ファゴットの小野木です。

 「第九(だいく)」。
平仮名にしたら3文字。
たった3文字の響きだけで背筋がピンとさせられる感覚があります。

 始まってしまったら簡単には終われません。さぁいくぞ!と気合いを入れるものの、それはそれは大きな“何か”が立ちはだかって足元がすくんでしまうような、、これが正直な思いです。

 何歳の頃から知っているのか定かでないほど自然と耳に馴染んでいた第四楽章の歓喜の歌。低弦からはじまるあのテーマの緊張感。1stファゴットの美しいオブリガードが入る直前、今ではすっかり2ndファゴットの楽譜には低弦と共に演奏するよう大きな音符で書かれています。(旧版では影譜=小さな音符で書かれておりました)
弦楽器とファゴットのアンサンブルは大変美しいものなのですが、子供の頃から何気なく知っているあのメロディの波にのって美しく繋いでいく難しさを痛感しています。

 そしてファゴット奏者からするとやはり第三楽章の冒頭の話は無視できないところです。
2ndファゴットからはじまり1stファゴット、クラリネットへと繋いでいく序奏はその時にしか味わえないこれまた“何か”があります。
これはファゴットだけの話ではなく、何気なく始まっている部分もそれぞれの奏者がそれぞれ魂を込めて音を出している、ということです。
そんなことを我が身をもって実感するのがこの第三楽章の頭です。

 ファゴットパートとしては第四楽章で満を持して登場するコントラファゴットも忘れてはなりません。マーチの部分で2本のファゴットと共にブンッブンッと奏でる部分は簡単そうに見えてとても難しいです。全体の響きをぐんと広げる役割を担うコントラファゴットにも注目です。

 オーケストラと合唱(もちろん指揮者もソリストも会場のお客様も)が一つになった音の波の渦中にいるときには大きく立ちはだかっていた“何か”とも対峙しているというよりは、肩を組み合えているかな?という感覚になるような。。
(そもそも“何か”とは何なのでしょう!永遠の課題かもしれません)
とにかくその瞬間を楽しみに挑みたいと思います!

ファゴット 小野木 栄水