパ…」
「なに?」
「わたしは…オッパになにもしてあげられない…」
ヒョンジュが何を考えていたのかようやく理解する。なんでも持っていて、元気なヘナに少し嫉妬したのだろう。
「一緒に出かけたり…お料理をつくってあげたり…なにもできない…」
「デートは…ときどきしてるでしょ」
「だけど…」
「まだ、そんなことを言うの?…君は、今の君のまま、おれの傍にいてくれるだけでいい…。いや、君じゃなきゃだめなんだ…」
そう言いながら指輪をはめた右手をきゅっと握った。
昼下がりのナースセンターにコールが鳴り響く。
「チュ・ヒョンジュさん、どうしました?」
パク看護師が応答するが、返事がない。
「ヒョンジュさん?…」
もう一度呼びかけてみても反応はない。パク看護師は病室に走る。
「ヒョンジュさん!」
ヒョンジュはベッドにうつぶせになるようにして胸をおさえている。もうほとんど意識がない。
パク看護師はナースコールを押す。
「先生を呼んできて!ヒョンジュさん、チュ・ヒョンジュさんが…発作です!」
スタッフが駆けつけてきて、応急処置がなされる。搬送のためストレッチャーに移すときにコロコロとなにかが、ヒョンジュの手から転げ落ちたのにパク看護師が気づいた。そしてそれを拾って…白衣のポケットにいれた。
救急車が大学病院に滑り込む。手当てが早かったお陰でことなきを得たが、ヒョンジュはそのまま大学病院に入院することになった。
やっと手の空いたスンウォンが病室を訪ねると、まだ眠っているヒョンジュの傍らにパク看護師が座っていて、スンウォンが入ってくるのをみると、立ちあがった。
「君が…助けてくれたんだね…」
「いえ。スタッフとして当然の務めをしただけです」
淡々と答えるパク看護師の言葉がかつてのスンウォンの経験を思い起こさせた。…それができないことだって、あるんだ…。
まだ緊張の抜けない顔でヒョンジュを見つめていると、パク看護師が声をかける。
「あの…。…これ…ヒョンジュさんがにぎってました…。硬く握ってたみたいで…さっきみたら手のひらに跡がついてました…」
そういいながらリングをスンウォンに渡す。
「先生から返してあげてください…。じゃ、わたしはこれで帰ります」
軽く会釈をして病室を出ていく。
「ありがとう…」
スンウォンはその背中に声をかけた。
スンウォンは手にある虹色のリングを見つめる。
『握ってた…?どうしてだろう…また、はずしてかざしてみてたのかな…』
そういえば、ドンイルとヘナが来たあとにはずして見ていた…。また、何か考え込むようなことがあったんだろうか…。
そう思いながら、ヒョンジュの指にリングをもどし、ぎゅっと握る。そして眠るヒョンジュに覆いかぶさるように身体をそっと重ねた。
弱々しいけれど、鼓動が聞こえて、小さく呼吸する音も聞こえる。
「ありがとう…生きていてくれて…ほんとに…よかった…」
スンウォンの目から一筋の涙がこぼれた。



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第8話
「あ~、外は暑そうだな~。…おれンちエアコンついてないからな…今日は病院に泊ろうかな…」
週末の午後。医局で外の日射しを眺めながらぶつぶつ言っているドンイル。そしてその向かいでパソコンにむかっているスンウォン。
「今日じゃなくたってしょっちゅう泊ってるじゃないか。仮眠室の右上のベッドはおまえ専用みたいになっててみんな上がらないぞ」
「やっぱりそうなのか…」
「?」
「いや、こないだ2日続けて泊ったらシーツが換えてなかった。もしかしたら、と思ったらやっぱりそうなのか…」
「まったく…彼女が聞いたら目をむくぞ」
「彼女って、ヘナのこと?」
なんだ、もう呼び捨てかよ。
「おまえはまだ帰んないの?」
ドンイルが訊く。
「今日はこれから、デート」
「?」
「診察に来てるんだ。終わったら送りがてらどこかに寄ろうかと思って」
「どこかって?」
「なんか華やかなところがいいのかなって思ったんだけど、街中は車いすだと移動しにくいしと思って。郊外のショッピングモールとかどうかな」
そのようすをドンイルは目を丸くして見ている。
「なんだよ、可笑しいか?」
「おまえって、そういうこと言えるヤツだったって、ようやく思い出したよ。」
「思い出したって…」
「だって、学生の時はけっこうまめに記念日だ、なんだって手をかけてたよな」
「ん…あれこれ考えるのはきらいじゃない」
「そっか…いいんじゃない?女の子の喜びそうなこぎれいなショップもあるし、フードコートもあるし、映画も見れるぞ」
「映画か…それはちょっと無理だけど…」
すこしウキウキしてみえるスンウォンをドンイルは不思議そうに見ている。
「たいしたもんだな…。半年前のおまえに今の姿を見せてやりたい気分だよ」
「なんとでもいえ」
スンウォンは時計を見て、パソコンを終了させ、帰り支度を始める。
「お前も仮眠室で寝てないで彼女でも誘えよ」
薄手のジャケットを羽織り、スンウォンはドアを出て行く。あぜんとして見守るドンイル…。
「な、なんだよ。しょうがないだろ、ヘナは友達と旅行に言っちゃってるんだから…」
誰に言うでもないひとりごとが空しい…。
ロビーで待っていると診察を終えたヒョンジュがヨンジュに付き添われて来た。
「オッパ!」
はっきりした張りのある声にスンウォンも驚く。
「誰に呼ばれたかと思った」
少しからかうようにいっても、ヒョンジュはにこにこと笑っているだけだ。
「どうだった?」
「問題なし。いつでも大丈夫なように体調を整えておくようにって」
「そうだな。」
「いつ」というのは、移植のことだ。本当に「いつ」その時がくるのか、誰にもわからない…。
話すふたりにヨンジュが声をかける。
「お待たせしました。診察はけっこうはやく終わったんですけど、先生と話しこんでしまって…」
「いえ、構いませんよ」
「じゃ、いってらっしゃい。ヒョンジュ。あまりはしゃがないのよ」
「は~い。姉さんはこれからどうするの?」
「うふふ。デート。」
「あ、やっぱり?姉さんも楽しんでね。あ、でもあんまり飲みすぎると嫌われるかもよ」
「大きなお世話。それにあいつは底なしだから大丈夫」
笑いながらヨンジュは出て行く。それをふたりは笑顔で見送った。
「さて、今日はショッピングにお連れしようと思いますがいかがですか?」
「え?ほんと?うれしい!…でもあんまり人混みは…」
「大丈夫。ちゃんと考えてあるから」
ショッピングモールの駐車場に入ったときから、ヒョンジュの目はキラキラと輝いていて、スンウォンもうれしくなった。…やっぱり、華やかなところにも行きたいよな…。
流行りの服を飾ってある店、女の子の好きそうな可愛い雑貨やアクセサリーの店。コスメショップでは店員に選んでもらって淡いローズピンクのリップを買った。
ヒョンジュがコスメショップで時間を喰っている間、スンウォンは店の外で車いすの番をしていたのだが、その時に隣のアクセサリーショップが目に入った。若い女の子やカップルがいて、手ごろな値段のアクセサリーが小さい店にびっしりと飾られていた。
ヒョンジュがコスメショップから出てきて、スンウォンに声をかける。
「どうしたの?」
「ん?これ、どう?」
スンウォンがガラスケースの中のリングをヒョンジュに見せる。
「きれい!…あるかんしえる…?」
「うん。フランス語で『虹』のこと」
「虹…」
ふたりでケースに見入っていると店員が出てきた。
「いらっしゃいませ~。中にペアリングなんかもありますよ~」
ふたりは顔を見合わせて…スンウォンが店員に言った。
「これ…見せてもらえますか?」
ショーケースのリングを出してもらってヒョンジュの指にはめてみると…思った通りだったが、ぶかぶかだった。それでもヒョンジュは手をかざしたりしてリングに見入っている。サイズ違いを探してもらって、一番小さいサイズがヒョンジュにちょうどだった。
「プレゼントするよ」
「え?…だ、だって別に誕生日でもなんでもないのに…」
「ん~ふたりでショッピングに来た記念、とか」
「そんな…」
「じゃ、もうすぐ100日」
「え?…いつから数えて?」
「君がおれの上に落ちて来てから」
「あ…」
そう。ことの始まりはあの屋上かもしれない。それまでお互いの存在は知っていても直接話したことはなかった。あの頃は…ヒョンジュはまだ自分で歩いていたのに…。
包装をしてもらっている間に、ヒョンジュは車いすに座った。小さな紙袋をもって出てきた店員はヒョンジュをみてちょっととまどった表情をした。
食事をしようと入ったレストランでヒョンジュはもう包装を解いてリングをはめてみている。
「みてみて。ほら」
手を壁の傍にかざすと、壁に小さな虹ができる。
素直に、無邪気に喜ぶヒョンジュをみて、スンウォンもうれしくてならない。今日のヒョンジュは本当にいきいきとしていて、車いすに乗っていなければ病人とは思えないくらいだった。
「今日、お姉さんもデートだし…。病院にもどるの?」
「…うん」
最近体調のいいヒョンジュは週末は家に戻っている。でもそれだとヨンジュはヒョンジュにほぼつきっきりになってしまうことをヒョンジュは気にかけていた。だから今日は病院にもどるから、とヨンジュに言ってあった。家に帰れないのはすこし寂しかったが、ほっとしたようなうれしいようなヨンジュの表情を見ると、たまにはヨンジュにも時間をあげたい、と思えた。
それでもすこし寂しそうなヒョンジュの顔を見て、スンウォンは携帯を出して電話をする。
「まだ、酔っ払ってなきゃいいけど…。…あ、もしもし、ヨンジュ姉さん。今夜…ヒョンジュと一緒にいていいかな? …ばかなこと言わないでくださいよ。これでも一応医者ですからね…。そうですか、じゃお願いします」
通話を終えてヒョンジュの顔を見ると…目を丸くして口を押さえている。
「お姉さんが連絡しといてくれるって。明日帰ればいいよ、病院には…」
「えっ…ど、どこに行くの?」
「どこがいい?…といってもあんまり遠くには行けないけど」
「あ、あの…」
「ん?」
「オッパの部屋…行ってみたい…」
「えっ?」
部屋?…おれの部屋…。そうか、普通に付き合ってる彼女だったらそういうことがあっても不自然じゃないのに、ヒョンジュが病院にいるっていうことでそういうことはまったく考えたことはなかった。…明日の休みに掃除しようと思ってたから、相当散らかっている。ベッドだって…とてもヒョンジュを寝かせられるとは…。
「…だめ?」
「…いや、だめっていうか…その…医者として健康でない人を入れるにはちょっと抵抗があるっていうか…」
「ベッドがひとつしかないから?」
「そ、それはおれが床で寝るから別にかまわないけど…」
だけど…「次」があるかどうかはわからない。ヒョンジュと会うときはいつもそう思う。「また今度」はできるだけ考えない。いましたいこと、できることが最優先だ。
「ねえ、ヒョンジュ。男の部屋に泊るってどういうことか分かってる?」
「わかってますよ。だって、約束したじゃない。ずっと一緒にいようって」
…結局、こういうときって女の子の方が腹が座ってるんだな…。
ショッピングで少しはしゃぎすぎたのか、スンウォンの部屋にたどり着くころにはヒョンジュはかなり疲れたようで、スンウォンが部屋を片付けている間もテーブルに突っ伏すようにして座っていて、ベッドのシーツを清潔な物に取り換えてなんとかヒョンジュが寝られるようにすると、すぐにベッドに横になった。
その傍らにすわりスンウォンはヒョンジュの手をにぎる。
「本当は、オッパの部屋に来たら…お掃除をして、お洗濯をして…一緒に買い物に行って、ご飯を作ったりしたいな、って思ってた…」
「今は気持ちだけもらうから。その約束、忘れないで」
「うん…」
少し落ち着いたヒョンジュから手を離して、スンウォンはベッドの隣に寝袋を持ってきて横になり、部屋の灯りを消した。
「ヒョンジュ…手、貸して」
ベッドのふちに手を伸ばしながら言うと、ヒョンジュが手を伸ばしてその手を握る。そしてベッドの端まで寄ってきてスンウォンを見降ろすように横になる。
「オッパ…」
「ん?」
「顔見ながら寝たい…」
「うん…。ベッドから落っこちんなよ」
「うん。おやすみなさい」
「おやすみ」
手をつないだまま目を瞑っていたスンウォンは、するっとヒョンジュの手の力が抜けたのを感じて、にぎりなおす。
右手の薬指には、さっきプレゼントした虹色のリングがちいさくきらめいていた。
その日は…
スンウォンと一緒になぜかドンイルとヘナがついてきた。
療養所の患者がお年寄りばかりだと聞いて
「たまには若者同士で話さなきゃ」
とよく分からない理由をつけて、ヒョンジュに会いに来た。
結局ふたりは婚約したらしく、おかげでドンイルはえらく羽振りがいい。ヘナの親に買ってもらったらしい新車のスポーツカーにふたりで乗り込み、スンウォンのおんぼろ中古車の後をついて行く。
ふたりの出現にちょっととまどったヒョンジュだったが、もともとドンイルが担当チームの医師だったこともあって、気兼ねなく話したし、ヘナとも女の子同士男たちをこき下ろすガールズトークもし…スンウォンとはあまり話せなかったが、ヒョンジュもそれなりに楽しめたようだった。
これから出かけるというドンイルたちをスンウォンが送って出る。
「すぐに戻るから」
と言われて、ヒョンジュは部屋で待っていた。
少し、大きな声でしゃべったせいかすこし疲れた。それになんだかもやもやする。ふと明るく元気で闊達なヘナのことを思い出していた。
家族、財産、健康、美貌。すべてにおいて恵まれているヘナを、いままで羨んだことはなかった。あまりにも自分とは違いすぎて比べようがない、と思っていた。
だけど、今日ドンイルの傍らにいる彼女に会って、スンウォンの傍にいる自分の存在があまりにも希薄に感じられた。
『わたしは…オッパに、なにもしてあげられない…』
ベッドに横になり、右手をかざして指輪を見つめ、そっとはずしてみた…。
そのとき、スンウォンが部屋に戻ってきた。
「疲れた?」
「少し。ちょっとおしゃべりしすぎちゃった」
スンウォンはベッドに座る。…とヒョンジュが指輪をはずしていることに気づく。
「どうした?」
「え?…あ、ちょっとかざしてみてた。ほら、こうすると裏から光が入るでしょ」
そういうヒョンジュをスンウォンはすこし不安げな目で見る。
「なくすから…ちゃんとしてて」
ヒョンジュの手から指輪を取ってはめる。
「…オッパ…」
「なに?」
「わたしは…オッパになにもしてあげられない…」
ヒョンジュが何を考えていたのかようやく理解する。なんでも持っていて、元気なヘナに少し嫉妬したのだろう。
「一緒に出かけたり…お料理をつくってあげたり…なにもできない…」
「デートは…ときどきしてるでしょ」
「だけど…」
「まだ、そんなことを言うの?…君は、今の君のまま、おれの傍にいてくれるだけでいい…。いや、君じゃなきゃだめなんだ…」
そう言いながら指輪をはめた右手をきゅっと握った。
昼下がりのナースセンターにコールが鳴り響く。
「チュ・ヒョンジュさん、どうしました?」
パク看護師が応答するが、返事がない。
「ヒョンジュさん?…」
もう一度呼びかけてみても反応はない。パク看護師は病室に走る。
「ヒョンジュさん!」
ヒョンジュはベッドにうつぶせになるようにして胸をおさえている。もうほとんど意識がない。
パク看護師はナースコールを押す。
「先生を呼んできて!ヒョンジュさん、チュ・ヒョンジュさんが…発作です!」
スタッフが駆けつけてきて、応急処置がなされる。搬送のためストレッチャーに移すときにコロコロとなにかが、ヒョンジュの手から転げ落ちたのにパク看護師が気づいた。そしてそれを拾って…白衣のポケットにいれた。
救急車が大学病院に滑り込む。手当てが早かったお陰でことなきを得たが、ヒョンジュはそのまま大学病院に入院することになった。
やっと手の空いたスンウォンが病室を訪ねると、まだ眠っているヒョンジュの傍らにパク看護師が座っていて、スンウォンが入ってくるのをみると、立ちあがった。
「君が…助けてくれたんだね…」
「いえ。スタッフとして当然の務めをしただけです」
淡々と答えるパク看護師の言葉がかつてのスンウォンの経験を思い起こさせた。…それができないことだって、あるんだ…。
まだ緊張の抜けない顔でヒョンジュを見つめていると、パク看護師が声をかける。
「あの…。…これ…ヒョンジュさんがにぎってました…。硬く握ってたみたいで…さっきみたら手のひらに跡がついてました…」
そういいながらリングをスンウォンに渡す。
「先生から返してあげてください…。じゃ、わたしはこれで帰ります」
軽く会釈をして病室を出ていく。
「ありがとう…」
スンウォンはその背中に声をかけた。
スンウォンは手にある虹色のリングを見つめる。
『握ってた…?どうしてだろう…また、はずしてかざしてみてたのかな…』
そういえば、ドンイルとヘナが来たあとにはずして見ていた…。また、何か考え込むようなことがあったんだろうか…。
そう思いながら、ヒョンジュの指にリングをもどし、ぎゅっと握る。そして眠るヒョンジュに覆いかぶさるように身体をそっと重ねた。
弱々しいけれど、鼓動が聞こえて、小さく呼吸する音も聞こえる。
「ありがとう…生きていてくれて…ほんとに…よかった…」
スンウォンの目から一筋の涙がこぼれた。


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