あとがき

「歴史の終わり」をめぐるアメリカの覇権についての誤解

 現代のリベラルな民主主義は、自由と平等の「双子の原理」にもとづいている。双方は永続的な緊張状態にある。平等の原理は、個人の自由を制限する強力な国家の介入なしには最大限に実現できない。自由の原理が無制限に広がれば、必ずやさまざまな有害な社会的不平等を招く。したがって、リベラルな民主主義は、自由と平等の間のトレードオフが不可欠になる。現代のヨーロッパ人は自由を犠牲にして平等を好む傾向があり、アメリカ人は個々人の歴史に根ざした理由でその逆を好む傾向がある。

 

日本人のなかにも、(自分以外の)ひとびとの平等を好む傾向のひとがいるようですな、近年は。

平等を好むのはけっこうだが、ひとに押し付けてはいかんよ。

 

日本人には、この辺の塩梅が実感としてわかりにくいのでは?

あとがき

経済発展と民主主義体制の進展の末に生まれる文化の問題

 リベラルな民主主義の社会で暮らしたいという願望は当初、社会発展に対する願望ほど普及していなかった。事実、今日の中国やシンガポール、ピノチェト将軍統治下のチリなど、社会が発展して近代化が進んだ権威主義体制は数多くある。しかし、経済発展の成功と民主主義体制の成長のあいだには強い相関関係がある。

 

この相関関係の強さには多くの理由がある。国民一人当たりの所得が約六千ドルのレベルを超えると、国はもはや農耕社会を脱却したといえる。そこでは財産を所有する中流階級、複雑な市民社会、より高いレベルのエリート教育や大衆向けの教育が生まれるだろう。こうした要素がそろえば、人々は民主的な社会に参加したいという願望をもちやすくなり、したがって、社会の底辺から上層までが民主的な政治体制を求めるようになるのだ。

 

 

中国やシンガポールがこの例外になっている理由をしりたいところ。

第四章 動機-食糧と性

自給自足のための資源-狩猟のための縄張り、水、住まい、原材料

p118

いったん圧力をかけて望みどおりの結果が得られれば、外部の集団が再び圧力をかけてくるだけでなく、いっそう圧力を強めてくる可能性があるからである。これらの点を考慮すると、資源をめぐって戦うという戦略は、その時点で争いの元となっている対象物の行方だけではなく、将来にわたって外部の民族との関係のパターンを決定づけるものでもある。自らの力を用いて戦いのために立ち上がることは、将来における紛争の発生を抑止することに他ならないのである。戦争とは、実際にいかに戦うかということ以上に、いかに抑止するかということである。戦闘という行為があまりにも鮮烈であるために、核兵器が登場するまでこの事実があまり「はっきりと認識されなかっただけである。

 

第一章 現代の国際秩序-主権国家と自由主義

1 われわれは、いま、どんな時代にいるのか

(紛争当事者の)交渉術の世界では、お互いの「立場」を否定することなく、水面下で双方の「利益」の調整を図ることが、基本的な考え方となる。「立場」と「利益」を誤認したり、混同したりすると、まとまる交渉もまとまらないということである。

※「立場」…日本政府は、尖閣諸島の領有権に関して問題はないとの立場であり、尖閣諸島の実効支配を維持して中国に対して領土問題で譲歩しないとの利益を有する。

・・・

 

2 不安定でも維持されるべき秩序

 現代世界の国際秩序とは、国民国家の原則が、普遍的に適用された秩序である。・・・それらの国民国家一つひとつは、いずれもとりあえず地上の最高権威のひとつであり、排他的な統治権をもっているとされる。この世界共通の国民国家による分割統治の制度こそが、現代世界に特徴的な秩序をつくりだしている。

 

主権国家体系としてのウェストファリア体制の神話

 国際政治学には、「ウェストファリア体制の神話」と呼ぶべき「物語」が存在してきた。1648年のウェストファリア条約によって主権国家が生まれ、その時以来、主権国家の国際体系が絶対的な物であり続けているという「物語」である。

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孤立主義としてのモンロー主義の神話

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「モンロー主義=孤立主義」との理解は、19世紀に存在していたのはヨーロッパ国際社会だけであり、19世紀までは、アメリカは無色透明で弱々しく、西半球には真空地帯のようなものがあったにすぎない、あとは後に国力をつけたアメリカがあたかもひとつのヨーロッパ列強のようにヨーロッパ国際社会に参入してきただけだ、といういびつな歴史観・世界観につながっている。・・・

 つまり、モンロー・ドクトリンは、単に「孤立」することを目的にしていたのではなく、(まず)西半球世界において「アメリカン・システム」を確立することを目的にしていた。

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 「孤立主義としてのモンロー主義の神話」は、「主権国家体系としてのウェストファリア体制の神話」とあわさって、「ヨーロッパ中心主義」の国際政治史の理解をつくりだしてきた。

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 「モンロー主義の神話」を「ウェストファリア体制の神話」とあわせて排していくならば、アメリカという非ヨーロッパ国際秩序圏(西半球世界)の覇権国が、20世紀の国際秩序に非ヨーロッパ的なインパクトを与えた事実を見ることができるようになる。

 

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現代国際社会秩序の不安定性

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20世紀後半の脱植民地化の流れのなかで独立した新興諸国のほとんどは、そしてとくに今日でも武力紛争などの不安定な統治にあえいでいる諸国は、歴史的な裏づけのない政治共同体の枠組みを受け入れざるをえなかった国々である。

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 しかし解決策は国境線の引きなおしなどによってはもたらされないだろう。なぜなら矛盾を露呈しているのは、単なる国境線の引きかたのまちがいによってではないからだ。国境をどこに引くか、ではない。国境によって地表を分断して国民国家群が普遍的な分割統治をする、というしくみそれ自体の効果が問われているである。

 

ずっと読みたかったんだが、おもしろいな、この本は。

2009年10月初版なので、リーマンショックを受けて書かれた本。

けっこうなつかしい。耐震偽装事件とか。姉歯。この当時はお受験で、ずっとうちにいたので、見たよ、国会中継とか。

ヒューザーのこじましゃちょー、完全に悪者にされてたな。

 

第1章 格差の正体

トレードオフを否定する人々

自然科学者にも、自分の専門分野が絶対的に重要だと主張する人が多い。たとえば多くの地球科学の専門家が連名で書いた「地球温暖化問題懐疑論へのコメント」という論文は、グローバルな課題について世界の科学者や経済学者が集まって行われた「コペンハーゲン・コンセンサス」で、気候変動の優先順位が高く評価されず、感染症や貧困の問題のほうが緊急性が高いという結論が出たことを次のように批判する:

 「貧困問題か気候変動か」という問題設定は、言い換えれば「人間にとって水と食べ物はどちらが大事か」という無意味な問いに似ているように思われる。言うまでもなく、多くの食べ物は水分を含んでおり、答えは「両方とも非常に大事」でしかありえない。そして、実際に私たちがとる行動は、(自分たちの遊興費などを切りつめるなどして)なんとか両方のためにお金を用意するものだと思う。

 

す、すばらしい。。。

目先の困難と、何年も何十年、何百年もさき(かどうかもわからない)のことを、同じ土俵で考えなさい、という専門家の先生方という人種は。。。

飯のねたがかかってるんだから仕方ないか。

専門家の先生方のいうことは、レントがかかってるから注意しないとね。

正規社員やコロナやなにやら、かにやら。。。