保険会計に時価評価全面導入 国際会計基準審議会が草案
国際会計基準(IFRS)をつくる国際会計基準審議会(IASB)が7月末、
保険会社に適用する新しい会計基準の草案を公表した。柱は時価会計の全面導入。
資産だけでなく、将来の保険金支払いなどの負債についても時価評価が導入され
れば、国内生保は金利低下局面で純資産や利益が大きく目減りするなどの影響を
受ける。導入までに資産内容の見直しなどの対応が迫られそうだ。
IASBは2007年5月に保険会社の新会計基準について「たたき台」を公表。
それから3年以上を経過して、ようやく草案が公表された。11月末まで各国の保
険会社などから意見を募り、11年前半には新基準がまとまる予定だ。
日本の生保に最も大きな影響を与えるのが保険負債の時価評価だ。保険負債と
は主に将来に支払う保険金負担のこと。現在は契約時点の長期金利が変わらない
まま資産を運用できるという前提で負債を計算する。このため、負債額は一定だ。
だが、時価評価が導入されれば、年度ごとに最新の金利で負債を計算し直さな
ければならない。金利が上がれば、将来の運用益が増えるため、負債額は割り引
かれて減少する。逆に金利が低下すれば運用益が減って負債額は増加する。長期
金利の上下に応じて負債額が大きく増減することになる。
金利低下で負債が膨らんだとしても、保有する国債が値上がりして資産も同様
に膨らめば問題はない。国内生保各社が懸念を強めるのは、負債と資産の増減幅
が大きく異なるからだ。
多くの国内生保の場合、株式や不動産などの資産が全体の1割以上を占める。
このため、金利が低下しても負債ほど資産が膨らまない可能性が高い。この結果、
負債ばかりが増加して純資産が減少し、最悪の場合は「債務超過に陥る会社が出
てくる恐れもある」(大手生保関係者)。
さらに新基準では純資産の変動分が損益計算書の純利益に反映される。金利が
下がって純資産が1千億円減れば、純利益も1千億円目減りすることになる。あ
る国内大手生命保険は金利が1%変動すると純資産が1兆円増減するという。こ
れが純利益に反映されれば、「金利次第で赤字になったり、黒字になったりと業
績が不安定なように見えてしまう」(同)と危惧する。
時価評価導入の影響は生保の抱える保有契約や資産の中身によって大きく変わ
る。例えば、契約者に約束した利回り(予定利率)を運用利回りが下回った際に
発生する「逆ざや」を多く抱える生保は負債が大きく膨らむ可能性が高い。株式
や不動産など債券以外の資産を多く持つ生保は金利変動が純資産や損益に与える
影響が大きい一方、ほとんど国債しか持たない生保は影響が少ない。
国際会計基準の日本への導入は15年度ごろといわれる。それまでに生保各社は
株式を減らして債券を増やすなど資産構成の大幅な見直しは避けられない。保険
会社への株売却の圧力は一層強まる。
純資産が少ない生保の場合、自己資本の強化も必要となりそうだ。単独での資
本強化が難しければ、合従連衡が起こる可能性もある。時価評価の全面導入が業
界再編のきっかけにもなりそうだ。
(日経新聞より)