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第087話 佐藤の祝福
「あの事件以来、海産物は相当な打撃を受けました。
でもあの事件の真の原因が、一時的に北上した熱帯海流プランクトンで、治療薬も作られ、海流の南下でほとんど発生しなくなったことを受けて、『魚離れ』に対する反動が起こっているんだと思います。
特にこの店のようなオヤジさん世代には。」
「そうか…」
忙しさに追われるうちに、状況が変わったことに佐藤は気づいた。
いったい、あの騒ぎは何だったのだろうか…？
約一年前。
幾度となく新聞・雑誌・テレビを賑わせた［イカインフルエンザ］という用語は、原因の解明と被害者の回復によって、ここ数か月前からさっぱりと消えていた。
逆に昨今では、食の危険性のターゲットは「食肉」に代わっている。
佐藤の前に、ビールが出された。
「おい！お前も一杯つきあえ！金は払うから！」
そう言われて、急いで注いだ泡の多い由紀夫のジョッキとジョッキを重ねた。
「開店、おめでとう…な。」
小さく、つぶやくように佐藤は言った。
そう言われて恥ずかしくなったのは、むしろ由紀夫の方だったようで、既にできたであろう透き通るイカの刺身を取りに席を立った。
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