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⑴
裕とアキコが二人で居ると、
役柄『借金取り』、青スーツを着た奥重(奥重敦史)が現れる。
奥「邪魔すんでー! 」
裕「邪魔すんやったら、帰ってー!」
奥「あいよー!」
奥重が去っていった。
(戻って来ず)
⑵
役柄『お金持ちの男』、白スーツに金ネクタイをした伊賀(伊賀健二)が現れる。
伊賀は等間隔で100万円の札束を床に置きながら、旅館に入ってくる。
裕「あの…何してるんですか?」
伊「マーキングです」
伊「帰れるように」
裕「…?」
伊「私はこういう者です」
と、内ポケットから名刺ではなく、一万円札を取り出し、裕に渡す。
裕「お札やないかい!」
⑶
伊「単刀直入に申し上げますが…」
伊賀が用件を切り出そうとした時、
借金取りの奥重が、伊賀が床に置いた札束を拾いながら現れる。
伊賀はその様子を見て、焦る。
伊「僕が帰られなくなるでしょ!」
伊賀が奥重に問う。
伊「どっから、拾ってきた!?」
奥「…富田林から」
伊「帰られへんやないか!」
ア「お金あるんやし、タクシー使ったら帰れるでしょ?」
伊「…そんな手がありましたか。(苦笑)」
⑷
伊賀が裕達に対し、
伊「こんな奴(=奥重)は放っておいて、話がしたいんです」
『こんな奴』と言われた奥重は居場所を失くし、
旅館ロビーの下手奥端に下がり、存在感を消して、場面をただ見守る。
⑸
伊賀が自己紹介する。
伊「祇園カンパニーの伊賀と申します」
伊「単刀直入に…この旅館を売っていただけないでしょうか?」
裕「父親から受け継いだ大切な旅館です」
裕「売るわけにはいきません」
新喜劇で聞き慣れた台詞に、伊賀は、
伊「言うと思った」
伊「お金なら幾らでもあります」
伊賀は、「アッ アッ」と言いながら、
内ポケットから次々と一万円札を出し、床に散乱する。
裕「『アッ アッ』って、今のなんですの!?(苦笑)」
素でネタに気づいていない、裕。
伊「…カオナシです。(苦笑)」
裕「…」
裕「本当に、すみません」
素っぽく反省する、裕。
進行に影響が無いように、
アキコがさり気なく、落ちた一万円札を片付ける。
⑹
裕「とにかく、お金の問題じゃないんです!」
裕「旅館は売りませんから!」
伊「分かりました。少し、待ちます」
伊「ただ、次来た時、売らなかったら、こうなります」
と、一言セリフのボックスから短冊を取り出す。
伊『ほらっ、祭りだよ』
伊「…」
伊「良く、考えておいてください」
伊賀が去っていった。
⑴
裕とアキコ、
そして、旅館ロビーの下手奥端に居る奥重、三人。
自分の出番と奥重が動こうとした、その時、
岩橋の叫び声が客室通路から聞こえてくる。
岩「大変なことになったー!」
岩橋は人間の顔に戻ったが、今度は両目が飛び出ている。
(飛び出した目の小道具を目で押さえている)
奥重はまた、旅館ロビーの下手奥端に行き、存在感を消して待機する。
⑵
そこに、役柄『警官』の兼光(プラス・マイナス兼光)が現れる。
アキコの電話を受けて、旅館にやってきたのが兼光のよう。
兼「どうも、富田林警察の兼光です!」
兼「『面接中』に逃げた容疑者を追い掛けてきました!」
正しくは『取調中』・『弁護士の接見中』等と思われるが、
⑶
兼「逃げた容疑者は、変なカプセルを売っているんです」
兼光は岩橋を見て、
兼「被害者の方ですね?」
裕「顔が馬になった後、今度は目が飛び出して…」
⑷
兼「犯人の口癖は…」
と、一言セリフのボックスから短冊を取り出す。
兼『きつねうどん、買うてこい!』
微妙なチョイスになってしまい、
兼光はその場に居づらくなったか、
拳銃の発射音と悲鳴、二つの効果音を立て続けに出す。
『バンッ バンッ』
『キャーッ!』
兼「犯人は向こうか!?」
兼光が舞台上手奥の通路に消える。
岩橋が猫の鳴き声等、効果音を好き勝手に押していると、
一時的に機械の調子がおかしくなり、
小田和正『言葉にならない』が逆再生され、
1960年代末期のサイケデリック・ロックのように、カッコ良く聞こえる。
裕「この旅館、どうなってんねん!?」
⑸
そこに、チャラ男・大島が現れ、
裕に人参を渡す。
大「ばぁい!」
大島が去っていった。
裕「さっきから、あいつ、何なん!?」
⑹
岩橋が何かを思い出す。
岩「馬に餌やるの、忘れてた!」
岩橋は、裕が手に持つ人参を奪い、パーキングに向かった。
⑺
アキコが裕に、
ア「番頭さん、ちょっと大事な話があるんやけど、奥いいですか?」
アキコと裕が舞台上手奥通路に消える。
アキコの悪巧みで、