⒗ 終
⑴
自分たちを庇ってくれた友見親子に感謝する、裕。
吉田「ありがとうございます」
吉田「こんなどうしようもない二人を、」
敦史が裕の言葉に被せるように、
奥重「ありがとうございました!」
吉田「(俺が)まだ、喋ってる!」
吉田「…、まあ、ええわ」
裕は多くを語ることはやめ、敦史と一緒に深く礼をする。
吉田・奥重「ありがとうごさいました!!」
⑵
友見が西郷の壺を裕に差し出す。
友見「貰ってください」
吉田「でも、旦那さんとの思い出が…」
友見「いいんです。夫も喜ぶと思います」
吉田「ありがとうございます!」
裕は友見から西郷の壺を受け取り、ボストンバッグに仕舞う。
⑶
裕が美優に優しく語りかける。
吉田「これからも色々なことがあると思う」
吉田「でも、困ったら、まわりの人が協力してくれる」
吉田「一人で抱え込まないで」
美優「はい」
⑷
裕と敦史が旅館を去っていく。
裕が玄関付近まできたところで、背後にいる敦史が泣き始める。
吉田「どうしたんや?」
奥重「かっこいい、アニキ。(涙)」
奥重「旅館の問題を解決して、壺も手に入れた(ウルウル)」
奥重「アニキは平成の、いや、令和の寅さんです!」
吉田「なんで平成挟んだ?(苦笑)」
奥重「でも、寅さんはもういるんで、午(=馬)さんです!」
吉田「なんやそれ!」
奥重「アニキ!、いや、令和の午(=馬)さん!」
吉田「馬ちゃう! 吉田裕や!(苦笑)」
奥重「俺、アニキに一生付いていきます!」
吉田「照れるやないか」
⑸
吉田「ほな、行こか」
裕が颯爽と玄関を跨ぐ際に躓き、
ボストンバッグが道に落ちた瞬間、『パリンッ』
吉田・奥重「…!」
慌ててボストンバッグを開け中身を確認する、裕。
割れた西郷の壺を取り出し、
吉田「あーっ、壺が割れてもうたーっ!!」
すると、裕を心酔し始めていた敦史が我に戻ったようにドライに、
奥重「アニキ、」
奥重「お疲れ様でしたー」
敦史は裕を見限り、奥側の道路から一人で去っていく。
吉田「どこ行くねーん!!」
遠ざかる敦史の背中を寂しげに見つめる裕であった。
終
[カーテンコール]
⒈
奥重敦史さんのコルセット
吉田裕さんが奥重さんに対し、
吉田「コルセット、外して?(苦笑) 見てられない」
奥重「あれも含めて俺やから」
奥重「コルセット取ったら動かれへん」
吉田「そんなギリギリなん!?(半笑)」
奥重「二ヶ月前はこんな歩き方やった」
と、ロボットのようにゆっくりぎこちなく歩行する。
奥重「一回外してみよか?」
吉田「何かあったら怖いから、やめとこ。(苦笑)」
⒉
天才・もりすけさんが手当たり次第に殴る場面について
吉田「昨日は無かった」
奥重「(犯人ではない)俺まで殴られた。(半笑)」
もり「テンション上がってたから」
奥重「もりすけがテンション上がったのは、理由があるんです」
奥重「NGK公演のカメリハの時に一分の長台詞を言えたんです」
観客「おおー」
観客の声に対し、吉田さんが冷静に、
吉田「できて当たり前です。プロですから」
⒊
公演を担当した奥重さんの感想
奥重さんは学生時代に戻ったかのように心が弾んだようで、
奥重「なんか、良いね」
奥重「みんな生き生きしてる」
奥重「そんなん、高校生以来やん?」
奥重「文化祭してる気分」
奥重「素敵やん?」
吉田「まとめろや!(苦笑)」
[雑感]
⒈
新喜劇
⑴
教科書的展開の中にちりばめられた、奥重さんの緩い笑い。
⑵
吉本新喜劇として見ると斬新な演出もありまして、
暗闇の中、声とペンライトで物語が進行する二景が印象に残りました。
新しい新喜劇を意識している吉田裕さんらしい場面でした。
演劇としては『深夜、明かりの消えたロビー』であることが分かれば良いだけで、
通常ならば照明の色や強さを変えつつ客席からの視認性は確保するところ、
今回は真っ暗にすることで笑いやオチに繋げていました。
ただ、決して『斬新ありきの斬新さ』ではなくて、
暗闇の中で盗みを働く、という物語上一番自然な流れになっていました。
※
追記
「はじめに」で触れた祇園花月公演『カップルのシャッフルはトラブルだらけ』では
川畑泰史さんが得意とする天丼構成に吉田さん流のアレンジが加えられていました。
後述する話との兼ね合いで、レポートのアップに合わせて追記しました。
⒉
奥重敦史さん
吉本新喜劇関連でずっとお世話になっている方(=奥重さんファン)の奥重さん評、
『天真爛漫で無欲』。
まさしくその通りの奥重さんが見られました。
新喜劇では天真爛漫さが爆発していて、とにかく楽しそうでした。
カーテンコールでは幸せそうに「文化祭してる気分」
相変わらず欲の無い発言ですね。
それが奥重さんの唯一無二の魅力でもあり、少し勿体無くも思えるのですが。
⒊
作品タイトルについて
⑴
『盗人は感情豊かで義理人情に厚し』
『盗人は感情裕で義理人情に敦史』
『盗人は感情ゆたかで義理人情にあつし』
『盗人は、感情ゆたかで義理人情にあつし』
どう表記するか迷いましたが、
①ダブルミーニングであること
②前説のタイトルコールで細かく区切ったこと
以上から『盗人は、感情ゆたかで、義理人情にあつし』としました。
⑵
「どうでもいい」と言われればその通りかもしれませんが、
個人的にはタイトルも作品を構成する重要な部分と考えておりまして。
①タイトル
②作・演出
③キャスト
3点を記載した紙を入場者に配付してくださると嬉しいです。
と、ここまでが公演当時に作っていた内容です。
最後に、新座長に決まったお二人について少し触れたいと思います。
[吉田裕さん・アキさんへの期待]
⒈
出来上がる新喜劇はまるで違うものの、共通点も多い、お二人。
・誰とでも共演できる
・人を傷付けない笑いを意識している
・新しい新喜劇を意識している
共通点として以上の3点が挙げられるかと思います。
⒉
誰とでも共演できる ⇒ 吉本新喜劇の潤滑油としての期待
吉田裕さんは誰と共演しても自然に合わせられる座員さん
アキさんは、
主催イベントではかなり柔軟に幅広くキャスティングされる印象です。
お二人が吉本新喜劇の中和剤となり、
百名超の座員さんたちが積極的に交わることを期待しています。
⒊
人を傷付けない笑い
吉田裕さんの新喜劇は身体的笑いの比率が明らかに低いですね。
毎回、相当慎重に台本を練られているように感じます。
「Yes,and」精神のアキさんは身体的笑いの際も表現が柔らかい印象です。
吉本新喜劇は身体的特徴を武器にした座員さんも多く、
身体的笑いは座員さんの個性を活かすための笑いであり、
私自身はあくまで劇の中のことと現実社会とは切り離して楽しんでいます。
ただ、
お二人については掲げた笑いを突き詰めてほしいです。
⒋
新しい新喜劇
新喜劇の内容からも発言からも新しいものを意識されている、お二人。
吉田裕さんは既存新喜劇の延長線上の新機軸、
アキさんは既存新喜劇とは全く異なる新機軸、
を考えている印象です。
いちファンの私には「吉本新喜劇の作風はこうあるべき」考えはありません。
逆に「こうあるべき」
吉本新喜劇座員さんが演じて、魅力的な物語・登場人物・
それで吉本新喜劇でいいんじゃないかな、と。
吉本新喜劇の伝統・常識・定石にとらわれることなく、
お二人の思うがままに作っていただきたいです。
楽しみにしています。
2022/06/04〜05
【セカンドシアター新喜劇 吉田裕さん・奥重敦史さん班】
『盗人は、感情ゆたかで、義理人情にあつし』 完