⒑
⑴
売店アルバイト・茂造
売店店長・大島
院長・高井
看護師・幸恵、花子
五人。
景子の彼氏・翔太が上手端通路から逃げるように現れ、
病院入り口通路に逃げて行こうとする。
景子が翔太を追って現れ、翔太に対し、
景子「待って!」
翔太「僕…ごめんっ!」
翔太が入り口通路に消えた。
高井「挨拶も無しに、一体どうしたんや?」
幸恵「随分、慌てていたみたいだけど…」
茂造が厳格な父親風に、標準語のイントネーションで、
茂造「帰りの挨拶もせんような男、ワシは認めんぞ」
大島「あんた、関係無いやろ!」
高井「いや、茂造さんの言う通りや」
高井「皆、仕事に戻ってくれ」
高井が上手端通路から院長室に向かう。
茂造・大島は売店バックヤードの掃除に向かい、
花子は入院病棟の巡回のため、下手奥通路に消える。
⑵
幸恵と景子、姉妹二人。
幸恵「景子、何かあったの?」
景子「…」
幸恵「翔太君と喧嘩でもしたの?」
景子「ううん…」
幸恵「そう」
幸恵が下手奥通路に消えようとする。
景子「お姉ちゃん、待って!」
幸恵が立ち止まり、景子の方を振り向く。
景子「実は…」
幸恵「どうしたの?」
景子「私…」
幸恵「…?」
景子「妊娠してるかもしれないの!」
幸恵「えっ!?、本当なの!?」
景子が頷く。
景子「不安なの…」
幸恵が上手方向に体を向け、戸惑いの表情を見せる。
幸恵「景子が妊娠!?」
その瞬間、売店横の壁(=コーヒーボトル展示棚)が落ち、
茂造・大島・花子「えーっ!!!」
と、三人が現れる。
茂造「景子ちゃんが妊娠してるとは、気付かんかった」
大島「あんた、今日来たばっかりやろ!」
幸恵「立ち聞きしてたんですか!?」
茂造「立ち聞きとか失礼な!…掃除してたら、最後の方が聞こえてきたんや」
幸恵「『最後』って、どこから?」
茂造『景子、何かあったの?』
幸恵「もう、最初からじゃないですかー!」
⑶
景子は体調が優れず、妊娠検査薬で調べたところ、陽性反応が出たらしい。
茂造「ほんまか?」
と、妊娠検査薬の使い方を事細かに説明する。
大島「詳し過ぎるやろ!」
茂造「もう一回、検査してみろ!」
バッグから妊娠検査薬を取り出す、茂造。
大島「なんで持ってんの!?」
茂造は小指を突き出し、
茂造「これ(=彼女)が心配してるみたいやから」
大島「元気過ぎるでしょ!」
⑷
大島「このことを院長が知ったら、怒りますよ」
茂造「手ー繋いだだけで怒るのに、妊娠を知ったら、どうなんねやろー!?」
楽しそうな、茂造。
幸恵「このことは黙っておいてください!」
茂造「黙ってられるかなー!?」
⑸
上手端通路から高井が現れる。
茂造は高井を見て、
茂造「お爺ちゃん!」
全員「…」
高井「…お爺ちゃん?」
茂造「ワシ、お爺ちゃん!」
茂造「一日一回、確認してる」
茂造「ワシ、お爺ちゃん!」
高井「…?」
この段階では、なんとか誤魔化すことができたが…
⑹
高井が景子に尋ねる。
高井「バレエの先生から連絡があって、いつ復帰できるか聞いてたぞ」
景子が高井に背を向ける。
高井が景子の肩を揺すりながら、
高井「景子、なんで無視するんや!いつ復帰するんや!」
その様子を見る茂造が早口めに、
茂造「乱暴にしたら、あかんて!、景子ちゃん妊娠してるのに!」
高井「景子が妊娠やと!?」
茂造「なんで知ってんの!?」
大島「あんたが言うたんや!」
茂造「ワシが言うた?」
茂造はわざわざ舞台中央最前に行き、変顔で、
茂造「なんてこった、パンナコッタ」
⑺
高井が景子の妊娠のことを大島達に確認する。
高井「大島君、ほんまか!」
茂造「ほんまや」
高井「お前に聞いてない!」
高井「幸恵、ほんまか!」
茂造「ほんまよ」
高井「声変えてもお前や!」
高井「景子、ほんまか!」
茂造「ほんとでおじゃる」
高井「公家すな!」
高井の意外性のある返しに、
シリアスな場面を演じている幸恵が素で笑い出してしまう。
茂造「…おじゃる丸のつもりやった。(苦笑)」
高井「黙っとけ!」
高井が再度、景子に尋ねる。
高井「景子、どうなんや?」
景子が頷く。
高井「あの、翔太って男か!まだ、17歳やぞ!」
幸恵「お父さん、落ちついて」
高井「これが落ちついていられるか!」
幸恵「だからって、景子に怒鳴っても何も解決しないわよ」
大島「そうです。冷静になってください」
高井が景子に対し、
高井「どうするつもりや?」
茂造が可愛らしい声で、
茂造「産む」
高井「…」
高井が景子に対し、
高井「許さんからな!」
⑻
騒ぎを聞きつけ、診察室から北代医師が現れる。
北代「何かありましたか?」
高井「景子が妊娠したかもしれないんです」
高井「検査をお願いできますか?」
北代「分かりました。こちらへ」
景子が診察室通路に向かい、なぜか茂造も付いていこうとする。
大島「行かんでええ!」
大島が茂造を引き止める。
⑼
高井「頭を冷やしてきます」
高井が院長室に向かおうと、上手端通路に消え、
幸恵も心配して付いていく。
茂造「冷やした方がええと思うわ。…顔、腫れてるから」
大島「顔は、」
大島・茂造「もともと!!」
大島のツッコミに合わせる、茂造。