断腸亭日乗

永井荷風著

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ちょっと無理して、高尚な本も1冊くらい入れておこう。

元祖徘徊中年であった永井荷風の、大正6年(37歳)から死の直前である昭和34年までの日記を綴った大作である。
荷風作品は『墨(正確にはさんずいが付く)東綺譚』しか読んだ事がなかった。
徘徊中年を名乗った上は、本作品を読まねばならないだろうと、
以前図書館で全集のページをめくってみた。
…無理。読めない

古文ではないにしろ、超難読漢字が羅列する文語体。
しかも、旧仮名遣いの上振り仮名もなし。
自分の国語力のなさに恥じ入るばかりで、本を閉じた。

しかしその後、振り仮名を振り、仮名遣いも改めて抄録した文庫本がある事が分かり、購入。
それでもかなりの読み辛さながらも、何とか挑戦してみた。

膨大な日記を文庫2冊に分けての上巻。大正期から昭和初期の日常や東京の風景が描かれる。

荷風は徘徊の傍ら、風俗・遊郭にも遊ぶ艶福家の印象が強かったが、意外にも病弱であったようだ。
一時期は、通院のために街中に部屋を借りていたほど。
もしかして、女性を連れこむため?

そんな自身の体調や、天候などが結構詳しく記されている。
また、読書や観劇の感想も時おり書かれているのは、僭越ながらもワシの映画感想文と共通するところがある。

そして中でも圧巻なのは、徘徊の様子を表す文章だろう。
訪問先や移動手段を詳細に表すあたりが嬉しい。
当時の東京の空気が流れる。

時代が時代だけに、関東大震災や大正天皇崩御の事にも触れている。
時事問題は取り上げる事もあるが、そのスタンスは一貫してクールである。

一方、結構愚痴っぽく、了見の狭いところも見せる。
家への無礼な訪問者など、その住所実名まで公表してしまう始末。
とんでもないオヤジだ。

この本を読み進めていて思い出したのは田中康夫の『ペログリ日記』。
今は廃刊となった雑誌『噂の真相』の連載していた物で、時代は違う物の基本的スタンスは同じ。
実名は出さない物の、田中康夫と彼女たちとの”交流”を赤裸々に書いていた。
しかし連載途中で長野県知事になってしまい、その手の描写が無くなったのは卑怯と言うか仕方ないと言うか。

拙ブログのタイトル『徘徊中年日乗』の”日乗”は、もちろんこの本から取った。

しかし、最近になって『晴ル風ヤ日乗』なるブログがある事を発見。
考える事は同じだと、ぼやく事しきりである。