[セット紹介]
花月旅館のロビー
典型的な茂造旅館セットです。
舞台下手端…旅館入り口通路
下手寄り奥…客室への通路
中央奥…下手から上手に向けて二階への階段
上手奥…フロント
上手端…事務室・厨房・トイレ等への通路
[物語]
(敬称略)
⒈
⑴
「♪ホンワカパッパ~」で開幕。
舞台は祇園にある花月旅館のロビー。
今日もまたチェックイン時刻が訪れ、
若めの番頭・高井(高井俊彦)がフロントで宿泊リストを確認している。
そこに、若者カップルの松本(松本慎一郎)と香織(こがちゃん)が宿泊に訪れる。
高井が二人に気付き、
高井「いらっしゃいませ!」
香織が予約していたことを告げる。
松本がロビーを見回し、
松本「風情があって、ええ旅館や 香織ちゃんに任せて正解やった!」
香織「慎一郎さんに喜んでもらえて嬉しい」
高井「どうぞ、こちらにお掛けください」
高井に促され、松本がテーブル下手側席に、香織が上手側席に座る。
その際、松本は観客席側にボストンバッグを置き、『後』の準備を済ませる。
高井が上手端通路奥に呼び掛ける。
高井「麻理奈さん、お客様がご到着されました!」
女性『はーい!』
(松本↓テーブル↓香織↖︎高井、のポジションで)
香織「慎一郎さん、夕食はフレンチ料理のフルコースが食べられるのよ?」
松本「そうなんやー」
高井「三つ星料理店で修行したシェフが腕に寄りを掛けて作っております」
香織「楽しみー!」
松本も頷く。
⑵
物語の主役、旅館スタッフの麻理奈(富樫世羅)がお盆を持ち現れる。
麻理奈は170cmを超える長身で、二十代半ばに見え、
旅館の法被に黒ショートパンツの組み合わせはまるで阿波踊りの男踊りの衣装のようで、
すらりとした美脚が強調されている。
ハキハキとした、健康的な美人の印象。
麻理「当旅館名物の温泉水をお持ちしました」
と、コップをテーブルに置く。
麻理「美肌効果があってお肌が潤うんですよ」
香織が麻理奈に対し、
香織「だから、(従業員さん、)綺麗なんですね」
麻理「もう、そんな綺麗やなんて、イヤやわあー!」
と、お盆で松本の頭を叩く。
松本「痛ーっ!、何するんですか!」
麻理「すみません!、綺麗って言われたから、嬉しくって、つい~」
香織「まあまあ、慎一郎さん、そんなに怒らないで。従業員さんも悪気は無いんやし」
香織に宥められ、松本が笑顔を取り戻す。
⒉
⑴
麻理奈が高井のもとに行き、
麻理「そう言えば、今日から働くアルバイトのお爺さん、まだ来てないですね」
高井「そうなんや」
高井「初日から遅刻って何考えてんねん!、茂造さんはーっ!」
すると、楽しげで軽快な出囃子が流れ、
茂造「あー、遅れてもうたーっ!!」
新人アルバイトで、ジャージ姿の白髪お爺さん・茂造(辻本茂雄)が勢いよく登場。
公演の主役が現れ、客席が大きく沸く。
その勢いのままバッグを蹴り飛ばすと、
「わあ」という声も混じり、更に大きく沸き上がる。
高井がバッグをダッシュで拾い戻ってきて、茂造を問い詰める時間。
・みなまで言うな、蹴ったワシが一番驚いてる!
・高井「何で蹴ったんや!」→あったからー!
・サボった理由→路上での傷害事件発生→サボって観ていたTVドラマの話
・怒られ逆ギレ→「全集中、怒りの呼吸!」とバッグをフルスイングし、松本を叩く
・松本「何してんねん!」→記憶に無いー!
・松本「なんちゅうジジイや!」→茂造~
等、茂造登場時の定番ネタで観客が期待するものをひとつひとつ満たしていく。
怒る松本に、
高井「すみません、夕食でドリンクサービスしますので」
松本「それやったら許します」
茂造「ありがとう」
茂造「全集中、感謝の呼吸」
と、松本のお腹にバッグを全力で投げつける。
松本「…」
松本のセリフ忘れで少しの間、沈黙が続く。
全員「…?」
松本「…、このジジイは全くもうー!」
茂造「なに、記憶喪失になってんねん!(苦笑)」
松本「…、そうですね」
松本の独特の返しに、また一瞬沈黙が生まれる。
全員「…(苦笑)」
松本がテーブル席に座る。
⑵
香織は食への関心が強いようで、高井に尋ねる。
香織「今日のメインディシュは何ですか?」
高井「シェフの方からご説明を」
高井が上手端通路奥に呼び掛けると、シェフの永田(永田良輔)が現れる。
今回の物語ではオネエキャラ・キャンディではなく、爽やかな青年のよう。
永田「なんでしょうか?」
高井「お客様にメインディシュのご説明を」
永田が長台詞で難解な料理名を何度か躓きそうになりながらも言い切る。
茂造は判断を迷うが、両手を大きく水平に左右に出しながらセーフポーズを作り、
茂造の判断を待っていた高井も続いて、
茂造・高井「セーフ!(苦笑)」
難解な料理名を聞いた松本の反応は、
松本「美味しそうや」
茂造「分かってへんやろ!」
と、松本の頭を叩く。
香織「楽しみね」
茂造「嘘つけ!」
と、香織ではなく、また松本の頭を叩く。
⑶
客室の鍵を渡す際の『何々の間』のくだりが終わり、
松本と香織が階段で2階の客室に向かう時間。
松本と香織のミニコントが始まる。
香織「慎一郎さん、好き好き好き好きー!」
松本「そんなこと言ったら、恋愛ポリスが君を逮捕しちゃうぞ!」
香織「きゃー!」
松本「待てー!」
香織が階段を駆け上がり、松本が追いかける。
香織が階段を上り切り、松本が手前まで来て、
松本「つーかまーえた!」
と、香織の腰に両手を回しかけたところで、茂造が杖で壁を叩くと、
階段が坂になり、松本が滑り落ちる。
高井が茂造に対し、
高井「なんやこれ!?」
茂造「ワシの手作り」
高井「なんで落としたんや!」
茂造「お前も分かってるやろ? めっちゃ寒いコントやったから」
茂造が杖で壁を叩き、階段を元に戻す。
高井が松本に対し、
「こちらからも行けますので」
と、下手寄り奥側通路を勧める。
松本が通路から客室に行こうとすると、茂造が杖で壁を叩き、通路扉が閉まる。
腰を抜かす、松本。
高井が茂造に対し、
高井「これもお前がやったんか!」
茂造「イエスアイドゥー」
松本が慌てて客室に向かった。
高井「元通りにしといてや!」
茂造「はい、はい。はいは一回!」
⑷
永田は茂造とは初対面で、
永田「こちらのお爺さんは…?」
茂造「遅刻した新人や!」
高井「偉そうに言うな!」
高井「オーナーが出張から戻ってきたら、指導してもらうからな!」
⒊
⑴
花月旅館オーナーの要(要冷蔵)と息子で跡継ぎの健一(井路端健一)が
福岡出張から戻ってくる。
二人はビジネス用のスーツを着ている。
健一の方は二十代半ばといったところだろうか。爽やかな青年に見える。
要冷「ただいま」
高井「オーナー、坊っちゃん、お帰りなさいませ」
要が茂造を見て、
要冷「こちらのお爺さんは?」
茂造「新人アルバイトの茂造や」
要冷「…?」
立場が逆転したような茂造の物言いに呆気に取られる、要。
要冷「オーナーの要です」
茂造「まあ、頑張りたまえ」
要冷「…?」
健一「息子の健一です」
健一は(演者の素の)ファッションで奇抜な七三分けをしていて、茂造が素気味に
茂造「めっちゃ変な髪型やな。(苦笑)」
健一「そんなことないです。(苦笑)」
⑵
茂造の遅刻について、高井が怒り気味に要に告げる。
要冷「まあまあ。初日やから大目に見ようやないか」
茂造「要らんこと言うな!」
高井「オーナー、許してくれてんねん!」
茂造「…!」
⑶
健一「麻理奈さん、お土産」
健一が紙袋を麻理奈に渡す。
麻理奈が中を覗き込み、
麻理「わあ! 鈴懸の苺大福!」
麻理「休憩の時にいただきますね」
苺大福を事務室に置きに上手端通路に消える、麻理奈。
健一の麻理奈への好意が観客に伝わる。
アルバイト初日の茂造が健一に対し、
茂造「ワシには無いんか?」
高井「あるわけないやろ!」
不満げな茂造。
食通の辻本座長公演では、和菓子の具体名が出ることも楽しみのひとつ。
⑷
要が表情を険しくし、高井たちに対し、
要冷「今日は手島組の組長が泊まりにくるから、注意するように」
茂造「手島組いうたら、二ヶ月前に襲撃されたってニュースになっとったやないか」
健一が宿泊予約を受けたようで、
健一「名前だけでは手島組と気付かず…、僕のミスです」
茂造「ボサッとしとるからや」
要冷「とにかく、他のお客様に迷惑が掛からないように気をつけてくれ」
高井「分かりました!」
その3に続く