@Ben Morlok 

 

 

先月、トルコに旅行で行ってきました。飛行機に乗ること13時間、飛んでイスタンブール。

このフレーズにピンとくる人は私と年代が同じか上、かと思います。庄野真代さんという歌手の1978年のヒット曲。私は小学生になった位でしたが、その印象的な歌詞とメロディーは吸収力抜群の子どもの脳みそにしっかり浸みこみました。

 

サビの「飛んでイスタンブ~ル」に続くのが「うらまないのがル~ル」。さすが昭和歌謡の大御所、筒美京平作曲。耳に残る韻を軽やかなメロディーで運んでいます。

この年には、羽田に次ぐ国際空港として紆余曲折を経て成田空港が開かれたそうです。会社の営業成績一番のごほうびやら、農協の積み立てツアー、クイズ番組の商品は花の都パリだったりで、華やかな海外(といえば、その頃は=欧米)へ多くの人が思いを馳せていたことでしょう。

 

そこでそれまで耳にしたことの無かった、東洋と西洋が出会うエキゾチックな都市の名前「イスタンブール」に続く「うらみ」という、ウキウキしていた心にスッと差し出されたダークな響きは得も言われぬ不協和音を奏で、一体なにが起こったのか⁉と、老若男女の聴衆を引き付けたことは想像に難くありません。

 

1978年。ピュアだったであろう私の心に忍び込んだサスペンスフルな言葉、うらみ。その頃の黒い感情はもちろん恋愛云々であるはずもなく。たとえば、母親が作ったシュークリームを次の日にもう一つ食べることを楽しみにしていたのに、あっという間に兄弟に平らげられてしまっていたことを知ったあの日、心の底に流れ込んできた、といったジャンルのものだったでしょう。テレビからよく流れてきたメロディーに乗せられて小学生の語彙に加わったこの言葉は「イヤだったー、えーん」という、幼稚園レベルの表現から「うらむぞよ…」と目つきさえ変えてしまうような新たな表現の術を私に与えました。

 

それはさて置き、歌詞はその部分しか知らなかったので、調べてみました。

内容は想像できる通り、終わった恋愛を振り返るもの。出会いと別れの場面が切り取られているけれど、あとは言葉遊びっぽい。分かるのは、バーで知り合って飲んで相手はタバコを吸っていたんだな、といった程度。「あったことも蜃気楼 真昼の夢」とされており、察せられるのは大人の高等恋愛技術をしてのやりとりがあった…といったところか。

 

そして「イスタンブール」に押韻の「光る砂漠でロール」と来た。砂漠?トルコ旅行に当たり、基本情報はさらったつもりが、砂漠があるとはつゆ知らず、急いでググる。…果たしてトルコに砂漠はないことが分かりました。これはトルコに行く機会があり、かつ「飛んでイスタンブール」が頭をループしてしまう人々が次々と知る事実らしいですね。そして私にもバトンが渡されたという。

 

それにしても「砂漠でロール」とは?

頭に浮かんだのは、風で波の模様が付けられた果てしなく広がる砂漠の丘の上に、シックなワンピースを着た女性がたたずんでいる。そしておもむろに腰を下ろしたかと思うと横たわり、両手を伸ばしたかと思うとゴロゴロと砂の上を転がっていく様子でした。そんなの旅先のひと時の夢、恋のルールですものと強がってみたものの、実は抱えてしまったうらみを昇華させようとしているのか?はたまた相手からのルールを超えたうらみを振り払おうとしているのか?

 

終わったことを語ってみたところで事実は複雑だったりで、本心は分からないのかもしれません。現地にはない砂漠という想像上の乾いた幻影を使ってその含みを残しているのが、ヒットした所以なのかもな、と思い至りました。

 

イスタンブールのモスクや博物館を訪れて、国や街の歴史が知れたのはとても良かったです。