(第二景)
⒋
⑴
翌日。
詐欺師の新名と健太が花月うどん店の法被を着ている。
健太「兄貴、昨日はバレずに息子に成り切れましたね」
新名「よう行けたな」
新名「息子、あんなアザあるんや」
新名「お前も店のアルバイトになれて、一安心やな」
二人は早速働いている様子。
⑵
新名たちが店の権利書を奪い取る作戦を再確認する。
新名「借金取りが来て、俺に借金があることにする」
新名「借金の肩代わり名目で、土地の権利書を奪う」
新名「借金取り役は手配できてるんやろうな?」
健太「ばっちりです。連絡付いてます」
⑶
大将・直之と女将・展代が買い出しから戻ってくる。
直之は小さな紙袋をアピールし、
直之「ただいま。うどん粉買うてきた」
(うどん屋が、片手で持てる量の粉? 何玉分?)
展代はビニール袋をアピールし、
展代「今夜はヒロシの大好物のおでんを作るからね」
展代「はんぺん、ようけ買うてきたさかいに」
直之「家族揃っての夕飯もええもんやな」
展代「そや。久しぶりに家族が揃うたことやし、
新名「写真はええわ」
展代「ヒロシ、あんた、
展代なりの冗談を飛ばす。
後々のことを考え、証拠を残したくない、新名。
⑷
展代の押しが強く、写真を撮らざるを得なくなる。
健太「写真やったら、僕が撮ります」
上手側に展代・新名・直之の順で並び、
下手入り口付近で健太がスマホを構える。
①
健太「はい、チーズ!」
と同時に、新名がしゃがみ、靴紐を結ぶ。
展代「ヒロシ、なんしてんの?」
新名「靴紐が解けてたから」
展代「あんたの靴、靴紐無いやつやないの」
新名「ごめん、勘違いやった」
②
撮り直し。
健太「はい、チーズ!」
と同時に、新名が手のひらで自分の目を隠す。
展代「ヒロシ、なんしてんの?」
新名「あっ、これ、今、女子高生の間で流行ってるポーズ」
展代「あんた女子高生ちゃうでしょ? 男でしょ?」
③
撮り直し。
健太「はい、チーズ!」
と同時に、新名が直之に甘えるように顔を直之の腹に埋め、
上げていく独特のイントネーションで、
新名「お父ちゃ〜ん(涙)」
展代「ヒロシ、なんしてんの?」
新名「久しぶりに再会したから…」
④
新名「お父ちゃん、お母ちゃんの横に並び?」
新名「俺は端っこでええから」
展代が横にいると不審な行動を気付かれ、撮り直しになるため、
自然な会話で間に直之を入れる。
展代・直之・新名の順で並び、撮り直し。
健太「はい、チーズ!」
と同時に、新名は顎を引き、ピースサインを前に出し、
展代は写真撮影に満足した様子。
⑸
展代「お母ちゃん、幸せや」
展代「折角やから、写真を店に飾りましょ!」
健太「それやったら、
展代「お願いできる?」
健太が外出していった。
新名が独り言で、
新名「あいつ(=健太)、真面目に働くなあ」
⒌
⑴
花月うどん店の女将・展代
大将で展代の夫・直之
直之と展代の息子ヒロシに成り済ましている、詐欺師の新名
3名。
クリーニング店の蒲島・まみ夫婦がうどん鉢を返しに来る。
カバ「今日はコシがあった」
展代「ヒロシが手伝ってくれたから。美味しかったでしょ?」
まみ「確かに…」
展代「なんや、捻くれもん!」
まみ「なんや、カッパみたいな顔して」
展代「あんたこそ、お尻大き過ぎて、豆タンクみたいやわ!」
展代の言葉に合わせ、まみが客席にお尻を向ける。
だが、そこまで特徴的な大きさは感じられず、客席の反応は薄め。
⑵
まみ「カッパ!」
展代「豆タンク!」
犬猿の仲の二人が小学生の口喧嘩を始める。
直之「やめなさい」
直之が二人の間に割って入ろうとすると、
その際、展代の手が直之の胸に当たり、
直之「ピュッ」
上記の流れを3度繰り返し、
直之「ピュッピュルッピュドン!」
客席から拍手が起こる。
次の瞬間、二人は直之のギャグを無視して、
まみ「カッパ!」
展代「豆タンク!」
直之「なんでやねーん!」
直之「渾身のギャグを無視すな!」
展代「拍手あったんやから、ええやないですか。(苦笑)」
直之「ギリや!」
ギリギリとも義理とも取れる発言。
いずれにしても、お決まりの拍手に過ぎないと捉えている様子。
⑶
蒲島の息子・亜由貴がクリーニング店から出てくる。
亜由貴が蒲島に尋ねる。
亜由「洗剤が切れたんやけど、場所を教えてくれる?」
展代「ヒロシ、亜由貴君や」
新名「亜由貴?」
展代「クリーニング店の息子さんや。
亜由貴の方も新名の顔がピンと来ない様子。
カバ「うどん屋のヒロシ君や。昔、よう遊んでもろうたやろ?」
亜由「ああ」
亜由「お久しぶりです」
亜由貴が新名に余所余所しく挨拶する。
展代も直之も蒲島も詐欺師・新名をヒロシと信じ込んでいるが、
20年ぶりの再会で、
新名も余所余所しい感じで返す。
新名「お久しぶりです」
展代「なんやの、二人とも余所余所しい。幼馴染やのに」
新名「20年ぶりに会うたら、そんなもんや」
「自分は詐欺師で亜由貴を知らない」とは言えない、新名。
⑷
亜由貴が蒲島に尋ねる。
亜由「洗剤どこ?」
蒲島「あのー、突き当たりを右に曲がった先にあるイオンの2階に置いてる」
亜由「買いにいかなあかんのか!」
亜由「行ってくる」
亜由貴が洗剤を買いに出かけた。
その6に続く