第一章 現代の国際秩序-主権国家と自由主義
1 われわれは、いま、どんな時代にいるのか
(紛争当事者の)交渉術の世界では、お互いの「立場」を否定することなく、水面下で双方の「利益」の調整を図ることが、基本的な考え方となる。「立場」と「利益」を誤認したり、混同したりすると、まとまる交渉もまとまらないということである。
※「立場」…日本政府は、尖閣諸島の領有権に関して問題はないとの立場であり、尖閣諸島の実効支配を維持して中国に対して領土問題で譲歩しないとの利益を有する。
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2 不安定でも維持されるべき秩序
現代世界の国際秩序とは、国民国家の原則が、普遍的に適用された秩序である。・・・それらの国民国家一つひとつは、いずれもとりあえず地上の最高権威のひとつであり、排他的な統治権をもっているとされる。この世界共通の国民国家による分割統治の制度こそが、現代世界に特徴的な秩序をつくりだしている。
主権国家体系としてのウェストファリア体制の神話
国際政治学には、「ウェストファリア体制の神話」と呼ぶべき「物語」が存在してきた。1648年のウェストファリア条約によって主権国家が生まれ、その時以来、主権国家の国際体系が絶対的な物であり続けているという「物語」である。
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孤立主義としてのモンロー主義の神話
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「モンロー主義=孤立主義」との理解は、19世紀に存在していたのはヨーロッパ国際社会だけであり、19世紀までは、アメリカは無色透明で弱々しく、西半球には真空地帯のようなものがあったにすぎない、あとは後に国力をつけたアメリカがあたかもひとつのヨーロッパ列強のようにヨーロッパ国際社会に参入してきただけだ、といういびつな歴史観・世界観につながっている。・・・
つまり、モンロー・ドクトリンは、単に「孤立」することを目的にしていたのではなく、(まず)西半球世界において「アメリカン・システム」を確立することを目的にしていた。
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「孤立主義としてのモンロー主義の神話」は、「主権国家体系としてのウェストファリア体制の神話」とあわさって、「ヨーロッパ中心主義」の国際政治史の理解をつくりだしてきた。
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「モンロー主義の神話」を「ウェストファリア体制の神話」とあわせて排していくならば、アメリカという非ヨーロッパ国際秩序圏(西半球世界)の覇権国が、20世紀の国際秩序に非ヨーロッパ的なインパクトを与えた事実を見ることができるようになる。
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現代国際社会秩序の不安定性
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20世紀後半の脱植民地化の流れのなかで独立した新興諸国のほとんどは、そしてとくに今日でも武力紛争などの不安定な統治にあえいでいる諸国は、歴史的な裏づけのない政治共同体の枠組みを受け入れざるをえなかった国々である。
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しかし解決策は国境線の引きなおしなどによってはもたらされないだろう。なぜなら矛盾を露呈しているのは、単なる国境線の引きかたのまちがいによってではないからだ。国境をどこに引くか、ではない。国境によって地表を分断して国民国家群が普遍的な分割統治をする、というしくみそれ自体の効果が問われているである。