アレクサンダー・ペイン監督最新作。

 

名門男子校のクリスマス休暇。行先のない少数の生徒たちが学校に居残るため、嫌われ者の教師ポールが彼らの監督役を務めることに。しかし、色々あって居残りの生徒はアンガスひとりに。ポール、アンガス、そして食事を作るために残ったスタッフのメアリーだけで過ごす2週間が始まる……。

 

最高のクリスマスムービー!それなのに日本公開が6月……ここまで来たら夏休みの方が良かったのでは?という気がしなくもないが、とにかく素晴らしい作品だった。

 

舞台は70年代のアメリカ。家庭環境に起因する苦しみを抱えているアンガス、戦地で息子を亡くしたばかりのメアリー。そして、ひねくれていて皆から嫌われているポール。「校内で2週間過ごさなければいけなくなった」というだけで繫がった3人の人生が交差する。ただそれだけの物語なのに、最初から最後まで心を打ち鳴らし続けるのはなぜだろう。

 

アンガスもポールも不器用で誤解されやすいタイプであり、人付き合いが上手くない。だから衝突もするし、すぐに問題も起こる。しかし、ポールはあくまでもアンガスを保護すべき対象として守り、メアリーも適度な距離を保ちながらアンガスを見守っている。家庭の事情によって深く傷つき、心を固い棘で覆ってしまっていたアンガスは、2週間の不格好な疑似家族の一員となることによって段々と「ちゃんと安心すること」「ちゃんと甘えること」を取り戻していくのだが、その過程のひとつひとつがとても丁寧で、皮肉が効いていて、だけどものすごく優しくて。すべてのシーンを抱きしめたくなるほどに愛に満ちた映画に仕上がっている。

 

最初はぎくしゃくしていた人間同士が、お互いを理解するという行為を積み重ねていくことによって、自分自身を救っていく。ポールとメアリーはアンガスに大人としての責任と愛情を、ポールとアンガスはメアリーに喪失による深い悲しみに寄り添ってあげることを、メアリーとアンガスはポールに過去に囚われ隠れていた自信の優しさを再発見する手助けを。それぞれに傷を抱えた3人が、慈愛と絆で徐々に築き上げていく柔らかい空気感が本当に素晴らしい。

 

70年代らしい色彩や衣裳といったビジュアル面も魅力もあり、最初から最後まで好みど真ん中の作品だった。3人を演じたそれぞれの役者も達者。特にアンガス役のドミニク・セッサは本作がデビュー作だとか。斜に構えた生意気さの内側に、優しい少年の表情を覗かせる絶妙な演技が見事だった。いわゆるクライマックスらしいクライマックスがない、しみじみと胸を打つ傑作。