ドマクロ経済学者が経済を停滞させる。
公共投資および社会保障支出でGDPが増えるというのは単に統計手法上の数字であって、市場経済の自律的成長ではない。いわば、カンフル剤を打っているに等しい。これは対処療法であって、根本的治療ではない。カンフル剤に頼り続ける限り、国債による公共投資を半永久的に行い続けなくてはならない。GDPには、経済の真の足腰の強さ(自律的成長力)は反映されない。真の景気の指標は、政府支出を除いたマーケットの「通貨流通速度」である。
そもそも、公共投資は雇用対策のために行うものではなく、経済インフラの必要性に応じて行うべきものである。ここでは、雇用対策が果たして政府の役割であるのかという問題には触れないでおこう。
ビジネスにおいては、投資はレバレッジ(拡大再生産)を目的として行われる。一方、我が国の政府の行う公共投資にはレバレッジが全く効いていない。雇用の不足分を埋めるために、「いつまでも投資を行い続けなければならない」というのは、もはや投資ではない。投資は事業もしくは経済の成長に必要な期間と規模において限定的に行われるものであって、恒常的な支出はただの消費あるいは浪費に過ぎない。事業もしくは経済の自律的な成長に効果の無い投資を投資と呼ぶことはできない。雇用対策としての公共事業も社会保障も守りの支出であり、経済成長のレバレッジが効かないのである。レバレッジを効かせるなら、守りではなく攻めの予算を組まなければならない。つまり、現在の不足の穴埋めではなく未来の成長への積極的な予算投下である。それこそが、本来の意味での投資の在り方である。財政規模拡大論の根拠である「拡大均衡論」などとっくの昔に破綻している。これは、もう既に決着が付いているのである。政府債務の増加率に経済成長率あるいは税収増加率が追い付かない以上、単なる財政出動の規模拡大(バラマキ)で景気が回復することはあり得ない。経済効果を生む公共投資として、雇用対策の公共事業に当てていた予算を、科学技術の研究開発への直接投資に振り向けることでレバレッジを効かせ経済成長をもたらすことができるだろう。
日本政府の財政赤字が拡大したのは、プラザ合意以降の日米の貿易不均衡の是正のための内需拡大を目的とした公共投資の増額が原因であるが、更に小選挙区制の導入がこの財政赤字の拡大に拍車を掛けた。小選挙区制の導入によって、経済効果を生まない選挙区単位(ぶつ切りの「箇所付け」)の「公共投資のためだけの公共投資」が行われるようになったからである。事実、小選挙区制導入後に日本政府の財政赤字は急激に増加している。
現下の日本経済は、少子高齢化による労働人口の減少で、既にインフレ局面に突入している。有効求人倍率や失業率の数値の改善は人口構造の変化に由来するものであって、アベノミクスの成果ではない。これから日本経済に待ち受けているものとは、日本経済全体の供給(生産)能力の減少、経済サービスの低下、物流の停滞、物価高、貨幣価値および資産価値(名目上の金額ではなく資産の価値)の低下である。このインフレ傾向に、日銀の金融緩和政策と政府の財政支出拡大政策が追い討ちを掛けている。
労働者一人当たりの生産性を上げ、またICT、IOT、AIの積極的導入によって、少子高齢化でも“移民に頼らずに”商品・サービスが不足しないだけの供給(生産)能力を保たなければならない。今こそ、聖域なき構造改革が必要である!具体的には、ゼロベースの予算編成、構造改革特区政策を改めネガティブリスト方式による全国一律の産業規制の撤廃、公務員法の改正による公務員の身分保障の撤廃、外交・防衛・警察機能を除く政府機能の民間委託化を可能とする、不要な法律の廃棄、法律のスリム化と条文の簡潔化、行政府の準立法行為による裁量権限の縮小、行政による法律の恣意的運用の防止、警察権限の縮小と防衛力の強化、NATO加盟の検討、国会議員の特権を廃止し国会議員の歳費を民間の平均所得を上限とする、政党助成金の廃止と企業団体献金は政党本部のみへの献金を合法化、所得税のフラットタックス化、見える税金である消費税をメインの税収にし軽減税率を廃止、法人税の減税、固定資産税と相続税の原則廃止、産業補助金・助成金制度の原則廃止、定年の撤廃と見えない税金である社会保障制度の民営化、既得権益であるNHKや農協の解体、原発交付金の廃止と電力の完全自由化、放送電波の自由化、国立大学の民営化、郵政事業の郵貯を含む完全再民営化および特定郵便局長の世襲(地主)制の廃止、道路公団の廃止、土地改良事業の中止、TPPの再交渉による参加国の関税の完全撤廃と非関税障壁ルールの共通化、などやることは山ほどある。